第1回 「コンキスタドール」が語るフランク・ミュラーの歩み
第1回 「コンキスタドール」が語るフランク・ミュラーの歩み
いまやフランク・ミュラーのアイコンモデルのひとつと言えるのが、この「コンキスタドール」だ。フランク・ミュラーの製作指針、その本質をこのダイナミックなモデルに見る。
ケースデザインが語る、時計づくりの指針
今年2008年は、フランク・ミュラーの「Conquistador(コンキスタドール)」が10周年を迎える記念すべき年である。
コンキスタドールは立体感あふれるダイナミックなスタイルが印象的な時計だが、この計算されたフォルムとデザインには、フランク・ミュラーが捜し求めてきた本質への道程を見て取ることができる。
フランク・ミュラーといえば、やはりアール・デコスタイルに3次元曲線のケースが美しい「トノウ・カーベックス」を思い浮かべる人も多いことだろう。
とくに彼のケースデザインに対するこだわりは並々ならぬもので、ケースひとつをとっても彼の時計づくりの思いが深く伝わってくる。
このトノウ・カーベックスもやはり初期のころから愛されてきたデザインで、このケースに入れることでどんな機械式の時計もフランクの「顔」となってしまう、いわばブランドのアイコンともいえる意匠だ。
彼にとってはラウンドケース同様に、自身のアイデンティティを培ってきた大切なデザインでもある。
革新を繰り返すことで、突き詰められる本質
そのカーベックスケースを、模索の上にアレンジしていったのがこの「コンキスタドール」だ。
このケースは新開発の自動巻きを搭載するために編み出されたが、「征服者(Conquistador)」という名前が語るように、厚みのあるケース、夜光文字盤、ラバーストラップの採用など、そのスポーティでダイナミックな顔立ちが、同じトノウケースとはいえそれまでのフランク・ミュラーの歩みとは異なるものであった。
発表当時は大きくて厚いデザインが世の主流だったこともあり、どちらかといえばそのダイナミックなパワーに焦点が置かれていたが、後にダイヤルのギヨシェなど、フランクらしいエレガントな意匠が随所に加えられていく。
そして今では彼ならではの優美さを語る、代表的なトノウのデザインとなった。フランクはかつてのスタイルをあえて変えていくことで、自身の個性をさらに際立たせていったのである。
新作「コンキスタドール ジョーカー」
今年のコンキスタドールの新作「コンキスタドール ジョーカー」にもフランクらしい、新たなエレガンスの形が見出せる。
これまでの彼のジュエリーウォッチがバゲットやフルパヴェのダイヤモンドなど比較的華やか、そしてきらびやかなイメージが強かったのに対し、このジョーカーはインデックスにさりげなくダイヤモンドをあしらうことで、むしろその上品さを際立たせている。これも最高のラグジュアリーというものに対峙し、それを突き詰めてきたフランクだからこそ成し得たデザインであろう。
これまでのスタイルを変えることは革新であるということはもちろん、彼の場合はつねに前進し改良を重ねることで、自身の本質をさらに磨いていくことでもあった。その個性の積み重ね方こそがフランクの手腕でもあり、それをこのコンキスタドールにも見ることができるのだ。