Chapter 5|DS3 × Cuisine 成澤由浩インタビュー
Car
2015年5月12日

Chapter 5|DS3 × Cuisine 成澤由浩インタビュー

CITROEN DS3|シトロエン DS3
DS3 ×Cuisine──『Les Créations de NARISAWA』シェフ 成澤由浩

作り手の哲学を反映することこそ“いま”の表現(1)

フランス料理のクラシックを基本としながら、唯一無二の感性をもってつねにあたらしい料理を提案しつづける『Les Créations de NARISAWA』成澤由浩シェフ。フランスや日本といった国の枠を飛び越え、世界中からその才能を評価される彼の思想が、シトロエンDS3の哲学とオーバーラップする。

文=小川フミオ写真=五十嵐隆裕

フランスには物づくりにおける独特の時間の概念がある

フランス人のおもしろさ。それはつねに先に進むところにあるといえるかもしれない。後ろを振り返らず、デザイン的にあたらしいことへ挑戦するシトロエンのクルマづくりしかり。料理もまたおなじだ。

フランス人のシェフたちは「自分のオリジナリティを活かすことが大事」という。ややもすると、日本の老舗料理店が「まるで博物館みたい」と揶揄されてしまうことも。そんななかで、フランス人をはじめ、外国のゲストがひきもきらず訪れるレストランがある。東京・青山の『Les Créations de NARISAWA(レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ)』。ここで供される創造性溢れる料理は、まさにアンチレトロといえる。

『Les Créations de NARISAWA』を率いる成澤由浩シェフの料理は、自由闊達、かつ創意に満ちている。2003年に青山に同店を開店して以来、日々料理をきわめていくことに専心してきたシェフが作りあげたのは、調理でも見た目でもほかとは一線を画す品々。ビシッとプレスが効いた厚いテーブルクロスに皿が置かれるたびに、ゲストからは驚きの声が上がる。

サタンがその芳香に引き寄せられた、ミルトン描く「失楽園」の鮮烈な光景を彷彿させる野菜のアシェット(盛り合わせ)、あるいは真っ黒い岩石?と思いきや、ふたつに切ると真っ赤なジューシーな肉とわかるステーキ、といったぐあい。

見た目は独創的、口に入れればおいしさは創造的。見たことのない料理を支えるのは先人が試したことのない料理法。技術力で従来から定評のある成澤シェフ、ひとつのところに安住するのをよしとしない。あたらしいことへの挑戦が、今の世界的評価を作り上げた。

――あたらしいことと古いこと、というと何を思いますか。

変わるべきところは変わるけれど、コアは残っている、ということでしょうか。とくにヨーロッパにそれを感じます。クルマにしてもファッションにしても。時代に合わせて変化しますが、譲れないところは大事にします。それと時間でしょうか

シトロエンDS3×成澤由浩|02

――時間ですか。

やはり欧州の話ですが、独特の時間の単位がありますよね。たとえばワイン。フランスのワインはできて1、2年で早飲みするのではなく、10年単位で熟成させる。長い時間をかけて完成させるんです。単純にあたらしいとか古いとかでは割りきれない、ものづくりにおける時間の概念は参考にしたいものです。

シトロエンDS3×成澤由浩|05

――それを料理にあてはめるといかがでしょうか。

日常の料理は、価格的負担が少なくて、多くのひとが満足するオーソドクスなもの、つまりその土地で昔から食べられてきたものが主流となることは、いまも世界中どこへ行っても変わらないでしょう。ここにはあたらしさはあまりありません。そのいっぽうで、非日常的な料理、いわゆるハレの日の料理には、驚きをふくめたあたらしさが求められることも。そこには昔といま、ふたつの時代が入っているともいえます

CITROEN DS3|シトロエン DS3
DS3 ×Cuisine──『Les Créations de NARISAWA』シェフ 成澤由浩

作り手の哲学を反映することこそ“いま”の表現(2)

嫌われることを恐れずに突き進む料理人の勇気

──その場合“いま”とはどういうことでしょうか。

一概にいえるものではないんですが、たとえばクルマでは、誰もが運転できる大衆的なクルマがあって、そちらは誰もが乗れるような作りになっています。いっぽう、上のほうには、運転のしやすさとか、価格的な一般性とはやや無縁のモデルがあります。ときとして、こちらのほうがブランドの哲学を象徴するようなモデルだったりします。料理の場合でも、上とか下ということではないのですが、作り手の哲学を反映する料理があります。それが“いま”の料理ではないでしょうか。

――作り手の哲学ですね。それはいかなるものでしょうか。

僕が重要だと考える料理の要素を分類すると、似たようなものがほかにない、驚きがある、発見がある、ということになると思います。もちろんおいしいことは重要なのですが、万人になじみあるおいしさでなくてもいいでしょう。

――それはフランス料理の哲学ですか?

フランス料理はフランス人が食べる料理でなく、なんらかのかたちでフランスというフィルターを通過したインターナショナルな料理だと思っています。ここで言っているのは、もっと作り手のオリジナリティが高い料理のことです。

――フランス料理をベースにしながら、もっとオリジナリティのある料理ということですか。

僕の料理はフランス料理かと聞かれたら、そうではなく、ナリサワ料理と答えるでしょう。いかに自分の独創性を入れるかに腐心しているからです。誰かのマネをしていない、というのがもっとも重要だと思います。だからこそ、世界中からこの青山のレストランまで、さまざまなゲストが足を運んでくれるのです。

シトロエンDS3×成澤由浩|06

シトロエンDS3×成澤由浩|08

――ここでしか食べられない、という独創性が評価されていますね。

フランスでの修業からもどってきた直後は、フランスと時差のない料理を作ることに一所懸命でした。でも、自分がゲストだったらどうだろうと、あるとき考えたのです。フランスで食べられる料理だったらフランスで食べればいいのであって、僕のレストランに来るからには、そこでしか食べられないものをゲストは求めていらっしゃるだろうと

――だから料理ガイドブックの存在理由があるわけですね。

仮にいうなら、南アフリカだろうと、そこにいるシェフが手がけるフランス料理がそのひとしか作れないものだったら、30時間以上飛行機に乗ってでも出かけていく価値がある、ということです。もちろん独創性を突き詰めていくと、ゲストの方でも好き嫌いが分かれてしまう可能性もあります。でも少し傲慢な言い方になってしまうかもしれませんが、嫌われるのを恐れてはいけないのではないでしょうか。自分の料理を分かってくださるゲストがいたら、そこに向けて一所懸命作ること。その勇気をもつことが、料理人としてとても重要だと僕は思っています

CITROEN DS3|シトロエン DS3
DS3 ×Cuisine──『Les Créations de NARISAWA』シェフ 成澤由浩

作り手の哲学を反映することこそ“いま”の表現(3)

皿のなかに風景を映す日本独自の文化

――オリジナリティは自分のなかで熟成されていったものですか?

いろいろなレベルのオリジナリティがあります。日本独自の文化を感じさせるのもオリジナリティです。Evolve with the Forestと題した一品は、森に代表される自然と共生してきた日本人の宇宙観を表現したものです。飛騨から取り寄せた木を皿に見立て、そこにさまざまな野菜で里山の自然を構築しました。皿のなかに風景を映すのはフランスにはない料理文化なので、そこに注目したのが原点です。自分がほかの国で生まれていれば、別の表現をしていたと思います。

シトロエンDS3×成澤由浩|16

シトロエンDS3×成澤由浩|19

――調理法も独特ですね。

肉は生の状態から80℃の油をかけてじわじわと火を通していくんですが、これをやっているのは僕だけでしょう。自分は10年以上ずっとこのやり方です。表面温度と内部温度をともに入念にコントロールして、うまい肉汁を閉じ込めるには最高の方法だという自負があります。肉の内部にはいくつもの種類のタンパク質があって、肉汁はその一部に詰まっています。これを壊さないよう火入れをするんです。噛んだときはじめて、筒状のタンパク質が壊れて、そこに入っている肉汁が口のなかにひろがる。それがうまさにつながります。

――それから炭の料理。

野菜を備長炭で炭化させ、その炭を食材にまぶす方法に着目したのは2003年のことです。たとえば飛騨牛には下仁田ネギを塩水につけたあと、備長炭の横においてじわじわと真っ黒になるまで炭化させた炭をまぶしています。未知だったおいしさが開拓できたと思っています。食べていただければ、最初は違和感があっても、おいしさで払拭されるはずです。料理には、味と前衛性が備わってなければいけないのです

――シトロエンDS3のメッセージは「アンチレトロ」。どこか響きますか?

いいメッセージだと思います。シトロエンはフランス修業時代から好きだったし、ハイドロニューマチックサスペンションはとてもおもしろいと思っていました。南仏のレストランで働いていたときは、ヨットハーバーに大きなシトロエンがすっと入ってくると、それが妙にかっこいいんですね。強く印象に残っています。DS3はコンパクトですが、デザインにかなり独自性があると思います。日本車はもちろんですが、ドイツ車ともイタリア車ともちがっています。こういうことをやることが大事であり、また受け手として評価することも大事だと思います

成澤由浩|NARISAWA Yoshihiro
1969年生まれ。1988年、19歳で渡仏し、8年ものあいだ欧州のレストランで修業。1996年、帰国と同時に、オーナーシェフとして『ラ・ナプール』オープン。2003年、東京・南青山に移転するとともに『Les Créations de NARISAWA(レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ)』と改名。2009年に英国レストランマガジン主催の「世界のベストレストラン50」にてベスト20およびベスト・オブ・アジアを受賞、2010年でもベスト24と同賞を獲得している。
www.narisawa-yoshihiro.com

Les Créations de NARISAWA
東京都港区南青山2-6-15
Tel. 03-5785-0799
営業時間|12:00~13:00(LO)、18:30~21:00(LO)
定休日|日曜

シトロエンコール
0120-55-4106

           
Photo Gallery