ランドローバーの65年|Land Rover
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2015年1月21日

ランドローバーの65年|Land Rover

Land Rover|ランドローバー

ランドローバーの65年を体験

ローバーモーター社の全地形対応ビークルとして、ランド(大地)をローバー(さすらう者)といった意味もこめて生み出された「ランドローバー シリーズ1」。その誕生から65年。現在、ランドローバーは世界を代表するSUVブランドとなっている。最新の「レンジローバー」そして「レンジローバー スポーツ」の背景にあるランドローバーのありようとは? シリーズ1からプリプロダクションモデルの「レンジローバー スポーツ」までを、一気に体験した渡辺敏史氏が探る。

Text by WATANABE Toshifumi

プロスペックのマルチパーパスビークル

前身のローバーモーターが1948年に生み出した1台の四輪駆動車。その開発の緒は第二次世界大戦における小型軍用車輌の活躍にあったことは想像に難くない。車格ゆえの機動力を活かしての偵察や運搬に活躍した当時の「ウイリス・ジープ」や「キューベルワーゲン」は、戦後になると多大なインスパイアを自動車メーカーにもたらしている。

その開発過程でローバーモーターが目指したのは軍用のみならず、民生にも転用が可能な多様性を持つ、いわばプロスペックのマルチパーパスカーだった。それを称して「ランドローバー」すなわち、大陸を自在に走りまわるという意味がそのクルマには込められた。

Land Rover Series 1|ランドローバー シリーズ1

Land Rover Series 1

Willys MA|ウィリス MA

Willys MA (1941)

そんなランドローバー シリーズ1の誕生から65周年となる今年の5月に、彼らの歴史と現在とを繋ぎ合わせるイベントがイギリスでおこなわれた。前者は彼らが65年の間に生み出した数々のオフロードモデルを展示・試乗するという催し、そして後者は間もなくの発売が予定される新型「レンジローバー スポーツ」のテクニカル ワークショップだ。

頭では理解しているつもりの「温故知新」を身をもって体感させようという試みは、いかにもイギリスのブランドらしい。

Land Rover|ランドローバー

ランドローバーの65年を体験 (2)

シリーズ1の故郷を体験する

「温故」の舞台となったのはイギリス中部のウエストミッドランド州にあるパッキントン・オールドホールというマナーハウス。17世紀に当時の領主が建てたというそこは、かつてシリーズ1開発の際に、ローバーモーターが悪路用のテストグラウンドとして借用したという経緯があるという。

その呆れるほど広大な「庭」には、軍用車からラリーレイドのコンペティションカー、放水車から女王のパレードカー……と、様々な形で活用されてきた歴代のランドローバー車が、さながら模型のジオラマの実写版をみているかのような、きめ細かい演出と共に展示された。

Land Rover The Falklands Commando|ランドローバー フォークランド コマンド

スタンレー空港で使われたレンジローバーベースの消防レスキュー車(1988)

camel_trophy_lis

過酷を極めるラリーレイド キャメルトロフィーでは、ランドローバーが専用セッティングをほどこした車両が1981年から1998年まで使用された

どうせ並べるのなら単に博物館的にではなく、時代性やライブ感を徹底的に追求する。

ランドローバーが重要なブランド ロイヤリティとしているのが「エクスペリエンス」、つまり体験だ。こういった展示や、或いは試乗イベントひとつとっても感じるのは、体験することにまつわる運営側の凄まじい執念である。

ランドローバーの美学

今回のイベントでは、この敷地内に用意された約3kmのオフロード周回路で、歴代のモデルたちを試乗するという機会にも恵まれた。

シリーズ1からその歴史を数えるように乗ってみるとわかるのは、ランドローバーのクルマに貫かれた美学だ。

試乗車の中にはフォークランド紛争の際に納入されたとおぼしきトラックもあったが、たとえ軍用車であろうとも路面からステアリングに伝わるフィードバックが優しく、望外に悪路での乗り心地が柔らかい。

もちろん絶対的な悪路走破性を基盤にはするものの、その所作はガツガツと事務的であるよりは、ふわりと優美であるに越したことはない。

乗員の疲労度までを考慮したかは定かでないが、そういう想いがなければこうはならないだろうという上質さを持っている。

Land Rover Series 3 Lightweight|ランドローバー シリーズ3 ライトウエイト

Land Rover 1/2 ton Series III(1983) ヘリで運べるように軽量化した軍用車両

初代レンジローバーから直近までのモデルに共通する、目の前に絨毯が敷き詰められていくかのようにしなやかなランドローバーのライドフィールというのは、実はシリーズ1からの延長線だったのではないだろうか……と、そんな想いに至った。

Land Rover|ランドローバー

ランドローバーの65年を体験 (3)

アルミニウムの最前線

そして旧きにたっぷりと触れた後にみせられたのは、ランドローバーにとって最新のプロダクトとなる「レンジローバー スポーツ」だ。

次期「ディスカバリー」のメカニズムを先取りすることになるのか……

という下馬評を覆し、昨年登場した「レンジローバー」のメカニズムを踏襲することになった新型は、「イヴォーク」を従えつつレンジローバーをより象徴化するために、確たるセンターを担うに相応しいデザインとメカニズムを与えられたとみてとれる。

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー Land Rover Range Rover Sport|ランドローバー レンジローバー スポーツ Land Rover Range Rover Evoque|ランドローバー レンジローバー イヴォーク

Land Rover Range Rover Sport|ランドローバー レンジローバー スポーツ

そのキーテクノロジーともいえるアルミモノコックボディの生産工場は、ランドローバーの原点ともいえるシリーズ1が生み出されたイギリスのソリハルにある。

50パーセントがリサイクルというアルミ材をリベットと接着剤を用いて組み付ける、つまり溶接工程を持たないそのラインは環境負荷も低いだけでなく、適切な温度と音量が保たれるなど労働環境的にもクリーンなものだった。

ここ数年、ヨーロッパのメーカーは生産技術の革新に多大な投資をおこなってきたが、ジャガー&ランドローバーのボディ製造工程は群を抜く先進性を備えているといえるだろう。

Land Rover|ランドローバー

ランドローバーの65年を体験 (4)

レンジローバー スポーツ プリプロダクション モデルに試乗

そんなソリハルから生み出される新型レンジローバー スポーツ、そのプリプロダクションモデルにも短時間ながら試乗することが叶った。

伝統を守り通したレンジローバーの佇まいに、新世代のレンジローバーブランドの流れを強烈に決定づけたイヴォークのモダニズムを巧くアレンジしたそれは、3列シートの利便性をも叶えたパッケージを感じさせない精悍さに満ちている。

レンジローバーと基本骨格を共有しながらサスペンション周りを専用設計とし、オンロードでの運動性を高めるジオメトリーを採るなど、約3/4の部品を専用設計としたという、あたらしいレンジローバー スポーツは、ハンドリング性能において独自の世界を切り拓いていた。

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低~中速コーナーでのニュートラルな回頭性、高速コーナーでの安定感など、レンジローバーの特性が一層強化された上で、タイトターンの連続でも抜群の切り返しの軽さをもって車体がキビキビと反応する。

マスや重心を感じさせないようにロール量やスピードもよくコントロールされたサスは、シャープな操舵応答性との相性も抜群ないっぽう、常速域では締め上げたレートの影響か若干の硬さを感じるが、生産型では一層のリファインがくわえられるはず。

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rangerover_Chile_V8Supercharged_019s

テストコースでは一気に250km/h付近に達する強烈な動力性能も含めて、スポーツという名に恥じないトータルパフォーマンスをしかと見せつけた。

伝統をいかなる加減で現代に昇華させるべきか。その判断においてイギリスのセンスが抜群なのはご存じの通りだ。そうわかっていながらも、レンジローバー スポーツの落としどころの巧さには唸らざるを得ない。

自らのブランドの価値を適確に判断し、期待値のど真ん中にバシッと球を通す見事なオペレーション。恐らくは現行型と大きくは変わらない価格帯に並べられるだろう新型レンジローバー スポーツは、65周年を迎えるブランドのあたらしい顔となる票田を得ることになるだろう。

           
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