CES 2016リポート 後編 自律走行車、成否の鍵は「エモーション」
CES 2016リポート 後編
自律走行車、成否の鍵は「エモーション」
毎年1月にラスベガスで開催されるコンシューマー エレクトロニクス ショー(CES)。その名前のとおり家電がメインのショーであるが、世界が注目する最先端の電子技術を披露する場ということもあり、近年は電子化が進む自動車業界も積極的に出展し存在をアピールする。その様子を、前後篇にわけて大矢アキオ氏がリポート。
Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA
グーグルは自動車を造るのか
世界最大級の家電・エレクトロニクス見本市「CES」は、業界関係者およびジャーナリストに向けたプロ向けイベントである。期間中、開催地であるラスベガスへ向かう飛行機の乗客は、ほぼすべてCESビジターといってよい。
筆者がニューヨークから登場したアメリカン航空機もしかりだった。隣に座っていたのはイスラエル系のプロダクトデザイナーだった。彼は手がけているウエアラブル端末について触れ、「市場には400ドル以上の商品が多いが、実はユーザーが投じて良いと思っている金額は200ドル程度が限界」という。そのため、デザインにも少なからず制約が生じると教えてくれた。
やがて彼の話題は近年のCESにおけるスターである「自律走行車」に飛んだ。彼は「グーグルが自律走行EVで自動車業界に進出間近というが、彼らが自身で生産設備をもつことはないだろう」という。
EVの構造は内燃機関より格段にシンプルで、パーツのサプライチェーンも簡略にできる。しかし、自動車産業が蓄えたヴィークル ダイナミクスや星の数ほどあるレギュレーションのノウハウを習得し、かつ重厚長大な前世紀的生産設備を彼らが抱えるのは、たしかに考えにくい。
ちなみに、今回は開幕前「グーグルがフォードと自律走行車で提携か」といった憶測がメディアをにぎわせたが、実際にフォードがCESで提携先として発表したのはアマゾンで、アマゾンの音声認識システム「エコー」を介した車とスマートホームの連携などにとどまった。
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自律走行車、成否の鍵は「エモーション」 (2)
スマートシティにおけるゲームチェンジャー
その自律走行車は、会期中のディスカッションでも大きく取り上げられた。オバマ米大統領の右腕としても知られ、ゲストとして招かれたアンソニー・フォックス運輸長官は、安全性に配慮しながら、自律走行や完全自動駐車の市場導入に向けて法整備を進行中であることを明らかにした。
そのディスカッションでは冒頭で、「ミレニアム世代」といわれる若者たちが両親世代の憧れだった郊外住宅や自動車を捨てて都会志向にあり、今日世界人口の9割が都市部に住んでいることなどが紹介された。
そのうえで都市環境をより良いものにするため、自律走行車をはじめとする効率的なモビリティが新時代を切り拓くとしてトークが展開された。やがて出席者一同は「次世代の自動車はこれからのスマートシティにおいてゲームチェンジャーになる」という共通見解に達しながらも、各自興味深い意見を述べた。
自律走行車の研究開発がどういう地点にいるかを明確に示したのは、ボッシュのV.デナーCEOだ。「10年以内には、まだ市街地でも完全運転可能になることはないだろう」としながらも、2018年には無人による完全自動駐車、2020年には高速道路の入口から出口までの自律走行が技術的目標であることを明らかにした。
いっぽう、今後自動車メーカーとエレクトロニクスメーカーのコラボレーションが進むと思われるなかで興味深い見解を示したのは、モービルアイ社の共同創業者A.シャシュアCEOだ。同氏は「家電の世界は、たとえ完璧でなくてもソフトウエアのアップデートでフォローできる甘えがあった。対して自動車は最初から完璧な製品でなければ、顧客がすぐに怒り始める。家電メーカーは、自動車の世界から学ばなければならない」と指摘した。
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自動運転の普及への鍵
ディスカッションの内容から一旦外れるが、CES 2016に出展した自動車メーカーやサプライヤーのスタンドを見ていてわかることは、「これからもクルマのパーツは、まだまだ高性能化・高度化してゆく」ということだ。
アウディは今年中に有機ELを使用したテールランプを生産車に採用する予定だ。マトリックス レーザー ヘッドライトがそれに続く。いずれもポテンシャルは従来品に比べて格段に優れ、かつコンパクトゆえにデザインの可能性を大きく広げる可能性がある。しかし、あまりにハイテクノロジーの塊で、筆者などは今から当て逃げで壊されるのが怖くなるのが正直なところだ。
「そのようなユーザーのために」というわけではないが、BMWは今回のCESで「BMWコネクテッド」の一機能を公開した。スマートフォンの画面を通じて遠方に駐車した自分のクルマを360度画像で監視でき、かつ当て逃げを感知すると自動通知してくれるというシステムである。
いずれにせよ、ぶつけられたら規格式の丸型ヘッドランプを取り寄せて、ガレージの片隅で自らルノー4を修理していた時代は遠い過去になりそうだ。
思い出したのは、昨夏筆者が訪れたポーランドのシトロエン2CV世界ミーティングである。約6,000人が集まったそのイベントで、ある参加者は2CVの魅力を「構造がシンプルだから、壊れたってなんでも自分で直せる。このクルマなら地の果てまで走っていけるのさ」と顔を輝かせながら筆者に語った。彼らがマジョリティとは言わないが、四半世紀前に生産終了したクルマが、今でも人々を惹きつけているのは驚きに値する。
前述のシャシュア氏は「批判は承知だが」と前置きした上で、自律走行車がゼロアクシデントを目指してノロノロと控えめにばかり走行するようでは、誰も興味を抱かないだろう。それよりも事故件数を段階的に減らしながら、あるべき姿を模索していくほうが大切だ」と述べた。
前述のシャシュア氏は「批判は承知だが」と前置きしたうえで、自律走行車がゼロ・アクシデントを目指すノロノロと控えめにばかり走行するようでは、誰も興味を抱かないだろう。
それよりも事故件数を段階的に減らしながら、あるべき姿を模索してゆくほうが大切だ」と述べた。
自律走行車をはじめとする次世代の成否は、完成度の向上とともに、従来車のエモーショナルな部分をいかに引き継ぐかが鍵となりそうだ。そしてこれからもCESは、自動車メーカーがどのような方向へ未来のクルマを導こうとしているのかをチェックする、最高のステージであり続けるに違いない。