ボルボの安全に対するこだわり|Volvo
Volvo Advanced Safety Experience 2013|
ボルボ アドバンスド セーフティ エクスペリエンス 2013
リアルワールドでの効果に焦点を当てる
ボルボの安全に対するこだわり
2020年までに、自社で生産する新車での死亡者・重傷者をゼロにする。『ビジョン2020』のスローガンとともに、世界一安全なクルマを目指すボルボは、いまもっともセーフティーテクノロジーの進化に力を注ぐ自動車メーカーのひとつだ。東京オリンピックが開催されるその年までに、クルマ社会はどう進化しているのか。極めて現実的な近未来の世界をボルボの本拠地スウェーデンから、河村康彦がレポートする。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
安全というテーマ
ボルボ車は安全だ──。特に根拠があるというわけではなく、「何となくイメージとしてそう思っている」という人は、実は今でも少なくないかも知れない。
ひと昔前までのボルボ車であれば、その角張った独特のシルエットが「どことなく頑丈そう」で「何となく安全そうに見える」と、そんな”効用”をもたらす可能性も実際にあったかも知れない。しかし、街行くボルボ車がすっかりあたしい顔付きの持ち主へと世代交代した今の時代、そもそも「ボディが頑丈であれば安全」と、そう短絡的に考える人そのものが多くはないだろう。
とはいえ、それでもボルボ車がイコール安全という世の中一般のイメージは、今でも全く揺らいではいないはずだ。それどころか、ライバルメーカーで安全というテーマを専門に扱う人に訊ねても、「実際にボルボの実力は抜きん出ている」と、そう教えてくれる人も少なくないのだ。
このブランドがそう評価をされるに至った要因は、一体どこにあるのだろう?
思うにそれは、このメーカーが古くから「『安全』こそが自らのコアコンピタンスであると考え、そこに対する真摯な取り組みの姿勢を一時も崩すことが無かったからだ」と、自分はそう考える。そしてどうやら、そんなこのブランドならではの特長というものが改めて見直されるタイミングが、今、訪れているようでもある。
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交通事故を検証・自ら再現
今では世界のどのモデルにも装備され、多くの人がそれを当たり前のようにもはや”無意識”に用いる基本中の基本の安全装備──そんな3点式シートベルトを世界で初めて”発明”したのは、実は1959年のボルボだった。
早くからその有効性に気づいたこのメーカーでは、”腰ベルト”のみだった従来の2点式に対するアドバンテージを確認の上でその効果の一時もはやい普及を願い、敢えて取得済みだったその特許を、無償で周辺メーカーに公開する決断を下したという。
それから10年余りが経った1970年には、スウェーデンの本社周辺で自社モデルが絡む重大事故が発生した場合に、直ちに現場へと駆けつけて事故原因や車両の損傷状態の詳細を分析する事故調査隊を結成。思えば、ボルボ車の安全イメージが本格的に確立されはじめたのは、この辺りからかも知れない。ちなみに、そんな事故調査隊が出動をした回数は、現在までにすでに4万回を上回るという。
そうした”リアルワールド”の出来事を叩き台に、独自に安全性の向上に努めたボルボでは、1978年にシート組み込み式のチャイルドクッション、86年にリアセンター席の3点式ベルト、94年にはサイドエアバッグ、さらに98年にはカーテンエアバッグ……と、『世界初』のアイテムを立て続けにリリース。
そして2000年には、ホンダの発表とほぼ同時期となる世界でもっとも早いタイミングで、大規模な屋内全天候型の衝突実験設備を完成。それ以来、リアルワールドで起きている交通事故を検証し、それを自らで再現する事によって独自の解を導こうとする姿勢は、さらに加速されたと言えるのである。
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設計の基本は常に『安全』でなければならない
そんなボルボが2008年に提唱した何とも大胆なコミットメントが、『ビジョン2020』なる理念だ。これは「2020年までに、最新のボルボ車による死亡と重傷事故をゼロにする」という壮大なもの。そして独自の事故データベースの解析によれば、ボルボ車に乗った場合の負傷リスクというのは、実際に2000年以降ではすでにおよそ50パーセントも低減された事が明らかになっているという。
そもそも、「設計の基本は常に『安全』でなければならない」というのが、ボルボが創業当時から唱えて来た事柄。そして、最近になってそんなフィロソフィの持ち主であるこのブランドが特に力を入れるのが、ドライバーをサポートするさまざまな先進アイテムだ。
前方車両への追突回避もしくはダメージ軽減を図る“シティセーフティ”、衝突可能性のある歩行者を検知して自動ブレーキングを行う“ヒューマンセーフティ”、2004年に世界初導入したものをさらに進化させたドアミラーの死角をカバーする“BLIS”、並行駐車からの後退での脱出時に側方からの接近車両を知らせる“クロストラフィックアラート”、車線逸脱を防止する“レーンキーピングエイド”等々と、そうしたアイテムの中にはすでに実用化されているものも数多い。
そうしたテクノロジーをさらに一歩進め、近い将来にリリースを予定するというリアリティに富んだアイディアを一堂に披露するワークショップが、「かつてはボルボの所有だった」というスウェーデン本社に隣接するテストコースで先日開催された、ここに紹介をする『Advanced Safety Experience 2013』なるイベントだ。
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6つの次世代安全テクノロジー
『Advanced Safety Experience 2013』というタイトルが示しもする通り、この催しは単なる勉強会ではなく、実際にそのアイテムの動作なども確認をする”体験型”のイベントだった。今回ここで発表されたのは、「来年発売の次期XC90から導入予定」と明らかにされた4つのアイテムを含め、合計6つの次世代安全テクノロジー。そのなかで、完全な無人運転が含まれるものを除いては、すべてが実験車に乗り込み、あるいは自らステアリンクを握っての実体験をおこなう事が出来た。
このうち、前述次期XC90から導入予定とされたアイテムに関しては、いずれもすでに市販モデルにも採用されているミリ波レーダーとカメラを検知ディバイスに用いたもの。それらの検知能力や分析能力を高めるとともに、ブレーキや電子制御スロットル、電動パワーステアリングなどを巧みに操る事で、あらたな車両挙動のコントロールを実現させているのがこれらのアイテムというわけだ。
発表された6つのアイテムの詳細は、以下の通りとなる。
夜間歩行者検知機能付き自動ブレーキ
使用するカメラの感度を高める事で、すでに実用化された”ヒューマンセーフティ”を、暗闇の中でも作動するようにバージョンアップしたアイテム。自らステアリングを握ってのデモンストレーションでは、冷戦時代に用いられたという真っ暗な地下格納庫内(!)にセットをされた歩行者型のダミーに向かって、V70の実験車にて25km/hで”突進”。
真っ赤に輝くヘッドアップディスプレイによるワーニングと警告音の直後に、自動ブレーキによって急減速。見事に、接触寸前での停止を果たした。前走車に対してはもちろん、自転車にも対応するという。
動物検知機能付き自動ブレーキ
「4本脚で立っている」という特徴を利用して動物である事を判定し、衝突の危険があると判断すると”ヒューマンセフティ”同様に自動ブレーキングをおこなうもの。パッセンジャー席前にディスプレイを特設した実験車による同乗デモ走行では、コース上に置かれたヘラジカの模型を映し出すディスプレイ内の映像が数十mの手前から四角く囲われる事で、「それが動物である」と認識した事を確認出来た。
脚が長く、ボディがウインドシールドと同様の高さとなる大型の動物は、万一の衝突時にそれが車内に飛び込んで大きな加害性をもたらす可能性が高いという。「2012年には、1年で4万9,000件もの動物との衝突が報告された」という、いかにもスウェーデンのメーカーらしい”発明”だ。
路肩/障害物検知機能付き接触・逸脱回避システム
自動ブレーキ機能と同様にミリ波レーダーとカメラを用いるものの、ブレーキングではなく操舵によって回避動作をおこなうのが大きな特徴。側方への接触、もしくは路外への逸脱など、アクシデント発生までの距離的余裕が小さい場合、フルブレーキングをおこなってもそれを回避する事が出来ない場面が少なくない。スウェーデンでは、全交通事故死者の53パーセント、全重傷者の42パーセントが路外への逸脱によるもので、アメリカでもそれは死者の半数を占めるというデータがあるという。
自身でステアリングを握ったV70で、70km/hの速度で右側のガードレールに斜めに突っ込む、という”恐怖のデモ走行”では、接触直前にステアリングに想像以上に強い左操舵のトルクが発生し、見事接触を回避する事が出来た。レーンマークの引かれていない路肩に対しても有効というのは、リアルワールドでの有用性がかなり高そうだ。
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ボルボの安全に対するこだわり (5)
もっとも難しい課題
自動操舵機能付き前車追従クルーズコントロール
追突を回避するという安全性面のメリットも去る事ながら、渋滞した都市高速などでは快適性面での恩恵も計り知れないと期待が出来るのがこのシステム。前車追従時の加減速だけではなく、コーナリングに関しても面倒を見てくれるのがこのシステムの特徴。要は「前のクルマの動きをコピーする」というコントロールだ。
S60の実験車のドライバースシートへと乗り込み、ひとたびスイッチを押してしまえばもうペダル操作もステアリング操作も必要ナシ。後は”執拗なまでに”前を行く車両を追い続けて行くのは、ちょっとした感動(?)ものでもあった。
ただし問題は、法的にまだどの国でも”自動運転”が認められていないという点。それもあって、来年の次期XC90でのリリース時には、数秒間連続してステアリングホイールを保持していないと、自動的にシステムが解除されるロジックが組み込まれるという。
車車間通信システム
車両本体のみならず、インフラの整備も不可欠とはなるものの、これも次世代安全技術の柱として欠かせないとされるもの。前方の信号が赤から青に変わるタイミングで通過するにはどの程度の速度をキープすれば良いかのアドバイスや、前方の見通しの悪いコーナーの先に故障車が停車中である旨の事前ワーニング。
後方から急接近する緊急自動車の事前ワーニングや、先行車のABSやスタビリティコントロールシステムが作動した事による”滑りやすい路面”接近の事前通告などのデモンストレーションを体験した。
自動パーキングシステム
一部が完全な無人運転となるため、今回のワークショップで唯一”安全地帯”からの見学となったのがこのアイテム。ドライバーが降車後と乗車前の、乗降スペースから駐車スペースまでの区間を、スマートフォンによって指示を受けたV40の実験車が完全な自律無人走行。何度繰り返しても、ホンの数cmも軌跡が変わらない精度の高さに感心した。
前進/後退ともに走行はクリープ現象を利用するため、「MT車で成立させるのは困難」との事。駐車車両の陰から歩行者ダミーが飛び出すと、”ヒューマンセーフティ”が作動して一時停止する制御も見事だった。
むしろ、もっとも難しい課題となりそうなのは、前述のように”無人走行”となるゆえに、どこの市場でも法的なハードルが高そうな事。ちなみに、そこを開発者によれば「やはり”地元”という事でスウェーデンでの”解禁”がもっとも早いかも知れない」というコメントだった。
すでに述べて来たように、ボルボの安全に対するこだわりで注目すべき部分は、それが単なる机上での考察には留まらず、前述した事故調査隊によるリサーチなどを筆頭に、いずれも「リアルワールドでの効果に焦点を当てている」という部分に代表をされるはずだ。
ここに紹介の「次期XC90に採用予定」というアイテムは、当然近い将来には他のモデルにも次々と展開されて行く事になるはず。それは、ボルボが長年に渡って積み重ねて来た安全に対するさまざまなこだわりが、今、ひとつの大輪として花開こうとしているかのようでもありそうだ。