坂本龍一|坂本龍一が語る「schola TV」の楽しみかた
「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」 が夏休み特集として集中再放送
坂本龍一が語る 「schola TV」 の楽しみかた(1)
4月からNHK教育テレビにてスタートした「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」。6月19日に最終回「Drums & Bass-第4回」の放送を終えたが、多くの再放送のリクエストに応えて、BShiにて再放送が決定した。
8月17日(火)23:30~ バッハ編 第1回~第4回
8月18日(水)23:30~ ジャズ編 第1回~第4回
8月19日(木)23:30~ Drums & Bass編 第1回~第4回
インタビュー・文=吉村栄一Interview photo by JAMANDFIX
毎回、子どもたちと接して音楽の楽しさやおもしろさを伝える
──これまで順調に巻を重ねてきたCD付き音楽全集commmons『schola(スコラ)』ですが、今年の春にはNHKでシリーズ番組として放映されて大きな反響を呼びました。
テレビという大きなメディアに出ることで、スコラの存在やおもしろさをより広く世に伝えていこうと思ってやったのですが、反響がとても大きくて、ちょっとびっくりしています。CD付き書籍というスタイルの『schola(スコラ)』の各巻をつくるだけでも大変なのに、それをあらためてテレビ的に掘り下げていくというのは、本当に難しい作業でした。そしてさらに毎回、子どもたちと接して音楽の楽しさやおもしろさを伝える。観ているひとはとてもおもしろかったと思うんですが、もう、気苦労が多くて多くて……(笑)。評判がよかったのが本当に救いに思えるほど大変でした。
──続編を期待する声も大きいですよね。
ぜひ続編を、という依頼はされています。まあ、commmonsの主宰者としては当然、やるべきだと思うんですよ。「サカモト、つべこべ言わずやりなさい!」と(笑)。しかし、サカモト個人としては、あんなに大変な思いをまたするのか! という葛藤があります。やはり、僕はテレビに向いてないんですよね。独特のプレッシャーを感じる。なんだろうなあ、あの重圧は。
──先日、京都で秋のスコラの特別番組のための公開収録をおこなって、それを拝見しましたが、とても生き生きと楽しそうにやっておられましたが?
あれは、楽しかったですね、なんだろう、ああいうオジサンたち(浅田彰氏、小沼純一氏)とおしゃべりする分には苦にならないんです。やはり子どもとのワークショップが大変。子どもたちにとっても、自分にとっても、視聴者にとってもおもしろいかたちで行うというのが難しい。扱う題材によっては、子どもたちにある程度の音楽的知識がないと通じない場合もあるし、かといって知識がありすぎても新鮮な驚きを感じてもらえない場合もある。だからそもそもどういう子どもたちを対象にしてワークショップをするかという企画の段階からとても悩むんです。というのも、僕がつっぱしっておもしろいことをやろうとするには音楽的知識がある子どもじゃないとついてこられないだろうし、でも音楽的知識があるということは、既成の枠組みのなかにすでにいるということだし、難しい。
──その苦労の甲斐もあって、出演している子どもたちも楽しそうでしたが、番組を観ているひとの、とくに音楽に詳しい大人たちの反響も大きかったですね。
そう。大人のリアクションもすごくよかったんです。「昔、学校で受けていた音楽の授業がスコラのような内容だったら、もっと音楽が好きになっていたに違いない」とか。こういう声はうれしかった。いまからでも音楽をもっと知って好きになるには遅くないよというメッセージを伝えられたんじゃないかと思うんです。また、子どもをもつ親や学校の先生からも反応がとてもよかったのもうれしい。最後のシリーズでは、ぼくの出身校の世田谷の祖師谷小学校の生徒たちとのワークショップでしたが、ものすごく子どもたちの反応がよかったんですよ。とにかくみんな自分の意見や感想を言いたがる。こちらがたじたじするぐらい積極的で、まとめるのが大変だったんですが、“あれ? いまの子どもはこんなに積極的なんだ、僕のころとは大違いなんだ”とびっくりしました。
──どんなところが違いました?
僕が小学生のころなんか、なるべく先生にあてられないように隅っこで小さくなってた(笑)。それがこうも変わったのかと驚いたのですが、じつは聞くところによると学校ではみんなあんなに積極的じゃないらしい。こちらが「みんなの意見を聴きたいよ」という姿勢を見せてあげると、どんどん発言が出てくる。子どもにもみなそれぞれいろいろなアイデアや考えがあって、本当は言いたくてしかたがない。学校でも本当はみんなもっと積極的に意見を言いたいんじゃないかな、ひょっとして教育の現場では積極的に発言できないのかなあ、と思ったりもしましたが、それでも子どもたちがあんなに元気だったのはうれしかった。日本の未来は暗くないぞっていう希望がもてたことは大きかったです。
──未来への希望を灯すためにも、ぜひ続編を!(笑)
でも、寿命が縮まっちゃうしなあ(笑)。
「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」 が夏休み特集として集中再放送
坂本龍一が語る 「schola TV」 の楽しみかた(2)
第6巻「古典派(The Classical Style)」は、9月22日発売
──(笑)。一方、全集のスコラのほうはどんどん予定も決まってきていますね。
そう、まず9月に第6巻となる「古典派(The Classical Style)」が出て、そしてベートーベン。音楽史的には古典派のなかには当然ベートーベンも入るんだけど、さすがにベートーベンは独立させないとボリューム的に入りきらないので分けました。
──京都の公開収録はその古典派とベートーベンについての特別授業で、本当におもしろくて目からうろこの連続でした。
全集のほうにも力が入っているので、ぜひ付属のCDを聴きながら読んでみてください。そして、クラシックが2巻つづいたあとに予定しているのは、“ロックへの道”。ロックという音楽が成立していく過程を追う企画ですね。既刊の「ジャズ」や「ドラム&ベース」ともかぶるところはあるので、そのあたりの整合性をちゃんと考えてやりたいと思っています。数年前にFMラジオのスペシャル番組で、大瀧詠一さんをゲストに招いてロックのルーツを探るという特集をやったんですが、それがすごくおもしろかった。大瀧さんが考えるロックの成立への歴史、プレスリーにいたるアメリカの音楽の水流を教えてもらって、そのときの驚きがスコラのような企画をやろうと思ったそもそものきっかけのひとつにもなっています。あのときの流れを基本に、音楽評論家の北中正和さんらに補完や捕捉を手伝ってもらってかたちにしようと思っています。
──それもとても楽しみです。
わくわくするでしょ。そもそものぼくの素朴な疑問として、なぜあの時代のアメリカにああいうロックという音楽が生まれてきたかというものがあったんですよ。ブラジルでのボサノヴァの成立の場合は、一見、ボサノヴァという音楽が唐突に出てきたように見えて、じつはブラジルにはボサノヴァが生まれてくる音楽的下地がちゃんとあった。ある種の必然があって登場してきたのですが、ロックもきっとそうなんじゃないかというところを知りたい。スコラは、じつはみなそうなんです。「なぜ、その時代にああいう音楽が誕生したか」。そこを学びたいんです。
次の古典派にしても、いまはみなモーツァルトやハイドンを普通に聴いていますが、当時、なぜああいう音楽が生まれてきたかについては、きっと必然の理由があるはずなんです。スコラをつくりながらいろいろ勉強して、みんなでその経緯を解き明かしていくというのは本当に楽しい作業です。
──次世代への啓蒙や継承だけではなく、自身の勉強にもなっている?
京都での公開収録の鼎談でも言ったんですが、自分が言い出したスコラという企画は、いざはじめると自分がいちばん勉強しなきゃならない企画だったんです。子どものときや学生時代も、そこそこ勉強はしたけれども、いまのほうがずっと勉強してます(笑)。昔とちがって資料も多いし、クラシックだけじゃなくてジャズやロックも学び直さないといけない。パニックになりつつ、すごくおもしろい。こういう機会でもなければ、たとえばベートーベンをまとめて聴き直したりすることない。京都では数十年ぶりにピアノでベートーベンを弾いたり。ぶっつけ本番だったけど意外と憶えてるものだなあと、感慨もありましたね。
──あそこはテレビ放映でも見どころのひとつですよね。
勉強するほど、既成概念がどんどん打ち破られるんです。みなさんもそうでしょうけど、ベートーベンもモーツァルトもこれこれこういう音楽家だって一般的なイメージがあって、僕だってそれとおなじような印象をもっていた。でも、今回あらためて調べてみると、知らないことがいっぱいあったんですよ。スコラが音楽全集、百科を謳(うた)う以上は事実のまちがいがあってはいけないので、情報は正確にして、そこに僕たちの解釈を自由に乗せていく。勉強の毎日です。いまは資料が多いですから、参考で載せた資料にしても、同じ指揮者とオーケストラの、同じ日の同じ演奏でも、編集やマスタリングで差があるし、「何年に出たどこそこのLPでは指揮者が指揮台に登るときの足音が入っている」なんて情報があったり(笑)。大変ですけど、「大変なんすから、もう!」なんてぼやきながら楽しく勉強しています。
坂本龍一総合監修による『音楽の学校(=schola)』
第6巻「古典派(The Classical Style)」
commmons: scholaシリーズ第6巻は、クラシック第4弾となる「古典派(The Classical Style)」。今回扱う作曲家はモーツァルト、ハイドン、C.P.E.バッハ(J.S.バッハの息子)ほか。バロック音楽とロマン派をつなぐ音楽史上もっとも重要な時代のひとつ「古典派」について、坂本龍一が独自の観点から編み直し、クラシック音楽入門者/愛好家をとわず魅力的な視座を提示する。
「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」夏休み特集
番組HP|http://www.nhk.or.jp/schola/index.html