(3)「小山薫堂的、モノの買い方」
photo by Jamandfixedit by Daisuke Hata (City Writes)
職人に拍手を送る気持ちでモノを買う
──小山さんがジョン ロブの靴を初めて履かれたのはいつ頃ですか?
小山薫堂 最初に買ったのは20代のころですね。いまは5~6足もっています。
松田智沖 今日は小山さんがお持ちのなかでも、一番新しいジョン ロブの靴をお履きいただいてますね。お履きのダブルモンク 『チャペル』 はまったくの一枚革でつくられたものなんです。型紙を見ていただけますか?
小山 ぜひ。このモデルはフォルムも綺麗ですし、それに 『新しいジョン ロブ』 という感じがするんですよね。僕はいつも大きめの靴を買ってしまうのですが、これは 『このサイズがいいです』 と強く言われたので、大丈夫かな? と思いながらジャストフィットのものを買ったんですね。でも全然、大丈夫でした。履き心地もいいですし、変なシワも入らない。カタチも綺麗ですよね。本当に気に入ってます。
(『チャペル』の型紙を見ながら)
松田 パターンを引く職人は、僕らが紙飛行機をつくる感覚でつくっているらしいですね。一枚革って鞄ではよく使われますけど、キズのない一枚革は値段も高いですし、靴ではなかなか使わないものなんです。その革を贅沢に使って型紙に沿って裁断し、木型に合わせて立体的に釣り込む。それは、職人の手作業によってしかできません。
小山 なんかもう一足欲しくなってきました(笑)。
松田 今日お召しのようなカジュアルなスタイルに合わせても締まりますね。
小山 そうなんですよ。とくに海外へ行くときに、機内ではラフな格好をしていたいけれど、向こうではスーツ着ないといけないというときに重宝しています。スニーカーくらいの気持ちで楽に履けるもので。
──小山さんは職人や料理人が手間を掛けたものには投資を惜しまないというイメージがありますが。
小山 そうですね。買い物の仕方として 『その商品に拍手を送る』 ためにお金を出すと考えると、比較的何でも買えちゃうんですよね。以前 『アイボ』 が出たときも、ソニーという企業にこういう時代にこんなものをつくった勇気に拍手を送る意味で買ったんです。それと同じで職人さんが手間をかけて、人の魂が入ったものにお金を使うのは惜しいとは思いません。というのを自分が欲しいものを買う言い訳にしているんですけどね(笑)。でも、買い物って自分をどう納得させるかじゃないですか。
それに僕は貧乏性なので、買ったものを途中で捨てたりとか、使わなくなるというのにものすごく抵抗があるんですよ。だから買い物は絶対に失敗したくないという気持ちがあります。欲しいからと買って、それをすぐに使わなくなることほどもったいないことはないじゃないですか。エコロジーにも反しますし。本当に好きなものを買って、ずっと使い続けるのはエコロジーでもあり、ダンディズムみたいなものだと思うんですね。鍋にしても 『本当にずっと使い続けるかな』 と自問自答してからじゃないと買えないんです。
続・愛靴談義
松田 お買い求めいただいた歴代のモデルまでもってきていただいて恐縮です。
小山 いえいえ。ラインの入ったこちら (※写真下) は随分前に買ったものですね。
松田 『ミラノ』 というモデルですね。
小山 どうしてこのネーミングになったんですか?
松田 このときのコレクションはそれぞれ都市をイメージして名前をつけていたんですよ。
小山 そうなんですね。これはタキシードとかかしこまった服を着るときに履いています。もちろんふだんも履けるのですが、フロントのラインがシャープなので正装のときにも合うんじゃないかと思いまして。
松田 このラインを出すのがまた大変なんですよ。職人が手でつまみ上げて縫っているんです。こうした手間のかかる作業をあえて既製靴のラインに組み込んでいるというのは、職人も誇りに思っています。
小山 それでいて目立ち過ぎない、ちょっとしたアクセントに抑えてあるというのが好印象ですね。
松田 スエードの靴 (※写真上) は 『ペリエ』 ですね。
小山 これも随分前の冬にスエード靴が欲しくなって買った一足です。そろそろソールも張り替えたいな、と思っています。
松田 何度もソールの張り替えができて、結果、長年愛用できるのはグッドイヤーウェルト製法の靴の魅力ですよね。
小山 黒のモンクストラップ靴 (※写真上) は、ロンドンのジョン ロブで5~6年前にオーダーしたビスポーク品です。
松田 はじめて拝見させていただきましたが、本当に美しい靴ですね。ちなみにロンドンのロブとパリのロブはまた別なんですよ。
小山 パリのほうがいいんですか?
松田 いえ(笑)、善し悪しでなく靴づくりに対するコンセプトが別という意味です。我々パリに本拠を置くジョン ロブは、エルメス資本なんですよ。ビスポークされた一足はやはり、履き心地も素晴らしいですか?
小山 それが大きめの靴を履いてきたせいもあってか、僕にはフィッティングがタイトに感じるんです(笑)。でも靴を自分の足に合わせて木型からつくる、というのは前々から憧れていたので、いい経験ができたと思って大切にしています。
松田 思い入れのある一足なんですね。言ってくださればストレッチャーで伸ばすこともできます。フィッティングも変わると思いますよ。
小山薫堂さん
1964年熊本県生まれ。日本大学芸術学部卒業。『N35』 『オレンジ・アンド・パートナーズ』代表。放送作家として 『カノッサの屈辱』 を手掛けたことで脚光を浴び、その後も 『料理の鉄人』 『世界遺産』 『東京ワンダーホテル』 といった数多くの人気番組に携わる。現在は 『トシガイ』 (日本テレビ)、『エコラボ』 (フジテレビ) などを手掛ける。またラジオパーソナリティや小説家、日光金谷ホテル顧問などとして、多彩なフィールドで活躍中。著書に 『フィルム』 (講談社)、『一食入魂』 (ぴあ)、『考えないヒント』 (幻冬舎新書)、絵本 『まってる。』 (千倉書房) などがある。