ジャガーXKRを試す|Jaguar
CAR / IMPRESSION
2014年12月5日

ジャガーXKRを試す|Jaguar

Jaguar XKR|ジャガー XKR

ジャガーはスポーツカーブランドに還る

ジャガーXKRに試乗

最近のジャガーは、モデルチェンジを迎えたすべてのモデルで、これまでにない路線の変更をおこなっている。たとえば「XJ」は、伝統の丸型4灯のヘッドライトを、もう踏襲していないし、優雅なグランドツアラーでもあった「XK」は、よりアグレッシブにスポーツカーテイストを増したデザインになっている。ジャガーは、伝統を捨てたのか、あるいは取り戻したのか。現在のジャガーが誇る高性能スポーツモデル「XKR」をとおして九島辰也氏が語る。

Text by KUSHIMA Tastuya
Photographs by NAITO Takahito

払拭したかった

新型「レンジローバー」が発表された。中身をアルミフレームにするなど大掛かりな改良がおこなわれたが、見た目はキープコンセプト。従来型にさほど興味がなければ、どこが変わったか、わからないかもしれない。

これにたいしおなじ会社でありながら、現行型ジャガー「XJ」は大きくその姿を変えている。1968年にリリースされた初代「XJ」から採用されてきた、丸型4灯ヘッドライトなどのデザインアイコンはもはやない。ディテールこそ、それまでの流れを継承するも、全体の印象は別ものだ。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

Jaguar XKR|ジャガー XKR

目的はマーケットの持つイメージをガラリ変えることだった。長年顧客に愛されつづけてきた「XJ」のデザインは、いつしか新鮮味が薄れ、古くさいものとなった。それにくわえユーザー年齢の上昇。マーケットの先細りが危惧されはじめたのはいうまでもあるまい。

特にジャガーがメインとするアメリカのマーケットではその傾向が強かった。スポーツカーメーカーとして名を馳せたブランドが、いつしか、リタイア後のオヤジ様クルマと化していたのだ。

そこで状況を打破するため現行型が生まれた。メディアの一部では「これがジャガー?」という声もあったが、マーケットには概ね良好に受け入れられている。高級サルーンでありながら、かなり“攻め”に仕上がっているのが特徴だ。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

ジャガーはスポーツカーブランドに還る

ジャガーXKRに試乗(2)

再びスポーツカー路線へ

デザインを担当したのはイアン・カラム氏。アストンマーティン「ヴァンキッシュ」で名を馳せた人物である。つまり“超”がつくほどのスポーツカー好き。そんな彼の渾身の作品なのだから、「XJ」が“攻め”なのは当然の結果といえる。

大型サルーンマーケットの高年齢化はジャガーに限ったことではない。メルセデスもBMWもおなじような状況にさしかかっていた。が、彼らは反応が早かった。特にメルセデスは「Sクラス」におけるマーケットの若返りをはかった。その結果として生まれたのが現行モデル。先代よりフェンダーが膨らみ、マッチョなイメージと化した。つまり、クルマ全体のイメージをスポーティかつアグレッシブにし、より若いマーケットへの訴求を強めたのだ。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

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前置きが長くなってしまったが、筆者がつたえたいことは、ジャガーが再びスポーツカー路線を歩みだしているということ。フラッグシップの「XJ」もそうだし、ここで紹介する「XK」シリーズもまさにそれに値する。

それではジャガーは、スポーツカーブランドとしてどんな足跡を残してきたのだろうか。

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ジャガーはスポーツカーブランドに還る

ジャガーXKRに試乗(3)

スポーティでないはずがない

ジャガーの歴史を紐解くと、このブランドはまさにスポーツカーメーカー、いやレーシングカーメーカーとさえいえる。象徴するのは1950年代のル・マン24時間レース。短期間に5度の優勝を手に入れている。クルマは「タイプXK120C(Cタイプ)」と「Dタイプ」。メルセデスやフェラーリと激しいバトルを演じた。ドライバーのひとりとしてスターリング・モスが在籍していたことも有名な話だ。

このような歴史のなかで誕生したXKシリーズなのだから、スポーティでないはずがない。流れるようなフォルムの2ドアクーペは、まさにスポーツマインドに溢れている。たとえば心臓。自慢の5リッター V8 DOHCはスーパーチャージャーにより過給され、マックスパワーは510psに達する。最大トルクは625Nmで、それを2,500回転から発生させる。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

Jaguar XKR|ジャガー XKR

ポルシェ「911ターボ」でさえ500psなのだから、この心臓はかなり競争力が高い。ちなみに、自然吸気ユニットは385psの515Nm。もちろん、それだけでも十分過ぎるほどだが、ジャガーのプライドとしてはそれ以上のモデルも必要だったようだ。

ではスタートしてみよう。まずは、心臓の鼓動に呼応するかのように点滅するスタータースイッチを指で押す。すると、フォン! という切れのいいサウンドとともにマシンが目を覚ます。この段階でかなり目立つのはいわずもがな。ナニモノ? という感じでまわりが振り向く。そして走りだせば威力はまさにド級。ドーンという加速でカラダはシートに押し付けられる。まるでひとりドラッグレース状態。そしてコーナーにさしかかると、ステアリングにたいしてフッと軽快に向きをかえる。

連続したコーナーやワインディングではまさにハンドリングマシンと化すからおもしろい。操舵角にたいして瞬時にかつリニアに反応するシャシー、ステア特性は、どこまでもニュートラルで、気持よくコーナーを駆ける。ただ調子に乗って攻めつづけると、若干オーバーステア気味に。その辺は意図的な味付けなのか、やんちゃな印象を持たせてある。が、もちろん、そこから先は電子デバイスによる強制制御が待っているので心配はない。最終的にはしっかり躾けられているのが英国車気質だ。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

ジャガーはスポーツカーブランドに還る

ジャガーXKRに試乗(4)

足のチューニングは絶妙

こうしたドライビング上の特性は、ボディの軽さに端を発する。すでにお馴染みとなっているアルミボディが軽量化を実現し、この特性を生んでいるのだ。これもこのクルマのハンドリングが気持ちいい理由のひとつ。セッティングもそうだが、レースシーンを通じて、ジャガーはクルマの軽量化の優位性を知り、それを具現化してきた。

時として、ジャガーは“ネコ脚”と呼ばれる。
確かにそういわれればそうで、イメージ以上にストロークがあって粘る足はまさにそんな感じにとれる。

「爪で路面を駆る感覚」というのもネコ脚を表現するひとつかもしれない。そんな動きをこのXKRもする。とにかく軽々しい足さばきだ。まぁ、その辺の表現はともかく、ステアリングを切るのが楽しいクルマであることは間違いない。

ジャガーの足のチューニングは絶妙である。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

もっというと、フロントのダブルウィッシュボーン、リアのマルチリンクサスペンションは、乗り心地も快適さをキープする。「アクティブ ダイナミクス」と名付けられた電子制御式ダンパーが、その調整をおこなうのだが、こちらもまた絶妙。コーナーではピタッと路面に吸いつき、段差ではバネ下で衝撃を押さえ込んで乗員に嫌な振動を与えない。まさにカユいところに手が届くセッティングとはこのことだ。

Jaguar XKR|ジャガー XKR

Jaguar XKR|ジャガー XKR

そんなジャガースポーツに今年「Fタイプ」なるモデルが追加される。本格的なスポーツカーだ。XKシリーズとのちがいは、完全な2シーターであること。つまり積載性や居住性よりも走りにプライオリティを置いたパッケージングとなる。

2+2のXKRはスポーツカーでありながらもグランドツアラーとしての役も兼ねる。その意味からも大人が所有して似合うスポーツカーといえるだろう。510psのエンジンは速く走ることも、ゆっくりハイウェイを流すことも許容する。なんたって尋常じゃないほどトルクは太い。これもまたXKRの醍醐味。そんな走りからも大人の余裕が感じられる。

spec

Jaguar XKR Coupe|ジャガー XKR クーペ
ボディサイズ|全長4,790×全幅1,915×全高1,320mm
ホイールベース|2,750 mm
トレッド 前/後|1,560 / 1,600 mm
最低地上高|120 mm
最小回転半径|5.3 メートル
トランク容量(VDA値)|300 リットル
重量|1,810 kg
エンジン|4,999cc V型8気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー
ボア×ストローク|92.5 × 93 mm
最高出力| 375kW(510ps)/ 6,000 - 6,500 rpm
最大トルク|625Nm / 2,000-5,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|ダブルウィッシュボーン / マルチリンク
タイヤ 前/後|255/35ZR20 / 285/30R20
燃費(JC08モード)|6.6 km/ℓ
価格|1,530万円

           
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