フォルクスワーゲン グループが思い描く自動運転時代とは|Volkswagen
Volkswagen|フォルクスワーゲン
フォルクスワーゲン グループの自動運転研究部門責任者
ヘルゲ・ノイナー博士インタビュー
世界中の自動車メーカーが開発競争を繰り広げる自動運転技術。アウディは今年7月、世界で初めてレベル3の自動運転機能を市販車に搭載すると発表した。その開発を担当したのが、同ブランドの所属するフォルクスワーゲン グループ自動運転研究部門の責任者であるヘルゲ・ノイナー博士だ。11月14日から日本で開催される政府プロジェクト「SIP-adus(戦略的イノベーション創造プログラム・自動走行システム)2017」のゲストスピーカーとして来日したノイナー博士に、「フォルクスワーゲンが考える自動運転」の話を聞いた。
Text by HARA Akira
所有から共有へ、製造業からモビリティサービスへ
個別のお話をうかがう前に、まずはノイナー博士から自動運転に関する概論の説明があった。
フォルクスワーゲンは2000年初頭から自動運転の開発を始めまており、自動運転が可能になると、
1、人間の安全のため、事故の数を減らすことができる
2、燃費や電力の消費率などは、自動運転の方が効率が良い
3、社会インフラとして、交通渋滞が緩和する
4、ユーザー視点として、運転していない時間を自分のために活動できる。つまり快適性が向上する
といったベネフィットを挙げた。
自動運転には、レベル0からレベル5までの段階があり、今日の自動運転と呼ばれるクルマはレベル2を実現している。レベル2では車両のコントロールはクルマ、監視は人が行うという内容だ。
レベル3になると、ドライバーがいても、システムの監視はある場面ではクルマ、ある段階では人が行う。この際、重要なのはそれぞれのコントロールの領域で、ボーダーラインをはっきりさせることが必要となってくる。博士たちは2015年ごろからのテストドライブによって、その受け渡しのためのヒューマンマシンインターフェイス(インジケーターの色や音響など)を研究してきたという。
フォルクスワーゲンは、先のフランクフルトモータショーで、「Sedric(セドリック)」というレベル5に相当する完全自動運転車両を公開した。外観も内装も今までの車とまったく違い、ハンドルも無いのが特徴だ。このセドリックは、これまでとは異なるビジネスモデルとして開発されたという。つまり、消費者がクルマを買う、所有するというモデルから、共有モビリティサービスとして輸送に使う、タクシーのように呼び出して使うというビジネスモデルを前提としているのだ。
博士たちはとしては、レベル4やレベル5などの自動運転の段階には、ステップバイステップで行くのか、革新的に一足飛びに到達するのか、それはカスタマーや技術の課題、世界の状況などの複雑な要件があり、どちらが正しいというのではなく、並行して行われるのではないかと考えているという。
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フォルクスワーゲン グループの自動運転研究部門責任者
ヘルゲ・ノイナー博士インタビュー (2)
モビリティ サービスへの積極的な参入の理由
――自動車界のあるレジェンドが、20年後には従来のクルマにサヨナラのキッスをしないといけないと語っています。また、一方ではカルロス・ゴーン氏(ルノー日産アライアンス会長兼CEO)などはそうではないと表明しています。フォルクスワーゲンはどう考えているのか。
重要な質問ですね。さまざまな市場があるので、グローバルレベルでの答えはありません。しかし、自動車は大都市ではモビリティ サービスに移行する。それ以外では相変わらずマニュアルドライブが残る。ただ、フォルクスワーゲンはトレンドをつかんでいます。改革を起こそうと思っており、クルマの製造業者から、モビリティサービスの会社への変革を目指しています。
――自動車メーカーが、車を所有しない、台数が減る、といったビジネスモデルを推進する理由をもう少し聞きたい。
モビリティ サービスに移行すると、たくさんの人が乗るので1台の走行距離が伸びます。耐久性があるものが必要ですが、交換する頻度も多くなります。また、交通渋滞や事故軽減など、社会問題解決のソリューションを作るという自動車メーカーとして果たすべき役割があるのです。
――大都市での自動運転について。例えばパリの凱旋門のランナバウトには12本もの道路が流入しています。そこで事故を起こさないようなハードウェアが本当に実現できるのかどうか。
熟練したドライバーより上手な運転ができるシステムを開発しないと市場には出しません。それ以下なら絶対に出さない。数百万kmに及ぶ走行データやシミュレーションで、自動運転のコンセプトが人間よりベターかどうか、それが実現可能かどうか、検証しながらやっています。
――量子コンピューターなどを開発に使用していると聞いているが。
量子コンピューターは演算速度が非常に速いので、将来的にAI(人工知能)システム開発などに使用します。ただし、それがないと自動運転のシステムが実現できない、とは思っていません。
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ヘルゲ・ノイナー博士インタビュー (3)
自動運転到来後のブランドの差別化とは
――2020年には航続距離600kmのEVにレベル4の自動運転を搭載し、「ゴルフ」並みの価格で販売すると聞いているが。
私は商品の責任者ではありませんが、約束したものは実現しないといけません。そのために投資を行っているのです。Eモビリティはフォルクスワーゲンの全社的戦略であり、電気自動車に自動運転技術を搭載するのは当然です。開発にコストはかかりますが、私どもは大きな会社なので規模という強みがあります。IT系やサプライヤーなど、スタートアップの企業とソリューションを見つけ、コストは低くしたいと考えています。
――自動運転の規制は国によって違うと思いますが、フォルクスワーゲンから各国政府に働きかけなど行っているのか。
国によってさまざまな規制はありますが、全体的に見ると共通点が見出せます。基準や標準化については独政府だけでなく、国際市場やグローバルでの共通認識として各国政府に働きかけをしています。
――新型「A8」へのレベル3搭載など、アウディが他に先行している理由は。
アウディはプレミアムブランドで、ユーザーに快適なものを提供いたします。A8に搭載されたレベル3は交通渋滞などでイライラしないベストなシステムです。一方でグループ内のブランドにはそれぞれのDNAがあり、例えばポルシェは素晴らしい加速性能を持っています。全体で基本の技術コンポーネントを適用しますが、それぞれのブランドに必要なものを再定義し、コアなものを使っていく必要があります。
――自動運転の社会になると、それぞれのブランドの差別化が困難になるのでは。
最初に出てくる自動運転のソリューションは、限定した地域のみに出す予定です。そのため、初めは所有型とモビリティ サービス型が共存します。ただ、これまでの性能や馬力を重視する考え方から、車内でどんな体験ができるか、どんな快適性が味わえるのか、といったように、クルマに対する見方は変わっていきます。自動運転車の登場で、すべてのブランドに対して再検討が始まっています。それをしっかりと位置付けることが必要です。
完全自動運転が普及した時代には、フォルクスワーゲンは自動車製造業者からモビリティサービスの会社へと変革していくというなんとも衝撃的な話。他のメーカーはどう生き残るのか、他のブランドはどうなっていくのか。興味は尽きないところだ。