(4)「小山薫堂、クリエイティビティを発揮するために」
photo by Jamandfixedit by Daisuke Hata (City Writes)
理想的な40代の過ごし方
松田智沖 最後の質問なのですが、よく 『四十にして惑わず』 というじゃないですか。小山さんも40代ですよね? 小山さんは40代をどう受け止めていますか? 50、60といい歳の重ね方をするためにいま、すべきことは何だとお考えですか?
小山薫堂 難しい質問ですね……。僕はこれまであまり掃除をすることなく、好きなことばかりをして過ごしてきた気がするんです。
たとえば部屋にしても、やりたいことをとりあえずやり続けたらどんどん散らかってしまいますよね。いまはその散らかった状態。だから何がやりたいのかを一度整理したいな、と思います。
言い換えれば、新しいクリエイティビティを発揮できるような状態にリセットしたい。60になったときに 『40代のときはあれをやっておけば良かったのに!』 とか後悔しないよう、視界をクリアにする意味からもリセットは大切だと思いますね。あとはやっぱり、健康を考えますよね。
松田 徐々に考えますよね(笑)。
小山 ええ、いまのうちから健康なおじいちゃんになろうと思いますね。
松田 小山さんは健康のためになにかされていますか?
小山 ある時期、体調を崩してそれをラジオ番組で話していたら 『西式健康法がいいですよ』 とラジオ番組のリスナーの方が教えてくれたんです。
そのなかのひとつに、熱いシャワーと冷たいシャワーを交互に浴びるというのがあって、それだけ実践しています。じいさんが乾布摩擦するような感じですかね。
ただ、それが戦時中に書かれた本なのでものすごく古い(笑)。タマゴは1日ひとつ必ず食べろとか書いてあって。
それでも朝いちばんに冷水のシャワーを浴びて出ると背筋がピンと伸びるような気がして、すごく調子がいいんです。
松田 似た話かもしれませんが、先日、筑波大学にお邪魔したときにある教授さんへ 『健康になにがいちばんいいですか』 と聞いたら 『乾布摩擦と青竹踏みで十分だ』 と言われました……(笑)。この時代にできませんよね。
小山 以前、ロバート・モンダヴィ (カリフォルニアワインの第一人者) とご飯を食べたときにその質問をしたら 『SEX』 と言っていました。当時91才。奥さまは89才……家がとにかくすごい家で、リビングにプールがありました。ダイニングテーブルの横に3レーンで10mくらいのプールがあるんです。元気ですよね。
──小山さんの著書に自転車通勤をはじめた、とありましたが続けられていますか?
小山 ええ、自転車にもしばらく凝っていましたね。ただ腰を痛めてから全然乗らなくなってしまいました。座り仕事なので、腰がガクッとなってしまって。
以前は趣味でカートをやっていたのですが、カートってエンジンを押し掛けするんですね。それで押していたらギクッとなってしまって。『これはカート以前の問題だぞと』(笑)。
松田 じつは僕も腰は悪くて、酸素カプセルに入ったりとかいろいろやりました。最近はもともとレスキュー隊をやっていたというパーソナルトレーナーに巡り会って、時々マッサージをしてもらっています。これがすごく上手で気持ちいい。それにマッサージだけじゃなくて、アドバイスもためになるんですよ。
小山 どんなことを言われたんですか?
松田 その方には僕の仕事のことを伝えていなかったのですが、先日は腰を揉みながら 『松田さん、もうちょっといい靴を履いた方がいいですよ』 って!
小山 アハハ、書けないですね、その話(笑)。
対談を終えて――松田智沖
仕事も趣味も隔てなく、あらゆることに興味の食指を伸ばす才人、小山薫堂さん。僕がはじめてお会いしたのはある雑誌の編集長のご紹介でした。
以来、何度か食事にも誘っていただき、そのたびに時間を忘れて楽しいお話を聞かせていただいています。
今日は対談ということで私もいろいろ質問を用意していたのですが、どの質問に対しても答を明快に返してくださる。その引き出しの豊かさにあらためて感服させられました。
小山さんの頭から斬新なアイデアが次から次へと飛び出るの理由も、なんだか分かるような気がします。
ジョン ロブの魅力は? という漠然とした質問をした際、小山さんはこう答えてくださいました。
「ジョン ロブにはおじいちゃんになってもあるんだろうな、という安心感があります。たとえば、結婚式を挙げたとして、自分が式を挙げたレストランがなくなっていたら淋しいじゃないですか。
ジョン ロブにはその心配がない。自分の孫ができたら、いつか 『おじいちゃんジョン ロブ履いてたんだ、お洒落だね』 って思ってくれるでしょう」
ジョン ロブのそのような評価を、僕はこれまで聞いたことがありませんでした。しかし、そのことばは、やわらかく僕の心に刻まれました。
「うちのおばあちゃんがしていた時計がロレックスだったんですね。子供の頃は何とも思っていなかったですが、いまはカッコいいなって思う。自分もそうなりたいんです」
超がつく一流のクリエイターでありながら、いつも自然体。話も楽しく、プレゼントマニア……そんな色男を、女性が黙って放っているはずはありません。今度お会いしたときは、「色気」 のあるお話を突っ込んでお聞きしたいな、と思っています(笑)。