TOYOTA iQ|トヨタ IQ|第25回 (前編)|自動車のヒエラルキーを打破するクルマ
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2015年3月31日

TOYOTA iQ|トヨタ IQ|第25回 (前編)|自動車のヒエラルキーを打破するクルマ

第25回 TOYOTA iQ(前編)

自動車のヒエラルキーを打破するクルマ

「脱・石油」「離・石油」の時代に、トヨタがリリースしたマイクロカーiQ。ボディやエンジンの大小を基準としたクルマ界のヒエラルキーに一石を投じる、新世代のプレミアムカーの真価とは。

文=下野康史写真=トヨタ自動車

軽自動車より40cmも短いボディ

お金持ちはデッカいクルマに乗る。これはまあ、“常識”と言ってもいいだろう。お金持ちは燃費の悪いクルマに乗る。これもまた必然的に常識とみなしていいだろう。デッカいクルマは燃費が悪いからだ。そもそもデッカいクルマが買えるお金持ちなら、燃料代に四の五の言わないはずである。それが証拠に、価格は3千万円するが、そのかわりガソリン1リットルで100キロ走れる高級セダン、なんてクルマは存在しない。やって出来ないことはなかったと思う。存在しなかったのは、およそ必要性がなかったからだ。

抑揚のある面構成やシャープなウェストラインなど、優れたデザインが施されたボディは、軽自動車より40cm短いにことを感じさせない、存在感のあるたたずまいを実現している。

だが、こうした話は、旧世紀の古い常識になるはずだ。21世紀は「脱・石油」、「離・石油」の世紀である。ハリウッドスターにトヨタ・プリウスがモテている。満タンにすると800キロくらい走れるクリーンディーゼル、メルセデスE320CDIのセレブマダムは「年に3回しかスタンドへ行かなくなった」とほくそ笑んでいる。財布の軽い人だけがコンパクトさや燃費のよさを求める時代は終わろうとしている。

そんな空気のなかに登場したのがトヨタiQである。1リッターの排気量は珍しくないが、軽自動車じゃないのに、ボディ全長は軽より40cmも短い。車重もヘタな軽より軽い。なのに、価格はヴィッツより高い。謳い文句は「マイクロ・プレミアムカー」だ。

大人3人がきっちり乗れる革新的パッケージ

初お披露目のプレス試乗会では、チーフエンジニアが「自動車のヒエラルキーを打破するクルマ」と表現した。上から下まで、さながら自動車百貨店のような品ぞろえを誇ってきたトヨタが、ついにこんなことを言うようになったかと驚いた。ならばいっそのこと、レクサスブランドから出せばよかったのでは?と、開発者に聞くと、実際そんな話もないではなかったらしい。

助手席を運転席より前方に配置し、パワートレーンをコンパクトにするなどして、3mを切るボディで4シーターを実現。まさにパッケージングの妙といえるだろう。

全長2985mmのiQは現行市販車としてはスマート・フォーツーに次ぐ短躯である。スマートより30cm長いアドバンテージを生かして、リアシートを与えた。座ってみると、それは“補助イス”以上である。助手席を運転席より少し前に出したり、前席シートの背もたれを薄くしたり、パワーユニットのレイアウトを工夫したりと、さまざまな角度から努力を重ねた成果だ。その結果、大柄なドライバーの後ろはさすがに狭いものの、助手席の後ろなら大人がちゃんと座れる。つまりフル3シーターである。

ぼくはスマート・オーナーだが、ふだん使っていると、たしかにあともう一席ほしいと思うことがしばしばある。しかも、大人3人プラス子ども1人が乗れれば、一家に1台のミニマムなファミリーカーにもなり得る。このところ、ぼくが3台の2シーターを乗り継いでこれた(内2台がスマートです)のは、もう1台、リアシート付きのクルマが家にあるからだ。その点、iQはさすがトヨタである。革新的なパッケージングでもマーケティングのツボは押さえている。

           
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