坂本龍一|坂本龍一 × 細野晴臣(2)
坂本龍一 × 細野晴臣 『細野晴臣トリビュート・アルバム』を語り尽くす(2)
4月29日に放送されたNHK-FM「音楽の美術館・サウンドミュージアム 坂本龍一」の収録から細野晴臣さんとの対談をウェブ独占掲載。4月25日に発売された『細野晴臣トリビュート・アルバム』についてのふたりのトークのオンエア分を4回にわたって連載中。お楽しみください。
第2曲目「イエロー・マジック・カーニバル」
“師匠”のアレンジにしびれる
──DISC 1
01.「ろっかばいまいべいびい - Piano Demo ver.- 」 細野晴臣
坂本 いきなりシャーってきて、それはバルトークかガーシュインが弾いているような(笑)。
細野 それは言い過ぎだよ(笑)。
坂本 そうですか?(笑)。そういう風に聴こえますけどね。声が随分遠いところにありますね。
細野 まあね、マイク1本で録っていたんだよね。
坂本 そうか、アップライトにマイクを突っ込んでね。
細野 そうそう。アップライトも変な音してるけどね。
坂本 いつの時代のアーティストかわからない感じですよね(笑)。でも、もう30何年前ですよね。
細野 そうね、録って以来聴いたことなかったから。
坂本 よく再生できましたね。
細野 1回かけるとリードという部分が壊れちゃうから、自分では面倒くさくてできない。
坂本 今、カセットを再生させてデジタルで録る需要が多いんですって。
細野 そうだろうね。世の中にはいっぱいデータがあるからね。
坂本 細野さんのデモテープのあとは、本当は全曲紹介したいくらいなんですが……。
細野 全部ここでかけちゃったら、ちょっとね(笑)。
坂本 話す時間もなくなるし、CDも売れなくなるので(笑)。師匠たるヴァン・ダイク・パークスさんは、ほんとに往年のヴァン・ダイクを思わせる凝ったアレンジで……。
細野 そうなんです。
坂本 涙でちゃいますよね。
細野 涙でそうになったんですよ、我慢したけど(笑)。
坂本 我慢したんですか(笑)。僕ももう考えただけで泣けてきちゃいますよ。『イエロー・マジック・カーニバル』をアレンジしてくれてますけど、ヴァン・ダイクとは僕、この5~6年、メル友だったりするんですよ。
細野 あ、そう。どんなことを話しているの?
坂本 9・11のあとに連絡をとったら今のアメリカに対してすごく怒っていて、「こんなのアメリカじゃない!」って。
細野 彼は独特のアメリカ人だからね。
坂本 真髄をつかんでいるひとですよ、だからみんな怒ってますねアメリカの真髄系のひとたちは。バカラックなんてカンカンですよ。
細野 アーティストはみんなそうなんだろうね。
坂本 旧き良きアメリカの、1番輝いていた時代のひとりだから。
細野 まあ日本もそんな感じがあるけどね。怒ってない? なにかに?
坂本 まだ冷静ですよ(笑)。
細野 あ、そう(笑)。
──DISC 1
02.「イエロー・マジック・カーニバル」 ヴァン・ダイク・パークス
細野 イントロでまた泣けちゃう。
坂本 すごいですね、やっぱり。
細野 いや、だからね、感無量としか言えないよね。
坂本 ですよね。
細野 うれしいよ、ほんとに。長くやっていてよかったなと思いますよ。
坂本 ヴァン・ダイクふくめて9人のミュージシャンが参加していますよ。ヴァン・ダイクの特長の、音の出入りがすごく不規則というか、予期せぬうねりが……。
細野 そうそう。ひさしぶりに聴いたね。ヴァン・ダイクのこのスリルな感じ。
坂本 アルバム『Discover America』(1972年)で有名な弦の重層的な、何回聴いてもわからない、どうなっているんだろうという……。
細野 あのころ、はっぴいえんどでロスに行っていてね。ヴァン・ダイクに会ったときの印象がひどかったわけ。
坂本 奇人変人ですごかったらしいですね。
細野 なんかもう正気じゃなかった(笑)。
坂本 まあ、あの頃はみんなそうでしたが……。
細野 まともに話せない状態でね、いきなり日本の批判の演説がはじまったり。
坂本 それで、細野をアメリカに入れるな!って。
細野 ロバート・グリニッジっていうヴァン・ダイクが連れてきたトリニダッドのスティールドラム奏者がいて、彼に「それが欲しい」「どこで手にはいるのか?」って聞いたら、自分が作ってあげるって言うわけ。それで何ヶ月か待って送ってもらったのかな。それを聞いたヴァン・ダイクが「アメリカの楽器を持ち出すな!」って。でも音楽自体は、日本に帰ってきて『Discover America』を聴いてますます好きになった。スゴイひとに会ったんだなって。
坂本 1枚目の『Song Cycle』もすごいけど、やっぱり2枚目ですよね。ロバート・グリニッジさんは『イエロー・マジック・カーニバル』 にもTenor Pan (steel drum)でクレジットされていますよ。
細野 元気そうでよかった。
坂本 よかった、よかった。このオリジナルは、ティン・パン・アレイのファーストアルバム『キャラメル・ママ』に入っています、75年ですね。
細野 坂本君のをね、聴きましょうよ。
──次回3曲目、「風の谷のナウシカ」につづく
──坂本龍一|坂本龍一 × 細野晴臣(1)はこちら
細野晴臣トリビュート・アルバム
■DISC 1
01.「ろっかばいまいべいびい - Piano Demo ver.- 」 細野晴臣
02.「イエロー・マジック・カーニバル」 ヴァン・ダイク・パークス
03.「風の谷のナウシカ」 坂本龍一 + 嶺川貴子
04.「わがままな片想い」 コシミハル
05.「ハイスクール・ララバイ」 リトル・クリーチャーズ
06.「アブソリュート・エゴ・ダンス」 東京スカパラダイスオーケストラ
07.「終りの季節」 高野寛 + 原田郁子
08.「Omukae De Gonsu」 miroque
09.「ハニー・ムーン」 テイ・トウワ + ナチュラル・カラミティ
10.「北京ダック」 □□□(クチロロ)
11.「三時の子守唄」 ワールドスタンダード + 小池光子
■DISC 2
01.「恋は桃色」 ヤノカミ(矢野顕子×レイ・ハラカミ)
02.「スポーツマン」 高橋幸宏
03.「ミッドナイト・トレイン」 畠山美由紀 + 林夕紀子 + Bophana
04.「Turn Turn」 コーネリアス + 坂本龍一
05.「銀河鉄道の夜」 といぼっくす
06.「蝶々さん」 ウッドストック・ヴェッツ
(ジョン・サイモン、ジョン・セバスチャン、ジェフ・マルダー & ガース・ハドソン他)
07.「ブラック・ピーナッツ」 ヴァガボンド + 片寄明人
08.「風をあつめて」 たまきあや + 谷口崇 + ヤマサキテツヤ
09.「日本の人」 サケロックオールスターズ + 寺尾紗穂
10.「風来坊」 ジム・オルーク + カヒミ・カリィ
11.「Humming Blues −Demo ver.-」 細野晴臣