Twiggy(ツイギー)|Vol.9 アーティストが旅で得るもの(後編) 1
Twiggy|ツイギー
Vol.9 アーティストが旅で得るもの(後編) 1
1990年から主宰するヘアサロン「ツイギー」で、各誌ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト 松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、昨年ついに実現した。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端を行くひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。
語り=松浦美穂まとめ=小林由佳写真=佐藤孝次
ファッション誌に出てくるような、豪奢なだけの旅は30代で十分に満喫したという松浦さん。前回のバハ・カルフォリニアに続き訪ねたところは、民族性の高い独特な文化圏ばかりのようです。「民族文化からヒントを得ることが多い」と松浦さんは言いますが、もちろんそれはヘアスタイルへのアイデアである以前に、松浦さんの生き方そのものにダイレクトに訴えかけるパワーに満ち溢れていたようです。
――前回お話しいただいたバハ・カリフォルニアへの旅の前に、アフリカのセネガルを訪ねたとうかがいましたが……
はい。仕事だったのですが、私にとってアフリカ初体験でした。人間と動物、緑、風、太陽、水それらすべてが共存する土地での10日間の生活。プリミティブなダンスとジャンベの音、女性たちの集いはいつも洋服を作るか三つ網を編みながらのおしゃべり。ペットのヤギをゲストの食事のためにつぶして、皮はジャンベに貼る……ドギマギするような体験でしたが、家庭を見ることができて妙な懐かしさと解放感から、帰るときは涙が出そうになりました。
――そしてバハ・カルフォルニアで魂を洗う旅を経て、さらにモロッコ、ラダックへ……
モロッコは夫の仕事に家族でついて行ったんです。これがバハ・カルフォルニアの旅行と明らかにちがう点は、NPOのボランティアとして行ったので、目的が明確な旅であり、そして学ぶものがそこにあることが最初からわかっていたということ。自分の学びたいことが何か、それが見えてきてから向かったのが、このふたつなんです。モロッコで訪ねたのは、ハッターラという井戸のようなものを必要として生活しているオアシスでした。何もない平原に突然村があらわれます。そこにいるひとたちは、生活するために必要最低限の水と野菜以外、まったくムダのない生活をしていました。この光景には非常に感動しましたね。まず村と村とのあいだにかなり距離があるということ。四方は何も見えない砂漠の道を1時間くらいクルマで走って次の村に到着する……といったかんじです。にもかかわらず、村人と話してみても、生活に何の不服もなく本当に幸せそうだった。私たちから見たら足りないものがたくさんあるのに、彼らにとっては何も不足していない。外界から“困っているだろうから”と一方的な善意で持ち込まれそうになるものは、まず最初に村長さんがどうするか判断するというシステムが確立されているようでした。
そうしないと、突然入ってきた物資が原因で、普段ケンカをしない村人たちのあいだで“誰が何を取った”という争いが起きてしまうんです。村長さんからは、“あなたたちは、私たちから何もしてもらってないのにモノを与えるということはしないでほしい”と言われました。この感覚を大切に、マラケシのような都市部でもgive&takeを意識しましたね。道を歩いていると“お金、お金”って子どもたちが寄ってくるんですが、そういうときは、何かをお願いしてそれと交換で何かを渡す。たとえば道案内の交換が息子のスニーカーだったり、ニンジンと娘のヘアピンの交換だったり(笑)。物の代償は必ずしもお金じゃないんですね。そういうことをすごく学んだと思える旅でした。