Twiggy(ツイギー)|Vol.9 アーティストが旅で得るもの(後編) 2
Beauty
2015年3月13日

Twiggy(ツイギー)|Vol.9 アーティストが旅で得るもの(後編) 2

Twiggy|ツイギー

Vol.9 アーティストが旅で得るもの(後編) 2

1990年から主宰するヘアサロン「ツイギー」で、各誌ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト 松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、昨年ついに実現した。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端をいくひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。

語り=松浦美穂まとめ=小林由佳写真=佐藤孝次

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ファッション誌に出てくるような、豪奢なだけの旅は30代で十分に満喫したという松浦さん。前回のバハ・カルフォリニアに続き訪ねたところは、民族性の高い独特な文化圏ばかりのようです。「民族文化からヒントを得ることが多い」と松浦さんは言いますが、もちろんそれはヘアスタイルへのアイデアである以前に、松浦さんの生き方そのものにダイレクトに訴えかけるパワーに満ち溢れていたようです。

――そしてラダックでの経験は、松浦さんの農業に対する関心を一層高めた。

つぎに行ったラダックもまた、完全自給自足、必要最低限の生活なのに、本当にみんな幸せな表情なのが印象的でした。もう嫉妬してしまうくらい幸せそうなんです。以前(連載vol.7 前編)でもお話ししたとおり、ラダックは私が農業をはじめる一番大きなきっかけになった“ゴミの一切出ない生活”を目の当たりにしたところ。この生活を日本で実現することは難しくても、せめて日常のできることから考えてみよう……“プラマイゼロ”という生活の本質を知ることができました。

そして、ラダックで印象深い思い出は、お寺で拝見させていただいた砂曼荼羅。ラダックは北インドといいながらチベット密教の影響が色濃くあります。とてつもなく雄大な砂曼荼羅で、緑の少ない生活圏のなか、鮮やかな色砂で描かれた曼荼羅はじつに壮大です。
時間をかけ、高度な技術で精密に作られるこの砂曼荼羅は、制作して3日後に風のいちばん強いところに持って行きすべて吹き消してしまいます。これは“執着を捨てる”という教えにもとづいた儀式なんですが、これを目の当たりにしたときは、なんだかすごく“腑に落ちた”んですね。とにかくもう涙がポロポロ出ました。自分は執着が少ないほうだと思ってたけど、実はものすごく執着だらけだった、と痛感したんです。こういうふうに日常生活でできない体験を、旅を通じてひとつひとつ得るなかで、ああ大人になったなって、実感していきました。

――さらにラダックには、民族性の豊かさ以上のものを感じたそうですね。

ええ。ラダックの女性のヘアスタイル(写真右)はすごくシンプルで、強かった。私の創作のアイデアは、民族文化からヒントを得ることが多いですね。そしてこういうひとつひとつの光景に、自分たちのルーツ、自分たちが忘れてきた“日本も昔はこうだった”的な印象を一番最初に感じた国、それがラダックでした。こういう生活を知ると、自分たちは彼らとちがって西洋の文化をすべて受け入れてしまったんだなとわかります。とくにアメリカの文化を受け入れ過ぎた。それで自分たちのトラディション……古来の伝統文化の基礎を守る心を見失ってきたんだと感じます。いちばん大事な部分が、いつの間にかブレてきちゃっているんだと。ラダックにも、コンピュータや携帯電話はあるんです。経済観念もしっかりしている。お寺の屋根は全部ソーラーシステムなんですよ。お寺なんて夜でもほんのわずかな光しか使わないのに、それでもちゃんとエネルギーのことを考えている。そういうことをきちんとやっているのを見たときは、本当にスゴイなって感動しました。彼らが心得ている“ムダがない”っていうのは、“確実に今を知る”っていうことなんですね。昔の古き良き時代にもどるという感覚ではなく、現代を見極めながらトラディションを引き継いでいく気持ち、その両方をバランスよくもっているひとたちなんです。

Twiggy(ツイギー)|ラダックの女性のヘアスタイル

――意味深い旅を経て、ヘアアーティストとしてのマインドにどんな影響が?

大きく影響されましたね。それは作るヘアスタイルそのものに直結するというより、自分が美容師として仕事していくうえでの姿勢に。10代から30代にかけての旅は、自分の外側を磨くためでした。でもモロッコやラダックのようなところに行き、自分の魂に正直に生きることを、この旅は自分の内面を磨いているということを実感して、“自分でいいんだ、このままの自分でよかったんだ”とわかってから、堂々と自分が出せるようになったと思いますね。これが好きだと言えること、それが素晴らしいと思えることが、自分にとって確実に今の自信につながったと思います。

“こう髪を切るべき”って言えるんですよ。それは何かのお手本をちょっと真似してみたとかじゃなくて、“あ、このひとはこう切るべき”っていう確信が生まれてくるんです。それまでは、好みとかファッションとか、何か理由づけがなければ切ってはいけないと思っていたんです。だけど、確実に理由はあるのですが、それよりも前に、そのひとの顔を見たり、話を聞いている最中に、“アッ”って頭に浮かぶ。で、それを形にしようと思うわけです。昔はそんなこと言うと「お前は占い師か」みたいに気持ち悪るがられると思っていたんですね。自分もひとからそう言われることが嫌だったから、そういう勘とかには頼らないでほしいんだけど……って思っていたし。だけど、勘というものは確実に存在し、まちがいはない。ただ、それを理論づけるためには、自分を磨かないと、理論と勘が一致しないということなんです。だから、自分の直感と理論、自分の感性の理論づけを完成させるための手段として、こういう旅は必要だったんだと思います。

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