BMW 335iクーペ|ビーエムダブリュー|第1回 (前編)|「いいチェロというのは、いいエンジンと同じである」
第1回:BMW 335iクーペ(前編)
「いいチェロというのは、いいエンジンと同じである」
クルマの是と非を問う「ジドウシャ是是非非論」。第1回は、BMWの売れ筋「3シリーズ」に追加された2ドアクーペ「335iクーペ」をピックアップした。クルマを語るコラムなのに、なぜかチェロの話からスタート!
文=下野康史
チェロ弾きは試弾会に通って
コンピュータのスピードが速くてイヤだという人がいるだろうか。
いきなりクルマの話でなくて申し訳ないが、そんな人はいないと思う。通信速度が速すぎて、ついていけない、なんて。そういう人は、おそらくハナっからコンピュータを使っていないはずである。
ぼくもヒドいコンピュータ音痴だが、このとおり、必要に迫られて使っている。ユビキタスの未来と、アナログの昔と、どちらがいいか、どちらが好きかと聞かれたら、いまでも後者のほうがいいし、好きだと答えるかもしれないが、そんな人間ですら、パソコンを買い替えて、新しいOSを使い始めたときには、ハイスピードをはじめとする新しさに感動するものである。
クルマとはますます関係ないようだが、ぼくはキャリア5年のヘタクソなチェロ弾きである。ヘタなくせに、モノは人一倍好きなので、ひところ、よくチェロの試弾会に行った。大手の楽器店が主催するもので、古今東西の弦楽器をその場で弾けて、買える。自動車ディーラーの新車試乗会のようなものである。
用意されているのは、ヨーロッパか中国製の新作チェロがほとんどだが、19世紀物くらいのビミョーなオールド楽器なら、イベントの目玉として、うやうやしく出展されていたりする。お付きの店員がフルアテンドするので、敷居は高い。
そういうところへ、ウェルナー教則本の第1ポジションを始めたばかりのオッサンが、“マイ弓”をもって参上するのだから、われながら図々しい。オッ、エルガーでも弾くのかなと思わせといて、「浜千鳥」。
チェロで言えば、エンジンで言えば
でも、おかげで、いろんなチェロに触れることができた。その経験で言うと、いいチェロというのは、いいエンジンと同じである、と思った。だんだん、BMWに近づいてきたぞ。
開放弦を弾くだけでも、「ワッ、すげェ!」と思わせる楽器がある。
それは要するに、スピードが速いのである。ちょっとしか弓を動かしていないのに、わずかしか弓を当てていないのに、すぐさまパンッ!と大きな音が立ち上がる。遅れがない。ぼくが使っているような安いチェロと比べると、弓を動かす前から、もう音が出始めているような気さえする。
トラックとスポーツカーの違いである。専門的には「“発音”がいい」と言うのだが、エンジンで言えば、まさにスロットルレスポンスがいいのである。感度のいい女性、のようなことでもあるかもしれない。
BMW 335i Coupe|ビー・エム・ダブリュー 335i クーペ
全長×全幅×全高=4590×1780×1380mm
ホイールベース=2760mm
車重=1620kg
駆動方式=FR
3リッター直6ターボ(306ps/5800rpm、40.8kgm/1300-5000rpm)
トランスミッション=6段オートマチック
車両本体価格=701.0万円