香りのアルケミストの美しい仕事

薬学を学んできたパオロ・ヴラニエス氏が調香師として「ドットール・ヴラニエス」を創業したのは1983年のこと。薬学と香り、縁遠いようにも思えるが、シルク商人として世界を旅した彼の祖父が、行く先々から持ち帰った香水に囲まれて育った背景をもつ。良質なエッセンシャルオイル（天然香料）を何種も調合し、折り重なる香りの奥深さには時折オリエンタルなムードの片鱗が感じられる。そんな重層的なドットール・ヴラニエスの香りは、どのように生まれるのだろう。

――良質なエッセンシャルオイルにこだわる理由は？

合成香料と天然香料、どちらを選ぶかはひとそれぞれですが、私は天然香料にこだわっています。というのも、アロマテラピーの観点から、合成香料にはない効用が天然香料にはあるからです。たとえば、ラベンダーにはリラックス効果が、タイムには空気浄化の効果があるから寝室に。太陽や光りをイメージさせる柑橘や、エネルギーをもたらし集中力を高めるスパイス系はリビングルームに。このように、香りの善し悪しだけでなく天然素材ならではの効用も重要なのです。私は創業30周年を記念したルームフレグランス「ウード・ノービレ」を書斎に置いています。これは以前、私が中東に招かれたとき、木片に火をつけて香を焚く伝統的なもてなしを受けたときの感動を表現したもので、メディテーション効果のある香りは書斎にうってつけです。

――どのように香りを組み立て、完成までにどのくらいかかるのでしょう？

頭に思い描いた香りのイメージを再現するのですが、香料には強く香るものもあれば弱いものもあり、どの香りを何パーセントずつということではありません。香りの強弱を考慮しながら、互いに引き立て、造形を与える最良のバランスを導きます。ラボには常時2000種類ほどのエッセンシャルオイルがあり、イメージを再現できるまで、ひたすら調合を繰り返します。製品にもよりますが、長いもので3年、平均すると1年ぐらいでしょうか。「Dr. Vranjes for Maserati」は10カ月から11カ月程度で完成しました。

――“完成” の決め手とは？

調合を繰り返し、あるとき “これだ” と心が動く瞬間に出会う。その感情の動きで確認するのです。大変そう？ ちっとも大変ではありませんよ。私にとっては美しいと感じられる仕事です。この30年余、リネン用のスプレーやランプ、クルマ用のパフュームなどあたらしい挑戦をつづけてきましたが、変わらなかったことと言えば常にクオリティの高いものを追求し、妥協を許さないこと。情熱をもって取り組めば、なにごとも辛いことはありません。

Page2. 圧倒的な存在感「マセラティ」の香りとは？

――「Dr. Vranjes for Maserati」のイメージは？

エンジンが強く、走りが速くて力強い。でもエレガント。そのようなマセラティのイメージをボトルに凝縮しました。男性が憧れるクルマという印象を受けますが、近年は女性のオーナーも増えていて、力強さとエレガンス、男性と女性という、マセラティのもつ二面性を表現しました。

――どんな香りでしょう？

一番最初に感じるトップノートはオレンジやバジル、サイプレスなど、爽やかな印象です。マセラティの疾走感をイメージしました。香りを構築するうえでもっとも重要なミドルノートでは、マセラティの二面性を表しています。リッツァクベバというベトナム原産の柑橘フルーツの香りをベースに、ゼラニウムとラベンダーがこれを調和させます。リッツァクベバは発展性のある香りで、あたたかみのある甘い柑橘らしい香りから、時間が経つにつれ柑橘の実ではなく、木の香りに変化します。ミドルノートを生かし、表情を変化させるラストノートはマセラティの車内をイメージしました。ベースとなるのはレザーの香り。それからブライアーの根の香りとサンダルウッド、鍵となるグリーンムスクは清涼感のある空気感を表現しています。

――あらたな香りもくわわり、コレクションはさらに充実しますが、ルームフレグランスの選び方とは？

多様な香りを用意しているのは、ひとによって感覚、感情が異なるためです。35種類の香りは大きく4つのカテゴリに分類でき、はじめにお客様の好みのグループを絞ります。それから、どこに置くのか、どんな環境にしたいのか、細かくイメージを伺いご提案します。「ドットール・ヴラニス」の製品は決して安価ではないし、どこでも簡単に手に入るようなものではありません。売り手が製品のクオリティや特性を正確に理解し、きちんとお客様に伝えることが重要なのです。理解が叶わず、数百の取引先と契約を止めたこともありましたが、近年の成長を振り返ると、まちがいではなかったと思います。

――「ドットール・ヴラニエス」のクオリティとは？

我々は自分たちの製品に自信があります。使用するエッセンシャルオイルの質はもちろん、企画からすべて自社でおこない、ひとつひとつ丁寧に手作りしています。香りを司るボトルや箱はフィレンツェの職人に依頼し、想いをカタチにしてもらいました。製品はいわば子宝のようなもの。上質を愉しむとは、高価を支払い、ある程度のものを手に入れるラグジュアリー感というだけの話ではありません。丁寧に手作りされた良質なものを身のまわりに置くことの大切さ。ハイクオリティを確約できる、それが私たちの誇りであり自信です。

Dr. Vranjes for Maserati
発売日｜7月7日（火）
価格｜2万3760円（500mL）、11万160円（2.5L）
マセラティブルーのガラスボトルにほどこされた銀のラベルには、マセラティのロゴ「トライデントの紋章」をプリント。2.5Lの大容量タイプで使用されるロゴ入りのメタルキャップは、実際にクルマで使用される部品を用いるなど、ボトルデザインの完成度も高い。ドットール・ヴラニエスの直営店およびオンラインショップ、マセラティ正規ディーラーにて発売。

Paolo Vranjes｜パオロ・ヴラニエス
イタリア・ボローニャ生まれ。祖父の影響で幼少のころからフレグランスに興味を持ち、ボローニャ大学では化学・薬品学を専攻。卒業後、薬剤師として独立し、1983年にルームフレグランスに特化したブランド「ドットール・ヴラニエス」を設立。99年にフィレンツェに初の直営店をオープン。ミラノやローマにもストアを作り、現在はイギリスの「ハロッズ」を始め、世界50カ国で展開されている。2011年11月に海外初となる直営店を東京・代官山に開いた。

Dr. Vranjes Japan
東京都渋谷区恵比寿西2-11-9 東光ホワイトビル 4F
Tel. 03-6427-0350
http://drvranjes.jp

rumors｜ルモアズ
http://rumors.jp