イラストレーターとパリの五月(5)=美術の話
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2015年4月10日

イラストレーターとパリの五月(5)=美術の話

「イラストレーターとパリの五月」(5)
九重加奈子さんに美術の話を聞く

interview&text by SUZUKI Fumihiko

イラストレーターとパリの五月(4)=フランスでの仕事と生活

重厚な絵より、イラストレーションに近いようなものが好き

― 日本って東京ですよね。

「ええ、自由が丘っていう町で、可愛いお店が沢山あって、そういうところはフランスを出来るだけコピーするっていうスタイルのところが多くて。私もハガキをもっていって売り込んでみたりしたんですけれど、……フランスに行ったことがない人もたくさんいると思うのに、みんなフランスの空気をもっている。すごいインパクトだなと思いました。」

― 絵葉書の話は上手くいったんですか?

「うーん。単価が小さいので商売にするのは色々と難しいらしいです。みんな、ハガキを書かないようになりましたよね。フランスに来て、やっぱり美術館にちょっといくと、すぐにすごい絵がいつでも見られるように掛かっているのも、こういうことなんだなぁって思いました。あ、ルーブルって木曜日の夜は、学生は無料なんですか?」

― あ、そうなんですか。

「そう聞いたんですけれど。」

― 窓口にいつも人が並んでるから、僕は自動券売機で買っちゃうんです。人のいる窓口で買えば無料だったのかな。ルーブルは夜にいくと綺麗ですよね。

「綺麗ですよね。あんまり人もいないし。」

― 好きな美術館ってありますか。

「ロダン美術館が好きです。」

― それはロダンが好きなんですか。

「ロダン美術館が好きなんです。庭があって、建物もいいし、彫刻にはあまり興味がなかったんですけれど、ロダン美術館にいってみたら、やっぱり大理石の彫刻がすごい綺麗ですよね。ロダンも……好きなんだと思います。日本ではあんまり見る機会も無かったけれど。」

― ほかに好きな美術館ってありますか。

「オランジュリーも好きですね。オランジュリーの所蔵作品が好きです。ピカソとかマチスとか。」

― 好きな画家もピカソやマチスですか。

「ええ。あとロートレックとか。あんまり油絵らしい、重厚な絵より、イラストレーションに近いようなものが好きなんです。私は立体的に描くのが苦手なんです。大学生のときに立体的に描けないっていうのをすごく注意されたんですけれど、今はそれが自分の持ち味って思ってます。フランス……西洋って立体にこだわりがあるんじゃないかと思うんです。元々もっている感性が、そうなんじゃないかな。」

― 大学では美術論みたいなものも習ったんですか。

「習ったんですけれど、全然興味が無くて、もう覚えてないです。本当にただ絵が描きたかっただけなのかもしれないです。でも美術大学の油絵科の人は喋りたがるんですね。一枚の絵が出来ると、みんなの前で色々と批評される。そういうときにとうとうと喋るのが私にはよくわからなくて……これからの芸術家は喋れないといけないらしいです。それが私はイヤだったんですよね。ほかのみんなはお金のためにイラストを描くことは邪道で、それは絵画じゃないって。」

― なるほど。今は水彩なんですか。

「水彩とかペンとかインクとか、パステルですね。油絵は全然やらないです。でもフランスの人におうちに掛ける大きい絵を描いて欲しいって頼まれて、それはもしかしたら油絵にしたほうがいいのかなって思っています。紙にすると額に入れないといけないから。」

― 加奈子さんの絵は見せていただいた限り、水彩のような雰囲気ですよね。

「ええ、油で描いてたときも水彩っぽい感じだったので、油を使う意味はあんまりないかな。」

― 加奈子さんのようなイラストの方が油絵よりも早く描けるんじゃないかと思うのですが。

「実際早く描けます。油絵はいちいち乾かさないといけないし、やめどころが分からないし。」

― 絵を始めたのはやっぱり好きだったからなんですか。

「それしか取り柄のない子供だったんです。それも消去法で、ほかにはなかったんです。大学生の時にはアルバイトでイラストを描く仕事をして、そうしたらそれが楽しくなってしまって。」

― 今は仕事として、どれくらい描くんですか。

「白黒で本当に小さい、流れ作業的に出来る絵まで含めると月に何百枚と描きます。パリにいると色々誘惑が多くて、すぐ外に出たくなっちゃってなかなか仕事がはかどらない。」

― 外に出て、どんなことをするんですか。

「友達とご飯を食べたり、イベントにいったり。大したことはしていないんですけれど、やっぱりいつまでいられるか分からないから、仕事ばっかりしていられるかって。なんでもよく見ておきたい。作品の中のものと同じものが見られるのがすごいですよね。写真とかテレビとかで見飽きている風景の中にきちゃったから。普段は毎日の生活に追われて、こんなに綺麗な町にきているっていうことを忘れがちなんですけれど、それを思い出す瞬間が嬉しいですね。」

※九重加奈子さんのホームページ
http://www.geocities.com/kanakoinhawaii/

イラストレーターとパリの五月(6)=パリの話

           
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