坂本龍一|坂本龍一 NEW ALBUM 『cendre』 を語る(2)
坂本龍一 ニューアルバム『cendre』 を語る(2) ~美しい音の河のように~
8曲目『cendre』
アルバムのタイトルチューンの『cendre(サンドル)』は、普通に聴いたら「坂本はピアノを弾いているのだろうか、どの音がピアノなんだろう?」と思われるかもしれませんが、逆に言うとそれぐらいお互いが融合し合っているということなんですね。あえてそういう手法でやっているんですけど。電子音と生の音がどろどろと錬金術のように溶け込んで一体になっている例で、「灰」ですね。そういう良い意味で。ふたりの男の友情の深まりが音楽の深みになっていればというつもりでつくっています。
日本語と英語が混じっている曲のタイトルは最後につけたんですが、「シンプルなほうがいいよね」ということで、お互い好きな簡単な単語をメールで出し合って決めました。かならずしも言葉と音楽がぴったりじゃなくて、ミスマッチぐらいでもいいかな?と。「サンドル」=「灰」、僕たちにふさわしい。
過去に存在しない音を求めて
ライブは、ほぼこのアルバム通り演ろうと思えばできちゃう(笑)んですけど、それではつまらない。もともと僕のピアノ部分はほぼ即興ですから変えていいんですが、でも即興で弾いているわりには譜面で弾いているような整い方をしているので、これはこれで僕は好きな音なので、比較的これに近く弾いているんですが、そうするとフェネスのやることがないので(笑)、どんどんギターを弾けよと。全体的に音に空間があるので、ほかの音を追加しようと思えばできるんですね。だからライブは多少ワイルドになっているかな。
言っていいのかどうかわからないけど、フェネスがギターを弾きはじめたときはニール・ヤングにはまってはじめたらしいんですよ。だから奥底にそういう熱いロックスピリットは感じますね。
フェネスと話していて、僕も作り込んでいく電子的な音も大好きなんですが、その元になる種みたいなものがよくないと結果もおもしろくないんですよね。だからフェネスはギターから出ている音、アンプの音、レコーディングの仕方などかなり気をつかってやっているんですよね。そこから触発されないと、その後いろいろ音をくわえたり変えたりしてもあまりいいものにならないということは、意見が一致したんです。
あるいはカールステン・ニコライのように、幾何学的、建築的に一つの波形を積み重ねていくような、繊細な仕事をコンピュータの中でやっている、水晶の結晶のように美しい論理的な構造をつくっていこうという意思、これはこれですごくロマンティックだと思います。ひとによって表れ方は随分違います。
人間性がちがうから、ボールを投げて返ってくるものがちがうと、触発されるものが全然ちがって、自分の幅が広がっていくような気がする。フェネスもカールステンも、アルバムをつくろうとか、プロジェクトをやろうとか、そういうことは全然考えないではじめたんです。やってみておもしろいものができたので、1回、2回、3回とつづいていっただけの話で。
過去に存在しなかった音というか、未踏の地に踏み出すことが1番楽しいわけです。
──坂本龍一 NEW ALBUM 『cendre』 を語る(1)はこちら
※これは、音楽評論家の佐々木敦氏とのトークのなかから坂本さんの発言を抜粋したものです。4月29日(19:20~22:00)に放送されるNHK-FM「音楽の美術館・サウンドミュージアム 坂本龍一」をぜひお楽しみください。
次回、オウプナーズの「talksakamoto」は、おなじくNHK-FM「音楽の美術館・サウンドミュージアム 坂本龍一」の収録から、細野晴臣さんをゲストに迎えて、4月25日(水)にcommmonsからリリースされる『細野晴臣トリビュート・アルバム』についての対談を掲載。4月24日の第1回をお楽しみに!