ミラノサローネから知るデザインと自動車のいま|Milano Salone
MILANO SALONE|ミラノサローネ
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2015
ミラノサローネから知るデザインと自動車のいま
世界最大の家具見本市としてしられるミラノサローネだが、すでにお伝えしたように、レクサスの出展が受賞するなど、自動車メーカーの存在感が強まっている。続々と出展された自動車メーカーのインスタレーションから、各ブランドの“いま”を小川フミオが読み解く。
Text by OGAWA Fumio
存在感を増す自動車メーカー
家具の見本市がスタートだったけれど、いまやデザインのイベントとして国際的な注目を集めるまでに成長したミラノサローネおよびミラノ デザインウィーク。レクサスが2015年にベスト エンタテイニング賞を獲得したように、そのなかで自動車メーカーの存在感は大きくなっている。
2015年はミラノのトルトーナ地区を中心に、いくつもの自動車メーカーがインスタレーションを発表した。レクサス、マツダ、アウディについては既報だが、ほかにも注目すべき展示は多い。
「ブランドはグローバルにならざるをえないが、そのなかで独自の個性、存在感を持つのが、真の意味でグローバルブランド。そのためにデザインウィークで訴求力を発揮することは大事だと考えています」
そう語ってくれたのは、レクサス インターナショナルの福市得雄プレジデントだ。クルマとともにクルマにつながるモノづくり技術をしっかり見せたマツダがあるいっぽう、MINIは街とのつながりをユーモラスに見せるなど、展示は多岐にわたった。
その根底は、ブランドの訴求という狙いで共通しているとしたら、逆にいうと、インスタレーションに(ある意味)表層的にあらわれるブランドごとのちがいいを見ていくのは、おもしろいことだ。イメージ的に売りたいのか、ストレートにクルマを訴求したいのか。各ブランドの“いま”がわかるのである。
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ミラノサローネから知るデザインと自動車のいま (2)
クルマを主役にすえたプジョー
大きくいうと、傾向は3つにわかれる。ひとつめはクルマを主体とした展示。ふたつめはクルマづくり、あるいはクルマに関連する技術を核とした展示。3つめは文化的なイメージ訴求の展示。デザインウィークでは、家具やファッションブランドのインスタレーションを見ても傾向はさまざまなので、幅広い表現が受け入れられる余地があるのだ。
クルマを主体とした展示は、マツダとアウディが最右翼だ。くわえてシトロエンがある。フランスデザインという現代のフランスのすぐれたプロダクトを一堂に集めた会場のなかに、家具やスポーツギアととともに、シトロエン カクタスが置かれた。
アグレッシブさを取り除いたスタイリング、ソファタイプのシートをはじめ隠された物入れなど洗練されたやりかたで構成されたインテリア、エアパッドを貼ったサイドパネルなど、創造的なデザインであると評されていた。
同時にスピガ通りには、DS5ハイブリッドが置かれ、道行くひとの注目を集めていた。日光によるほどよいライティングで、エッジのたったキャラクターラインが美しいのが印象的である。
クルマを拡張する提案、MINI
MINIは「アーバンパースペクティブス」と銘打ったユーモラスな未来の都市コンセプトを、スペインの著名な工業デザイナー、ハイメ・アジョンとともに作り上げた。その展示会場の前には2台のMINI5ドアが。なんだろうとおもって近づいたひとは、門の奥にあるMINIの世界へと誘われる仕掛けなのだ。
高級ポースレンで知られるリヤドロの製品を手がけることでも知られるアジョンによる、“こんな街だったらいいな”というかんじで、楽しさが溢れるMINIのインスタレーション。建物があり、道で結ばれ、パーソナルな移動手段としてキックスクーター(キックボード)までが並べられる。
「街探検をする人のためにMINIはスマートでスタイリッシュな方法を提案しました。必ずしもクルマである必要はありません」。
MINIを含めたBMWグループのデザインを統括するオランダ人、アドリアン・ヴァン・ホーイドンクのコメントである。
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ミラノサローネから知るデザインと自動車のいま (3)
動きを見せるヒュンダイ、音で魅せるプジョー
高度な技術をクルマのイメージと結びつけたのは、韓国の現代自動車(ヒュンダイモーター)のインスタレーションだ。「ヘリオカーブ」と名づけられた作品。アウディ出身のペーター・シュライヤー率いるヒュンダイモーター デザインセンターと、動的彫刻ともいえるキネティックアーティストのルーベン・マーゴリンの手になるものだ。
「ヘリオカーブ」は400個の木片が、高さ3メートルに及ぶ波を模して動く。ゆっくりとしていながら、同時に力強さを感じさせ、広いスペースをいっぱいに使った展示は圧倒的だ。「自然界の動きを再現するのは、流体のように流れる彫刻、という現代自動車のデザインコンセプトともつながる」と現代自動車では説明する。
現代自動車は「ヘリオカーブ」の動きに合わせて同社のサウンドデザイン リサーチラブの手になる音楽を奏でていた。音楽、なかでも楽器を展示したのは、アウディデザインとプジョーデザインラブ(ラボ)。前者はベーゼンドルファーのために、後者はプレイエルのために、どちらもピアノをデザインして、それをミラノで展示した。
プレイエルはフランスのピアノメーカーで、創業は19世紀初頭。ショパンのためにピアノを製作したこともある。近年は業績が奮わないのだけれど、プジョーデザインラブは、本体は木製だが脚部はFRPなどを使い軽量化。ヒンジにはクルマとおなじ部品を使って強度を高めている。
なにより、弦やハンマーといった構造と鍵盤とをおなじ高さにしたことが注目に値する。「それによって聴衆はピアニストの指の動きをどこからでも見ることができる。音もピアニストはよりダイレクトに聴くことができる」(プジョーデザインラブ)としている。
実際このピアノのプロトタイプが発表されたのは2012年秋のパリ自動車ショーであり、2014年のミラノ・デザインウィークでも展示があった。ただし今回は、スイス出身のファビアン・ウフナーとシモン・シュビガーによる「フィールド・オブ・サウンド」と名づけられたインスタレーションになった点があたらしい。36平米のスペースに5,000本のプレキシグラス製の“草”が植えられ、ピアニストが奏でるプレイエルの調べに合わせて、微妙な動きで揺れるのだった。
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ミラノサローネから知るデザインと自動車のいま (4)
主題としてとらえられるモビリティ
プジョーといえば、食の世界でも知られている。1874年に製造開始した胡椒挽きは、いまもプジョーブランドで好調なセールスを記録しているからだ。2015年のミラノ デザインウィークにプジョーデザインラブは、食とクルマを直接結びつける「フードトラック」を、ピアノと並んで出展した。
「フードトラックはシェフのものでなく、一般のひとにレストランや食の体験を提供したくてデザインしました。つねに使うひとを中心にデザインするのがプジョーのモノづくりなのです」。プジョーデザインラブのトップ、カタル・ルグナーヌはそう語っている。
本体とトレーラー、2台で構成された「フードトラック」は、キャビンから後ろが大きく開き、まさに映画「シェフ−三つ星フードトラック始めました」(2014年アメリカ)に出てくるトラックのように、ここからできたての料理を提供できるという。「ル ビストロ デュ リヨン」と、優秀なシェフを輩出してきたことで知られる仏南東部のリヨンの名が車体につけられているのも印象的である。しかし、実際にどんな料理を出すかは不明。3日間、「今日は空いていますか? なにか食べさせてくれますか?」と訪ねたが、「そのうちね」というのが答えだった。
トヨタ自動車グループで、ドライブトレイン関連をはじめ、ボディ関連、ブレーキ&シャシー関連、エンジン関連、情報関連、さらに住生活関連やエネルギー関連の事業を担当するアイシン精機は、近未来の社会のための交通手段を提案した。東京モーターショーに近い、マジメな展示である。が、とても重要だ。
ひとつは、「ILY-A」(アイリーエー)。ロボット技術を応用した安全機能搭載の未来のパーソナルモビリティと謳われたものだ。アイシンデザインが企画とデザインを手がけ、fuRo(千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター)が開発を担当した。
親指のボタンひとつで前後左右に動け、腰かけて走れるビークルモードや立って走れるキックボードモードなど4つの形態で使える。ファンというより、「交通弱者のためを考えた」(アイシン精機の担当者)というものだ。実際に自在に動かせるので、自転車より楽ちんで、自動車より使い勝手がいいと、市場に歓迎されそうだ。
アイシン精機ではもうひとつ、「ILY-I」という室内で座ったまま移動するためのファニチャーモビリティのコンセプトが展示された。電池エネルギーによって可動し、手元のコントローラーで方向指示、センサーでスピードが制御される。介護も事業として手がけるアイシン精機ならでは「インテリジェントなアームチェア」(同社)なのだ。
自転車の展示も多かった。デザインウィークはどちらかというと視覚的な提案に重点を置いているため、斬新な技術展示はあまりなかった。でも、移動はあらゆるところで、重要なテーマになっていくだろう。