第36回 荒木経惟個展『好色』(その2)
Lounge
2015年5月8日

第36回 荒木経惟個展『好色』(その2)

第36回 荒木経惟個展
『好色』(その2)

前回からお伝えしています、荒木経惟個展『好色』の続編です。期間は12月7日(日)までですので、まだご覧になっていない人は、ぜひ足を運んでみてください。さて、今回はまず、僕が見た実際のペインティング風景から感じたことをお話します。

北村信彦/HYSTERIC GLAMOURPhoto by KITAHARA kaoruedit by TAKEUCHI Toranosuke(City Writes)

計算し尽くされたペインティングは、荒木流の愛情表現か

すでにご覧になった方ならおわかりだと思いますが、完成した作品を見ると、あのペインティングって、一見簡単にやっているようにも見えます。ですが、実際には1点1点かなり時間をかけてペイントしているところが印象的でした。

第36回 荒木経惟個展<br><br>『好色』(その2)

なんの案内線もないところに一喝入れるわけですから、もちろん勢いも大切です。しかし、けっして思いつきでやっているのではなく、頭の中でちゃんと計算してから描いているんです。しかも、よく見るとけっこう細かいテクニックが駆使されていて、一度つけた円の中に、違う色の点が入っているペイントなんかは、しっかり時間をかけておこなわれていました。カメラ目線のモデルの目の付近にペイントされている作品が多いのも印象的です。これなんかは、被写体から出たエネルギーを感じ取ってやっているんでしょう。ついついモデルの目を見てしまいます。見つめられているような感じ、女の人の中に引き込まれていく感じがします。荒木さん流の愛の表現でしょうね。

ペイントすることによって浮かび上がるエロスを超えた芸術性

不思議なもので、この作品のベースはあくまでも写真なんですが、見ているうちに、ついその筆技に見入ってしまいます。無駄なく色がちりばめられていて、飛び散った点のひとつひとつまで重要なものに見えてくるんです。このペイントによって、写真の過激な部分が、ただのエロスでなくなっているのもおもしろい点。なかなかこういう写真って、長いこと見つめていられないものだと思うんですが、ペイントされていることによって、ずっと眺めていられる作品に仕上がっています。

第36回 荒木経惟個展<br><br>『好色』(その2)

これは勝手な想像なんですが、荒木さんの中でも、写真だけでは表現しきれないモヤモヤのようなものがあったのかもしれないと感じました。もしかしたらそれは、カラーへの反発なのかもしれません。ご承知のとおり、荒木さんといえば、カラー写真の非常にうまい作家です。しかし、それでも写真というのは、その特性上、作家のライブ的エネルギーを作品に出すのはむずかしいんです。だから荒木さんは、あえてモノクロ写真の上に鮮やかなペイントを施すことで、彼なりに、ほとばしる感情を表現したのかもしれないな、と思いました。いずれにせよ、今回の作品からは、そうしたいろいろなことを考えさせてくれる深みを感じますね。

(了)

第36回 荒木経惟個展<br><br>『好色』(その2)

荒木経惟個展「好色」
2008年10月17日(金)~2008年12月7日(日)まで
ラットホールギャラリー
12:00-20:00(月曜休)

RAT HOLE GALLERY & BOOKS
東京都港区南青山5-5-3-B1
Tel. 03-6419-3581

           
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