『スノーピアサー』ポン・ジュノ監督、来日記念インタビュー|INTERVIEW
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2015年7月14日

『スノーピアサー』ポン・ジュノ監督、来日記念インタビュー|INTERVIEW

INTERVIEW|世界が羨望する映像作家の最新作!
『スノーピアサー』

ポン・ジュノ監督 来日記念インタビュー(1)

いまや、最新作が最も待たれる映像作家のひとり、ポン・ジュノ監督。その才能は、ジャンルはもちろん、題材や製作国、作品の規模を選ばない。それを証明して見せたのが、最新作となるSF大作『スノーピアサー』だ。その魅力を探るべく、来日した監督に話を聞いた。

Photographs (portrait) by SUZUKI KentaText by MAKIGUCHI June

舞台は氷河期に突入した2031年の地球

フランスの名作コミック『Le Transperceneige』を原作とした本作は、自身初の全編英語劇となる。製作は、やはり韓国映画界を代表する世界的な監督パク・チャヌク(『オールド・ボーイ』『イノセント・ガーデン』。主要キャストに、自ら無名俳優にまじってオーディションにやってきたクリス・エヴァンス、監督のファンだというティルダ・スウィントン、ポン監督の『母なる証明』に心を動かされたと言うジョン・ハート、監督の盟友ソン・ガンホら国際的な俳優たちを迎え、壮大なエンタテインメント作品を仕上げた。

すでに世界から注目を浴びているとはいえ、これほどまで恵まれた条件で“世界デビュー”を飾る人もそう多くないだろう。もちろん、それも実力のなせる業にほかならない。

『スノーピアサー』 2

『スノーピアサー』 3

物語の舞台は、氷河期に突入した2031年の地球。永久不滅のエンジンを持つ列車「スノーピアサー」だけが人類に遺された唯一の生存場所だ。“ノアの方舟”ともいえるこの列車では、富裕層と貧困層に分けられ、それぞれが別世界に暮らす。最後尾車両に暮らす貧しく飢えた人々は、豪華な先頭車両に暮らす人々から受ける差別に苦しみ、革命の準備を進めているのだ。

面白いのは物語だけでなく、2014年7月1日6時に、地球温暖化に終止符を打つための薬品を撒き、温度を最適に保つとか、全長43万8千kmの線路を1年かけて1周するといった細かい設定だ。これが作品に大きな説得力を与えていく。

「これは、原作にはない部分です」とポン監督。「地球温暖化を防止するために冷却材の科学薬品をまいたところ氷河期がきてしまったという設定自体、自分が考えたもの。人間が自然をコントロールしようと思ったら、反対にひどい目に遭ってしまうところから映画をスタートしたかったんです。

原作は、列車がどこに向かっているのかも具体的ではありません。終わりなく走る列車が象徴的なんです。でも、それでは2時間のドラマには適さない。

ポン・ジュノ監督 4

そこで、サスペンス感を出すためにも、1年で一周する列車というアイディアを思いつきました。この設定により、いろいろな仕掛けも可能になりましたね。みんな何年も列車に乗っているので、クリスマスや新年でどのあたりを通るかわかっている。だから、列車で時間を意味することが可能に。次はトンネル、次は橋とわかっていることが、いろいろなアクション、サスペンスにつながったと思います」

INTERVIEW|世界が羨望する映像作家の最新作!
『スノーピアサー』

ポン・ジュノ監督 来日記念インタビュー(2)

「名もなき人が一生懸命ミッションに臨む物語が好き」

すべてが列車のなかで起こる物語。それだけに、列車でできうることすべてを詰め込みたかったと話す。

『スノーピアサー』 6

「ほかの監督がもう列車の映画を撮れないほどに、すべてを描いてやろうという幼稚な魂胆があったんです(笑)。

たとえば、列車がカーブで曲がったときに、前の車両が見えることがありますよね。列車に関するドキュメンタリーで観たんですが、アメリカにはカーブがU字型になっている線路があり、おなじ列車にもかかわらず、逆方向へ行く列車がすれちがうように見えるものもあるんです。鉄道マニアには有名だそうですが、そんなところからも銃撃戦の着想を得たりしました」

派手なストーリー・ラインだけでなく、ディテールを積み重ねながら、人物の心理や生活の様子を表現する手法も見事だ。ちょっとした情景描写が物語に奥行を持たせていくのだが、そんな風に丁寧に作られた作品からは、1分たりとも目が離せなくなる。

「ディテールというのは、こだわろうと思わなくても自然とこだわってしまうもの。小さくても、その積み重ねで映画ができている。つまり映画の核心とも言えるし、全体とも言えるんです。今回の作品は、抽象的な概念やいろいろなメッセージが含まれていますが、より肉体的な作品にしたかったんです。観ている人が登場人物たちとおなじように痛みを感じるようにしたかった。

具体的な例では、特権階級が貧困層に罰を与えるシーンで、腕を列車の外に出して凍らせますが、そこでスーツを着た人々が、凍った腕をスプーンでとんとんと叩きます。あのシーンが無くても物語は進んでいく。でも、あえて身体で痛みを感じてもらいたくてあの音を入れました。ディテールにこだわるというのは、自分のやり方でもあるんですが、自分自身が変態だという証明でもあるんです(笑)。お恥ずかしい話ですが。わたしは身体で観る映画が好きなんです」

ポン・ジュノ監督 7

ポン・ジュノ監督 10

本作には、監督のトレードマークともいえるテイストがそのほかにも多く詰まっている。たとえば、これまで自身の作品で何度も語られてきた名もなき人びとの活躍だ。『殺人の追憶』の刑事たち、『グエムル―漢江の怪物―』の父親、そして『母なる証明』の母親。彼らに通じる登場人物たちが、今回も、大きな困難に直面したときに思わぬ底力を見せつけ、観客の心を熱くする。

「すでに超能力を持っている人が簡単なミッションを遂行しても、ドラマとしては味気ないですよね。わたしが描きたいと思っているのは、その逆。ちょっとおバカな刑事が問題を解決したり、めちゃくちゃな家族が怪物と戦ったり。能力のない人が一生懸命ミッションに臨む物語の方が自分では好きなんです。私たちも、どちらかといえばそちら側の人間ですからね」

INTERVIEW|世界が羨望する映像作家の最新作!
『スノーピアサー』

ポン・ジュノ監督 来日記念インタビュー(3)

「不都合な真実にも向き合う、勇気ある映画を作らなければならない」

韓国の実力派俳優、ソン・ガンホの活躍もジュノ監督らしいキャスティングだ。『グエムル―漢江の怪物―』を観た人なら、思わず微笑んでしまう設定も憎い。彼が演じるナムグン・ミンスは、国際色豊かな乗客のなか、1人韓国語で押し通す。

「彼には英語をしゃべってほしくなかった。『SAYURI』(2005年)を見れば、言葉がすべてを台無しにしてしまうことがわかりますからね」と笑う。ミンスは自動翻訳機を使ってコミュニケーションをとる。「実は、すでにスマートフォンに自動翻訳アプリがあるんです。SFの話じゃないんですよ」と言って、笑いながら実演してみせる姿は実にチャーミングだ。

『スノーピアサー』 13

ミンスは登場時間こそ多くないが、この作品では大きな役割を担っている。憎しみが原動力となり、いまを破壊することを目指す人々の物語のなかで、彼だけが別の世界を思い描いているのだ。

「いろいろな登場人物がいるなか、わたし自身の気持ちを反映させたのが、ソン・ガンホの役です。クリスの役はこの映画においては革命を試みるリーダー。ずっと、特権階級が暮らす前方車両に行こうとしています。でも、前の車両に行けたとしても、それは所詮列車のなかに過ぎません。ミンスは、全く違う次元で別のビジョンを持っている。その先はネタバレになってしまうから言えませんが(笑)。でも、それこそ映画が語ろうとしているテーマ。壁だと思っていたそれが、扉なんです。もちろんそれは簡単ではなく、困難なプロセスではありますが、それは見方によれば真の革命といえるでしょうね」

娯楽作といえども、ポン監督の作品には、熱いメッセージが込められているのだ。そのメッセージを運ぶために、必要不可欠なのが人間の本質の描写だ。本作でもこれまでの作品同様、極限状態でむき出しになる人間の本質を描いているが、それを突き詰めていくと、人間の醜い部分をも直視せざるを得ない。それでも、このテーマに挑むのはなぜなのだろう。

「実際に人間というのは思ったより複雑であり、また知りたくない不都合な真実もとても多い。2時間の映画でそれを描くのは、容易ではありません。でも、それが難しいからといって、幸福ばかりでごまかした偽善的な娯楽エンタテインメントだけを描いたなら、人々は映画に嫌気がさすはず。映画的興奮のなかでもそのような不都合な真実に向き合う、そんな勇気ある映画を作らなければならないと思っています」

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Bong Joon-ho|ポン・ジュノ

2000年に『吠える犬は噛まない』で、劇場用長編映画の監督デビューを果たす。その後『殺人の追憶』(2003年)『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)『TOKYO!<シェイキング東京>』(2008年)『母なる証明』(2009年)と1作ごとに、アジアそして世界の映画界から注目される存在となっていった。鋭い観察眼を武器に、極限状態に置かれた人々の姿を通して、人間の本質をえぐり出す。いまや、最新作が最も待たれる映像作家のひとりだ。

『スノーピアサー』

2月7日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー

監督|ポン・ジュノ

出演|クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、ジョン・ハート、エド・ハリス

脚本|ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン

撮影|ホン・ギョンピョ

2013年/韓国、アメリカ、フランス/125分

配給|ビターズ・エンド、KADOKAWA

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