坂本龍一 NEW ALBUM 『cendre』 を語る(1)
坂本龍一 ニューアルバム『cendre』 を語る(1)
~美しい音の河のように~
3月28日(水)、坂本龍一とクリスチャン・フェネスの「fennesz+sakamoto」初のオリジナル・フルアルバム『cendre』がいよいよ発売。
オウプナーズでは、4月29日(19:20~22:00)に放送されるNHK-FM「音楽の美術館・サウンドミュージアム 坂本龍一」の収録からアルバムについて語っている部分を抜粋し、独占先行掲載!
オンエアではゲストに音楽評論家の佐々木敦氏を迎えたトークをお楽しみください。
1曲目「oto」
今回のアーティスト名は「フェネス・サカモト」で、アルバム名は『サンドル』、これは「灰」という意味です。
クリスチャン・フェネスはウィーン在住で僕より約一回りぐらい若いアーティストで、ウィーンのエレクトロニカ系では一番名前が通っている人ですが、必ずしもウィーンの音楽シーンの中心的存在というわけではありません。
この『サンドル』に収録されている11曲は、つくった順番で収められているんです。能がない(笑)ですけど、なぜかこれがとても自然な置き方で、これ以外は考えられませんでした。
実はもうすでにフェネスと僕の2人でのライブも、ローマとスペインのマラガで演っているんですけど、ライブの時もやはりこの曲順で演奏しないと落ち着かない(笑)。
ですから、僕たち2人が一番最初にどんなふうに音を出していったかということを1曲目の「oto」から感じてください。
フェネスがつくる美しい音の河
フェネスがつくってくれた音は、風景画のようで、大気のようでもあり、河のようでもあり、「音の河」という表現は武満徹さんが使っていたものなんですけど、そんな感覚にこれは近いんですね。
ピアノでメロディらしきものは弾いているけれど、そのメロディも構築的なものではなくて、ある風景の中の一陣の風のようなもの……。
フェネスとはこの3年ぐらいオーディオのファイルを交換するスタイルで進めてきて、一緒にレコーディングしたのは一番最後にミックスしたときの1、2日ぐらいです。
ちょうど同じ時期にドイツ人アーティストのカールステン・ニコライ(a.k.a Alva Noto)ともコラボレーションをしていて、面白いのは、カールステンとやっていたときは、僕がピアノの素材を録音して彼に送って、彼がそれを料理するという「ピアノ発」だったんですけど、フェネスとのコラボレーションはなぜか、決めたわけではないんですが「フェネス発」なんです。
フェネスが音の河のような音を3トラックずつ程度送ってくるので、それをもってスタジオに行ってピアノで即興する。それで、「こんなピアノを弾いたよ」と送り返す。
そうして何度か繰り返しているうちに曲がたまったわけです。
フェネスがつくってくれる美しい音の河に、自分をゆだねて、好き勝手弾いていればいいので、限りなく楽しいというか、恍惚というか、気持ちいいものでした。
自分の流儀で……
僕は彼らよりもひとまわり年上で、僕がクラシカルなバックグラウンドをもっていることも知っているし、その上、ピアノという楽器は威圧的でしょ。彼らはギターとかラップトップなわけで、たぶん一緒にやると威圧されちゃうんじゃないかと。僕ももしかしたら自然に弾けないかもしれないし、だからお互いバラバラに自分の流儀で演ったほうが面白いものが出来上がるような気がします。
もちろん2人のミュージシャンが一緒にいれば、次から次へといろんなアイデアを思いつくので、その場で試せる良さはあるけれども、1曲目の「oto」のときなどは、お互いによく知らないわけで、メールや手紙のように音を渡しておいて、返ってくるのを待って間合いを計るようなこともあったのかもしれない。
そうして何年か経つと、お互いに慣れてきて、フェネスとは2005年のぼくのツアーにメンバーとして参加してもらったりして、お互いの生い立ちとかを話すようになってくると、世代間の壁とか、バックグラウンドの壁とか、カルチャーの壁がだんだん少なくなってきて、楽に、一緒にスタジオにいても同じ目線でいられるようになった。
お互いのコラボレーションも、音楽的に深めていこうという努力はしているんですけど、その深まっている例を8曲目のタイトルチューン「cendre」で聴いてみてください。
NEW ALBUM
fennesz + sakamoto(フェネス・サカモト)
『cendre』
収録楽曲:
01: oto
02: aware
03: haru
04: trace
05: kuni
06: mono
07: kokoro
08: cendre
09: amorph
10: glow
11: abyss