第7回 nine SIXtyのジュエリー製作風景(2)
nineSIXty 加藤博照
第7回 nine SIXtyのジュエリー製作風景(2)
nine SIXtyのジュエリーの製作風景をレポートしたシリーズ。今回は前回の工程につづき、レザーのカットとステッチ、仕上げのなめしという流れをご紹介します。
Text by SATO Atsushi(GRINGO&Co.)photo by Kay Uzawa
レザーの状態を見極めるのが大切
前回に引き続き、ワンスターと呼ばれるモデルの製作です。
レザーにクセをつけて円筒形にし、接着面を削って滑らかにつながるようにしたら、次は大まかなリングの形にレザーをカットします。カットの形状については、頭のなかのイメージにもとづいて処理していきます。「これが正解!」っていう理想形は、もしかすると一生見つからないかもしれませんね。ジュエリーには僕なんかじゃ計り知れないぐらいの、無限の形をとる可能性があると思うんです。
次に、ステッチをするための目印として、目打ちを行います。手縫いをするための下準備です。ここであまり強く目打ちをしてしまうと、穴が空いてレザーの組織がもろくなってしまいます。繊細に、優しく力を加えていくことが大切です。革はもともと生きもの。たとえばリザードひとつとっても、部位はもちろん、個体によってレザーの特性、質が異なります。湿度や温度によってレザーの状態も変わってきますし、どういう処理が適切なのか、その場で判断するのがとても難しいですね。
ステッチの糸はワックスでコーティングをほどこします。縫いつけていくときに糸を滑りやすくして通りがよくなるようにするのと、手縫いでしぼっていくので糸が戻りにくくなる、さらに糸自体の強度が上がるなど、欠かせないアイテムです。
ワックスをかけた糸を使い、目打ちの目印をもとに、レザーに糸を通して縫いこんでいきます。nine SIXtyのジュエリーは、糸を縫いこんでいくときの力などにより、なかの金属や石をとめる仕組み。力が働く方向を計算して、さまざまな方向からステッチするこの方法は、独学で編み出したもので、細心の注意を払って行います。
なめす道具は特注の割り箸
一部分のステッチが完成したら、外側からすこしずつカッティングをしていきます。これを繰り返し、ステッチ工程の最終段階には、完成形としてある程度ラインが出てきます。
でも実はここからが大変。ラインがキレイに出てから仕上げるまでには、4つぐらいの工程が必要なんです。まずは、なめし。3回ぐらいなめし、さらにもう一度念を押して3回ほどなめし直します。次に染色し、またなめして、最後にコーティング。意外かもしれませんが、縫い終わってからの方が時間がかかるんです。
なめす道具は、適当な角度に断面を削った割り箸(笑)。でもこの割り箸、実はかなりのこだわりアイテムで、ウッドの職人の知り合いに木を選んで削り出してもらったものです。木の堅さと質感が、市販のものではまったく適さない。微妙な力を加え、こすったりして馴染ませるなめしの作業は、リングの縁のエッジ部分を柔らかくして丸くしたり、レザーの表面をなめらかな曲面にするなど、リングの仕上げとして非常に重要。かなりの時間をかけて丁寧に行っています。
僕自身はもともと、とても飽きっぽい性格なんですけど、ジュエリーの製作だけはいくらやっても飽きがこない。徹夜してもぜんぜん苦じゃないんです。常に新しい素材や新しい形を模索して、なんとか形にできたときの喜びはほかに得がたいものがあるし、オーダーいただいた方が満足のいくでき栄えに製作できたときの達成感も格別。いくつになっても現役のアーティストして、生涯つづけていけたら最高ですね(笑)。