【第13回 仏ルポルタージュ大賞 受賞記事】探検船で“ラグジュアリーな冒険”を
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2015年2月12日

【第13回 仏ルポルタージュ大賞 受賞記事】探検船で“ラグジュアリーな冒険”を

第13回フランス・ルポルタージュ大賞 受賞記事
「シルバー・エクスプローラー」で巡るボルドーからノルマンディーへの船旅

特集|“探検船”でラグジュアリーな冒険を!(1)

客船でのクルーズというと、イメージするのはブラックタイにロングドレスの紳士淑女。そして、毎夜の華やかなイベントに、数々のプロトコール。もちろんそれは正しい。クルーズとは海の上の社交場にほかならない。しかし、ここにきて新しい楽しみ方が登場し始めた。それが、冒険的体験をコンセプトにしたアドベンチュラスな探検船の旅、シルバー・エクスプローラーだ。手がけるのは、最上級のラグジュアリーなクルーズを提供するシルバーシー・クルーズ。南極や北極といった極地へのクルーズはもちろん、アフリカ西海岸、中南米など知的好奇心をかきたてるエキゾチックなデスティネーションへと航海をおこなっている。今回はボルドー、ノルマンディーなどお馴染みの場所を、ソフトアドベンチャー気分で巡る旅へと誘う。

※「フランス・ルポルタージュ大賞」は、フランス観光開発機構とエールフランス航空により2000年に創設。第13回目となる2013年の今年、雑誌部門『ポパイ』、テレビ部門『美の巨人たち』とならんで、インターネット部門で本記事が大賞を受賞しました。
※本記事は2013年1月15日に公開されたものです。

Text & Photographs by TERADA Naoko

世界で最も品格ある探検船の極上ライフ

「シルバー・エクスプローラー」の誕生は2008年。当初、冒険家として知られるモナコ公国大公の名前を冠したプリンス・アルベールII号として就航した。進水式にはローマ法王庁の祝福を受けている。その後、現在のシルバー・エクスプローラーと改名し、エクスペディション(探検)という「人生で一度」のドラマチックな体験を堪能できる、ラグジュアリークルーズ船として話題をさらってきた。

6072トン、乗客定員132名。優美な姿ながら、北極や南極といった極地航行用に設計された本格的な探検船で、8艘のゾディアックボートを備えているのが特徴。世界で最も権威のある船舶鑑定団体のひとつ、ロイド船級協会によって、氷海域での船体構造としては最高レベルのアイスクラス(1A)を取得。強靭なボディで、過酷な環境にも順応する。

そのハイスペックさを活かして昨年2月には、20世紀初頭、アーネスト・シャクルトン率いる探検隊の生存者たちが4カ月以上にわたり救助船が到着するのを待ったという南極のエレファント島、ポイントワイルドへ、120名のゲストとともに初の到達を果たしている。

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シルバー・エクスプローラーの特徴は、サービス、スケジュールにおいても個性が際立っている点にある。ほかのクルーズ船と最も異なるのが、エクスペディション・チームの存在だ。抜群のスキルと経験を持つリーダーを筆頭に生物学者、地質学者、歴史家などを含めた10人前後の専任スタッフが帯同。ゾディアックの運転から、トレッキングの引率、インタープリターとしての生態系や動植物についてのレクチャーなど、行程を満喫するためのオペレーションをパーフェクトに務める。

さらに、このエクスペディション・チームがすごいのは、同じ場所を訪れても前回とは異なるロケーション、体験ができないか常にリサーチをおこない、「ベスト・オブ・ベスト」を求めて行程を進化させている点にある。今回はヨーロッパ~英国海峡というエリアのクルーズだったため、エクスペディション・チームの活躍ぶりも限られていたが、毎晩、翌日の行程についての最新天気情報、歩く距離、ハードさなどを詳細に解説するスキルの高さに驚かされた。

また、通常は船外でのオプショナルツアーは追加料金がかかるが、シルバー・エクスプローラーの場合は、すべて含まれているという点も大きな魅力。ということで、ゲストはあらゆる質問やリクエストに的確に応えるエクスペディション・チームにより、知的好奇心を満足させるネイチャー体験を、心ゆくまで、たっぷり味わえるというわけだ。

専属バトラーサービスが、華麗なるクルーズを演出

夏とはいえ南極半島の気温は0℃前後。そんなときでも、船内にはシャンパンを片手に談笑するゲストたちの姿。それが、シルバー・エクスプローラーでの光景だ。探検船としてハイスペックでありながら、船内でのクルーズライフは、通常のシルバーシーと同様。あくまでもエレガントでラグジュアリー。探検船だからといってなんの遜色もない。

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ただし船内でのスタイルは、たとえるなら「スマート・カジュアル」。ディナーでもラムズウールのセーターにチノパンツといったカジュアルな服装で構わない。一般的なクルーズには欠かせないブラックタイでのガラディナーも、基本なし。最も固いドレスコードでも、「インフォーマル」、つまりセミフォーマル・レベルで、ディナー時には学者然としたツイードジャケットのジェントルメンがいれば、極上のカシミアスーツの殿方も。一流のゲストが醸す、ソフィスティケートされつつも、なんとも気取らないムードで過ごせるのが、シルバー・エクスプローラーの真骨頂。実に快適で心地よい。

シルバーシー・クルーズの船は、ゲスト一人につきクルーがほぼ一人の割合で付くため、ホスピタリティの高さに定評がある。そして、最も贅沢な体験にバトラーサービスがある。さらに、シルバーシー・クルーズの客船はオールスイート仕様が特徴で、シルバー・エクスプローラーもしかり。チェックインしてスイートに入ると、すかさず担当のバトラーが挨拶にやってきた。テイルコート姿の長身のバトラーは、インド人。インドのタージマハルパレスなど最高級ホテルでの経験を持った彼は、美しい英語とおだやかなほほ笑みで、「いつでもお気軽にお声がけください。まずは、アフタヌーンティーでもいかがですか」 とたずねてくれた。

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シルバーシー・クルーズでは、三度の食事はもちろん、シャンパンも含めたミニバー、ルームサービスなどもすべて料金に含まれている。今回のクルーズで、やや風が強く船が揺れた際には、食事に出られなかったわたしのために、真っ白なクロスの上にビーフコンソメ、青リンゴのスライス、クラッカーという、「酔い止め」効果のあるメニューを丁寧に並べてくれたのもバトラーだった。

バトラーを使いこなすのは、日本人の場合慣れないこともある。が、彼らは、いつしかいつでもそばにいてくれる存在となり、礼節を持った態度でさまざまなリクエストに応えてくれる。ちなみに、彼らへのチップも料金に含まれているので、毎回渡す必要はない。わたしは下船時に、感謝のメッセージを書いたカードを渡してきた。

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ガラパゴスの探検船を取得、シルバー・ガラパゴスがデビュー

2012年、シルバーシーはガラパゴス諸島を専門とするエクアドルの旅行代理店、カノドロス社および所有するラグジュアリー探検船、「ガラパゴス・エクスプローラーII」を買収、、2012年10月にはあらためてシルバー・ガラパゴスと命名。これにより、シルバー・エクスプローラーとあわせ2隻のエクスペディション船が、ガラパゴスを含めた極地への定期的なクルーズを、より充実させて催行できるようになった。また、2013年のゴールデンウィーク時にも、今回と同じコースをたどるシルバー・エクスプローラーによる14日間のクルーズが発表された(http://www.silversea.com/expeditions/destinations/plan-expedition/?voyage=7309)。

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インターナショナル・クルーズ・マーケティング株式会社

Tel. 03-5405-9213

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寺田直子|TERADA Naoko

トラベルジャーナリスト。年間150日は海外ホテル暮らし。オーストラリア、アジアリゾート、ヨーロッパなど訪れた国は60カ国ほど。主に雑誌、週刊誌、新聞などに寄稿している。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)、『ロンドン美食ガイド』(日経BP社 共著)、『イギリス庭園紀行』(日経BP企画社、共著)、プロデュースに『わがまま歩きバリ』(実業之日本社)などがある。

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「シルバー・エクスプローラー」で巡るボルドーからノルマンディーへの船旅

特集|“探検船”でラグジュアリーな冒険を!(2)

ボルドーのワインを巡る小旅行へ

ボルドーは港街と称されるが、地図を見れば海からやや離れた内陸部に位置することがわかる。では、なぜ港街なのか。それは、街をつらぬくジロンド川の存在による。ジロンド川はボルドーと大西洋を結ぶ、水上の交通網。ボルドーからはさらにガロンヌ川へと名前を変えて、フランス南部、航空産業の聖地トゥールーズへと続く。トゥールーズにはエアバス社の本社があり、ガロンヌ、ジロンド川をつかって隣国で製造された航空機パーツを船で運ぶ姿も見かける。この環境ゆえ、ボルドーはまさに、水運で栄える地として君臨している。

その恩恵は、ワイン産業にも深くかかわってくる。ご存じ、ボルドーはフランスを代表するワインの産地。シャトー・ラフィット・ロートシルト、シャトー・マルゴー、シャトー・ラトゥール、シャトー・オー・ブリオン、シャトー・ムートン・ロートシルトといった、メドックの第一級格付けワインが揃う、コノシュアー(目利き)垂涎の土地。この豊穣の土地で造られた名ワインたちも、水路による貿易網がなければここまで発展しなかったかもしれない。

機動力ある小型客船だから楽しめる絶景

シルバー・エクスプローラーが停泊したのは、ボルドー旧市街の中心、カンコンス広場前。小さな客船ならではの機能性を活かし、大型客船では入れないところまで進むのが、エクスプローラーの真骨頂。美しいバラ色の建築物と対峙する船のスイートからは、クルーズゲストにしか味わえない至福の借景が望める。

翌日はボルドーを代表するワインの名産地、サンテミリオンへのエクスカーションに参加。シルバー・エクスプローラーの前からバスに乗り込み、現地の英語ガイドによるレクチャーを受けながら、サンテミリオン地区をめざす。

なだらかな丘を抱くようにうねるブドウ畑の、端正な美しさ。かつて、この地で隠遁した僧侶、聖エミリオにちなんで名づけられたこの町は、石灰質の良質な土壌を有し、まさにワインを造るために神が創造した約束の地かもしれない。古代ローマ時代までさかのぼるワイン産業の歴史と、数多くの史跡によって、世界遺産に登録されている。

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早朝のクリスピーな空気のなか、石畳の町をそぞろ歩き、12世紀の修道院や、洞窟のなかに作られたカタコンベ(地下の墓所)などを見学。クルーズゲストだけという少人数のため、いつしかゲスト同士が話を交わしはじめ、なじんでいくのも心地よい。多くはアメリカからのゲストで、カップル、親子などさまざま。大半がシルバーシーのリピーターであり、シルバー・エクスプローラーの常連でもある。ネイチャーアクティビティに特化したプログラムや、知的好奇心をかきたてるデスティネーションといった、エクスプローラーの魅力を体験して、とりこになったゲストたちだ。

マカロン発祥の地で、素朴な味わいの元祖をひと口

ワインで有名なサンテミリオンだが、実はもうひとつ有名なものがある。それは、マカロン。日本でも人気のマカロンだが、ここサンテミリオンが発祥だそう。もともとは修道女たちが作ったとされ、なかでも元祖といわれるのが1620年から作り続けているマダム・ブランシェの店。

ガイドに教えてもらった場所を訪ねると、ワインショップの間にたたずむ小さな店構え。ショーケースの中にはお目当てのマカロンが。日本人がよく知っているカラフルなマカロンとはまったく異なり、着色、コンフィチュールなしの、シンプルにアーモンドと砂糖、卵白で焼き上げられた素朴さである。紙にペタリと貼りついたものを、はがして、ひと口味わってみると、サックリというよりもややしっとりした歯ざわりで、焼き菓子の香ばしさとアーモンドの香りが立ち上る。

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また、キャラメル色に焼きあがった美味しそうなカヌレも並んでいたので、一杯のエスプレッソとともにその場で味わう。マカロンはきちんとパッケージされているわけではないので、残念ながら日本への土産にはできなそうだ。クルージング中に味わおうと、一箱のみを購入。パッケージも素朴でかわいい。

サンテミリオンを代表するグラン・クリュ・クラッセのシャトーへ

エクスカーションのハイライトはもちろん、サンテミリオンのワイナリー訪問。この日選ばれたのは、シャトー・カデ・ピオラ。特別級グラン・クリュ・クラッセの格付けワイナリーで、美しいブドウ畑に囲まれたシャトーである。メルロー51%、カベルネ・ソーヴィニヨン28%、カベルネ・フラン18%、マルベック3%というバランスで、凝縮感と果実味のあるワインを生み出す名ワイナリーだ。

まずは、醸造所内をクルーズゲストだけのために見学させてもらった。驚くほど上手な英語でエンターテインたっぷりに解説してくれる若い青年スタッフ。アメリカの年配のゲストから、「君、英語がうまいぞ」とほめられると、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする様子が微笑ましい。格付けシャトーではあるものの、フレンドリーな接客に好感を持つ。

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そして、最後はお楽しみの試飲。さすが、シルバーシー・エクスプローラーのゲストたち。静かにテイスティンググラスをまわしながら、ゆっくりと口に含み、舌の上でころがして楽しんでいる。ワイワイ歓談しながらというカジュアルなスタイルながら、コノシュアたちのテイスティング姿は風格あり。スーツケースを持って移動することのないクルーズは、たっぷり土産を買っても問題ない。さっそくお気に入りのワインを何本も所望する紳士も。気に入ったワインを海を見ながら自分のスイートで楽しむというのも、シルバー・エクスプローラーらしい味わい方かもしれない。

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「シルバー・エクスプローラー」で巡るボルドーからノルマンディーへの船旅

特集|“探検船”でラグジュアリーな冒険を!(3)

ブルターニュ半島南部、キブロンの知られざる魅力

ボルドーでのワイン三昧の滞在を終えた翌日。快適なスイートのベッドで目覚め、朝食を味わっていると、船はゆっくりと沖に停泊した。フランス西海岸の港町、というよりもブルターニュ半島の南端といえるキブロンに到着したのだ。再びの出航は19時。それまでは、多くのゲストがエクスカーションに参加する予定だ。

何しろこの日のハイライトは、非常にドラマチックな新石器時代の遺跡カルナックへも足をのばすのだから、ヒストリアンやナチュラリストが多いシルバー・エクスプローラーのゲストの多くが、とても楽しみにしているのだ。

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このあたり、日本人にはなじみがある場所だ。それは、良質の塩の産地ゲランドがあるからだ。フルール・ド・セル(塩の花)と呼ばれる世界中のシェフたちが愛用する極上品。

ゲランドには1000年近く昔から塩田があり、今も手作業で、職人たちが伝統的なスタイルで海水から塩を作り続けている。一般的な塩のようにさらさらとせず、ザラリと湿感のあるのがゲランドの塩の特徴だが、それは個結予防添加物などが、いっさい入っていないため。まさに、ブルターニュの海からの恵みを、そのまま味わうことができる逸品といえる。スーパーへ行くと日本よりもかなり手頃な値段で手に入れることができるのも魅力だ。わたしも料理好きな友人たちのために、いくつか購入した。

テンダーの代わりに、屈強のゾディアックに乗って

10時、キブロンのエクスカーションへと出発。港が小さくて着岸できない場合、船は沖に停泊する。岸へ行く場合はテンダーと呼ばれる小型のボートに分乗するのだが、この日は、シルバー・エクスプローラーの面目躍如。従来のテンダーの代わりにゾディアックが登場した。

ゾディアックは軍事用に開発された頑強なゴムボートで、シルバー・エクスプローラーには8艇が積み込まれている。南極や北極のクルーズにも使用できる、秘境での移動では頼りになる存在だ。せっかく積み込んでいるので、ゲストに体験してもらいたいとエクスペディション・チームがわざわざゾディアックを使うことにしたようだ。このあたりの心配りも実ににくい。

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用意が整い、ゾディアック専用のライフベストを着用したゲストが、次々に乗り込む。ほんの数分の乗船だが、スピード感ある乗り心地で、ちょっとした冒険気分に頬を染めるゲストも。エクスペディション・チームが手を貸して安全に乗り込ませるため、年配のゲストたちも問題なくキブロンの港町へと降り立った。

ブルターニュ名物のオイスター・ファームで美味しい見学

キブロンの港に着いた我々を待っていたのは、現地のガイドとバス。何台かに分乗して、エクスカーションがスタート。キブロンの港から、まずは、隣接するラ・トリニテ・シュル・メールと名付けられた海岸線の港町へと向かう。塩と並ぶブルターニュ名物であるオイスターのファームを見学しつつ、味わうためだ。

ガイドの解説を聴きながら、夏のバカンスエリアであるキブロン、カルナックの街をバスはゆっくりと進んでいく。バスに乗ってあらためて感じ入ったのが、ゲストの座る座席の割合だ。お手頃料金のカジュアルなクルーズだと、定員きっかりにゲストを詰め込むこともあるが、この日のバスは、十分に余裕を持ってゲストが座れるように、数台手配されていた。ひとりで取材しているわたしは、決して誰かと話たくないわけではないが、車窓から流れる異国の風景を記憶に焼きつけるためにも、自分のペースで過ごしたいと思っていた。隣に誰か座る心配がなく、ゆったりとくつろぎながらガイドの話に聴き入ることができた。ここにもシルバーシー・クルーズならではのラグジュアリーへのこだわりがあるのだとあらためて実感した。

バスに揺られて1時間ほどで、目的のオイスター・ファームル、ル・ペルル・ドゥ・ケアンに到着した。目の前の湾で養殖したオイスターをその場で販売、また、試食することもできる。まずはオイスターの養殖方法などを説明してもらい、施設内に山のように盛られたオイスターを味わうことに。

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やや丸みのあるオイスターはブロンと呼ばれる平ガキ。小ぶりながらミネラル分たっぷりの海水で育っているため、旨みが凝縮されている。シンプルにレモンをぎゅんっと絞ってそのまま口へ。そこへ、ドライな白ワインを流し込む。クルーズと呼ばれる日本のマガキを養殖したものもある。50年ほど前、ブロンが病気で大量に死んだ際、宮城県産マガキの種を移して養殖に成功。そのため、現在では両方のオイスターが味わえる。大皿に盛られたオイスターは、あっという間に殻だけに。グルメなクルーズゲストたちの健啖ぶりに感心。

カルナック遺跡の摩訶不思議

オイスター・ファームを後にして次に向かうのは、この日のハイライト、カルナック遺跡。新石器時代(紀元前5000~3000年ごろ)、この地で農耕牧畜をおこなっていた共同体によって作られたという巨石群だ。地元ブルトン語で「長い石」と呼ばれるメンヒルや、「石のテーブル」を意味する共同墓ドルメンが、静かに、しかし、しっかりと意志を持った存在感で点在する。

駐車場から遺跡へと歩いていくと、ゆっくりと姿をあらわしたのが、メネク列石。950メートルにわたり、なんと1050の石が配置されている。ほぼ等間隔で並べられた石は何を物語っているのか。美しい牧草に囲まれ、自然に溶け込むようでもある、この人工的な配列の謎は、いまだ解けていない。メネク列石から東側には、なだらかな丘陵部に並行して均一に並べられたケルマリオ列石が広がる。ここには共同墓であったと思われるドルメンが発見されている。さらに、東には最も保存状態が良好とされる、13のメンヒルによって構成されたケルレスカン列石がある。

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7000年近い、気の遠くなるような時間を超越して、わたしたちに語りかける静かなる巨石群。なぜ、このようなものを作ったのか。いまだ正確には解明されていないが、巨石群は墓地としての役割と、記念碑的な土地を区分するマーカーのような存在であったという、二つの仮説が考えられている。ブルターニュ地方は、古代ケルト文化が色濃く残る場所だ。アイルランドの巨石信仰に通じるものがここにもたしかに存在していたようだ。ミステリアスなカルナック列石の姿は、心に深い余韻を与えてくれた。

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世界遺産モン・サン・ミッシェルへと船は進む

クルーズというのは、途中で何度か終日航海日(Day at Sea)というものがある。たとえば、ポルトガルから北大西洋を渡ってフロリダ、といった航路。途中に寄港すべき場所がない場合の移動日となる。エクスカーションがないからつまらない? いや、逆に終日航海の日は船内の施設、サービスを存分に楽しめるチャンスなのだ。

今回も、夕刻にキブロンを出港したシルバー・エクスプローラーは、翌日に終日航海となり、ゆったりとくつろぐ時間を与えてくれた。ラグジュアリー・アドベンチャーのための船だから、カジノや大がかりなショーといったエンターテインメントはないものの、スパ、サウナ、スチームルームを揃えたリラクゼーション施設や、写真集、書籍、DVDが充実のライブラリー、そしてシガーバーなど……成熟した大人好みの設備が整っている。また、こういった終日航海日は、ヒストリアンによるレクチャーをワイン片手に楽しむプログラムや、いつもよりもエレガンスなガラ・ティーといったイベントがおこなわれ、ゲストをくつろがせてくれる。

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そして、翌日。シルバー・エクスプローラーは世界遺産として知られる、モン・サン・ミッシェルを擁するサン・マロに、きらめく朝日を受けながら着岸した。

ツーリストであふれかえる島内。天空の大聖堂をめざす

サン・マロでは、ゲストは2種類のエクスカーションを選ぶことができる、ひとつはモン・サン・ミッシェルの内部を見学するフルデイツアー。もうひとつは外部から眺めるだけで、カンカルなど周辺の街での自由行動を設けたハーフデイツアーだ。わたしはもちろん、内部を巡るフルデイに参加。この荘厳なる世界遺産の修道院を訪れるのは、久しぶり。とても楽しみだ。

2012年の春、モン・サン・ミッシェルは環境保全のため、島へのアクセスが大きく変わった。以前のように島まで車で入ることができなくなり、観光バスなどは新しくできた対岸にある駐車場で止められ、観光客は全員、電気バスに乗ってモン・サン・ミッシェルのふもとまで行くことになる。ラムサール条約にも登録される貴重な水域だけに、今後、さらに徹底した環境保護政策が取られていくはず。年間300万人の観光客が訪れる一大名所だけに、おおいに歓迎すべきことだ。

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それにしても久しぶりに訪れたモン・サン・ミッシェルは、変わらぬ美しさで出迎えてくれた。同行のゲストのなかには初めての人も多く、目の前にあらわれた姿に「わぁ……」と感動しきり。すかさずあちらこちらで記念撮影がはじまる。こういうところは各国共通。観光旅行の最も楽しい瞬間だ。

エントランスの威風堂々の石門をくぐると、そこには土産物屋、レストランなどがぎっしりと軒を連ねる石畳の細い路地。これが、天空の高みの大聖堂へと続いている。モン・サン・ミッシェルの観光客で最も多いのは、実は日本人。そのため、最近は体験することが少なくなった、「日本人歓迎!」のムードがあちこちにあるのがほほえましい。

郵便局があり、さらに横の細い路地の先には住宅や、小さなホテルも。島の人口は修道院も含め30人とも40人ともいわれているが、かすかな生活の香りがするのは、エントランス周辺のみ。中世をほうふつとさせる石の階段をゆっくりと上がり、モン・サン・ミッシェルの全貌が目の前にあらわれてくると、周囲の観光客も喧騒もまったく気にならなくなってくる。

人が途切れた一瞬に大天使が舞い降りる

モン・サン・ミッシェルはもともと、ケルト人の信仰する聖地であった。そこに、大天使ミカエル(フランス語読みでミッシェル)から夢のお告げで「ここに聖堂を建てよ」といわれた司教が、礼拝堂を作ったのがはじまり。8世紀はじめにベネディクト派の修道院が設立され、その後、13世紀にはゴシック建築の傑作と称される教会を増築。現在の形に近いものができあがった。15世紀には百年戦争に巻き込まれ、フランス革命の際には刑務所として利用されたこともあるが、その後、修道院として再び使用されるようになり、1979年に世界遺産に登録された。

ガイドの解説を聞きながら、内部を見て回る。増築が重ねられた複雑な構造は、時代によって様式が異なり、非常に興味深い。カメラを手から離して、そびえる天井のヴォルトの曲線を目で追い、ざらりと冷たい石の壁、柱に触れてみる。曇ったガラスの窓から差し込む光が、薄暗い回廊の一角を照らし、過去と現在をつなぐ。不思議なことに、たくさんの観光客が、誰もいなくなる瞬間がある。その一瞬、まるで大天使ミカエルが舞い降りたかのような静寂と、静謐が訪れる。数多くの教会や聖堂を見てきたが、海上の高さ150メートルにそびえる大聖堂は静かな余韻と興奮を与えてくれる。

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潮風香るサン・マロの港町をふらりと散策

感動のモン・サン・ミッシェル見学はあっという間に終了。足早ではあるものの、自由行動する時間もあり、満足度は高かった。現地ガイドも優秀で、豊富な知識と適格な判断でゲストごとのリクエストにもうまく対応。その後、全員で対岸まで戻り、モン・サン・ミッシェルを臨む絶景の人気レストランでランチを楽しみ、16時頃、船へと戻った。

この日の出航は18時。まだ多少時間があるので、シルバー・エクスプローラーが着岸しているサン・マロの港周辺を散策。サン・マロには12世紀の城壁に囲まれた旧市街がある。このなかに11世紀に建てられたステンドグラスで有名なサン・ヴァンサン大聖堂や、歴史民俗博物館などが点在する。

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ただ、この日は偉大なるモン・サン・ミッシェル見学で知的好奇心は満たされていたので、気ままにウインドウショッピングを楽しみつつ、旧市街のおもむきとフレンチタッチの暮らしを覗かせてもらうことに。カラリと晴れているので、まずはレモンのアイスクリームでパワーチャージ。名産のオイスターや、ゲランドの塩を売る専門店や、庶民的なスーパーマーケット。途中、ちょっと好みのブティックに入り、旅の記念にボーダーのシャツと、水色と白のストライプのシャツを買ってマリン気分も満喫。本当はカフェでペルノでも一杯飲みたいところだが、そろそろ出航の時間。また、いつか――と思いつつ、シルバー・エクスプローラーへと戻る。

船内に帰ると、すでにクルーは出航、キャビンのターンダウン、そしてディナーの準備で忙しそうだ。シルバー・エクスプローラーの特徴のひとつが、オープンシーティングと呼ばれる食事のスタイル。つまり、好きな時間にレストランで食事をすることができるのだ。カジュアルな大型客船の場合、あらかじめ食事の時間とテーブル席が決まっていることが多い。それが、シルバー・エクスプローラーの場合はない。レストランに行くと、「ミス・テラダ、今日は相席がいいですか? それともおひとりで?」と聞かれるので、好みで選べばいい。数日も一緒にいるとゲスト同士も知り合いになるため、ときにどこかのテーブルに呼ばれることもあるが、ひとりでゆっくり楽しむ自由も悪くない。

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また、ルームサービスも充実の品揃えで、レストランのメニューをそのまま味わうこともできる。もちろん料金に含まれているので、好きなものをオーダーすればいい。終日外で歩きまわったので、ディナーはスイートで取ることに。スイートのデッキから美しいサンセットを楽しむこととなった。

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ガーンジー島へ――天候も英国風、霧雨の島内

サン・マロではあんなに快晴だったのに、翌朝、英国海峡に面したイギリス領ガーンジー島のセント・ピーター・ポートの港に着いたとき、空はどんよりと曇り、小雨となっていた。さすがイギリスらしい出迎えと、苦笑いするしかないほどに天気は悪かった。

この日は午前中、ガーンジー島のクリフウォークを楽しみ、その後、島の沖合いに浮かぶもうひとつの英領の島、サーク島へ移動。馬車に揺られて島内観光のエクスカーションをする予定だった。しかし、今後の天候、風と波のうねりを考えた結果、エクスペディション・チームから、ゾディアックを出すのは難しいとの判断が。風雨を避けて安全に船を着岸させる港がないことが説明され、サーク島へは行かないという決断がなされた。

このあたりの現場での臨機応変な判断もシルバー・エクスプローラーならでは。楽しみにしていたゲストもいたようだが、エクスペディション・チームが、できる限りゲストを落胆させることなく、最善の方法で、さまざまなアプローチで精査した結論だということがわかっているので、クレームはいっさい聞こえてこない。チームの誠実さは、クルーズを通して十分にゲストに伝わっているからだ。ガーンジー島でのクリフウォークは行うとのことだが、雨に濡れて断崖を歩くのはあまり楽しいとは思えず、残念ながら参加せず。代わりに、ひとりで島を歩き回ることにした。

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タックス・ヘイヴンの島を歩く

セント・ピーター・ポートの港から街の中心はすぐ目の前。小さな家々や、白い帆のヨットが停泊する港も、どこか英国らしさを感じるのは気のせいだろうか。クローゼットから今まで出さなかったジャケットをはおり、最初に目指したのはインフォメーションセンター。ここで地図をもらい、街へと歩き出す。

マークス&スペンサーなどおなじみのデパートもあるが規模は小さい。初めての場所を訪れた際、まず、わたしはスーパーマーケットに行く。現地の物価がどのくらいかがわかるからだ。港沿いの小さなスーパーに入り、パンやミルク、ビールの値段をチェック。ロンドンとさほど変わらず。目についたのは、チェック柄のパッケージが愛らしいガーンジー・ミルクのパック。そう、この島は濃厚な乳製品を生み出すことで有名なガーンジー牛のいる島でもある。これはどこかで味わいたい。普通はアイスクリームやヨーグルトを味わうのだろうが、この日の肌寒さではとてもじゃないが、手が出ない。

ところでガーンジー島は、ご存じのようにタックス・ヘイヴンの島だ。数多くの企業、個人事業主たちはここに特殊会社を設立。税金の軽減、あるいは免除を合法的に行えるシステムを活用している。そのため、街の中には法律事務所、銀行、保険会社などの支店がいたるところにあるのが興味深い。

港に面したメインストリートは、雨のため歩く人もまばら。クルーズ船が入港した際は、大勢の買い物客でにぎわうはずのブティックや、高級宝飾店などにも人は少ない。ガーンジー島は特殊な環境ゆえ、通常、EU加盟国で買い物をするとかかるVAT(付加価値税)が、まったくかからない制度となっている。そのため、高級宝飾品や時計などが安く買えるメリットがある。

また、ユニークなのが通貨。ガーンジー島のみで使用できるガーンジーポンド札が正式通貨となっている。価値はイギリスポンドと等価。イギリスポンドを島内で使用することはできるが、ガーンジーポンドは英国本土では使用不可だ。

クルーズが終わってから、イギリスの港町ポーツマスに着いてタクシーでの支払いに、間違ってガーンジーポンドを差し出したら、「何、これ?」とタクシードライバーに一蹴されてしまった。ということで、ガーンジーポンドは記念に残しておく程度にしておくのが賢明だろう。

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季節はずれのボタニカルガーデンにて

スーパーマーケットの視察も終わり、さて、どうしたものか。立ち止まり、地図を見ながら考える。ふと、ガーンジー島は園芸栽培で有名だったことを思い出した。かつて、オーストラリアのタスマニアで訪問した園芸植物家が、シャクヤクの花の種をガーンジー島から持ってきている、というのを聞いたことがあったからだ。地図を見ると、徒歩圏内にガーンジー・ミュージアム&アート・ギャラリーがあり、敷地内にボタニカルガーデンがある。ここしかない。小雨が降るなか、地図を片手に坂を登り、丘の上の植物園を目指す。

ややきつい坂道を登りきると、ミュージアムに着いた。訪れていた観光客はまばら。大半は温かい屋内のミュージアムに入っていくが、わたしはそのまま庭園をめざす。静かな園内は、シャクナゲやツバキの花が控えめに出迎えてくれる。港に向かってなだらかな傾斜を持ったガーデンは見晴らしもよく、はるか先にシルバー・エクスプローラーの姿が見える。クリフウォークに行ったゲストは楽しんでいるだろうか。ちょっと、参加しなかったことを後悔しそうになるほど、雨に濡れたガーデンは人恋しさを募らせるほどに静かだった。

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ガーンジー・ミルクのクリームで味わうスコーン

ガーデンを一周すると、少し体が冷えてきたので、元来た道を戻ってミュージアム内のカフェへ。ギフトショップを併設した空間は人のざわめきと、カトラリーやグラスが軽やかに触れ合う響きが気持ちをゆっくりと温めてくれる。見晴らしのいい窓側のテーブルに座り、メニューを見る。焼きたてスコーン、ガーンジークリーム添え。ちょうど味わってみたかった、ガーンジー・ミルクのクリームを使っているとのこと。

ほどなく出てきたスコーンは手のひらサイズで、その横にイチゴジャムと、ガーンジー牛のミルクを使ったクロテッドクリームがたっぷりと。乳脂肪、タンパク質が高く黄色味が強いガーンジークリーム。濃厚、だけれどフレッシュな口どけのクリームはさらりとした味わいで、素朴な甘みのスコーンによく合う。イギリス本土よりもフランスに近い島だが、ここはやはり英国の島だ。濃い紅茶にクリームとジャムをのせたスコーンを食べていると、しみじみそう感じた。

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第13回フランス・ルポルタージュ大賞 受賞記事

「シルバー・エクスプローラー」で巡るボルドーからノルマンディーへの船旅

特集|“探検船”でラグジュアリーな冒険を!(6)

Text & Photographs by TERADA Naoko

最終日は戦士たちの休息の地、ノルマンディーへ

クルーズ6日目。ついに、最終日を迎えた。明日の早朝には英国ポーツマスにシルバー・エクスプローラーは到着し、わたしたちも下船する。そしてこの日、クルーズゲストにとって最も貴重な体験となるであろうエクスカーションが待っていた。第二次世界大戦時、ノルマンディー上陸作戦が敢行された、ノルマンディー海岸へのツアーだ。

ご存じノルマンディー上陸作戦は、世界史上最も有名なオペレーションだ。1940年6月14日、ヒトラー率いるドイツ軍によりパリが陥落。その、あまりにも強大な侵攻を阻止するため、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、オランダ、オーストラリアなどによる連合軍が西部戦線を切り開くため、ドーバー海峡を渡り、決死の上陸作戦を行った。それが、ノルマンディー上陸作戦。正式名称は「オーバーロード作戦」だ。

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1944年6月6日、連合軍は80キロに及ぶノルマンディー海岸を「オマハ・ビーチ」「ユタ・ビーチ」「ジュノー・ビーチ」「ソード・ビーチ」「ゴールド・ビーチ」の5つに分割して各国軍が担当、上陸を開始する。上陸といってもすぐに兵士たちが陸に攻め入るわけではなく、作戦の初動時は防波堤の建設や、薬や食料の補給、戦車、ブルドーザーなどの重車両の陸揚げのための、埠頭の設置などに費やされている。

結果、「D-デイ」と呼ばれる上陸作戦決行日には、英・米・カナダ、自由フランス軍などによるコマンド部隊が上陸。その後、連合軍旅団が参戦し、ドイツ軍は破壊的なダメージを受け、フランス、ヨーロッパの開放への道筋をつけることとなった。そして、そのために多くの兵士たちがこの地で命を落とした。クルーズの多くはアメリカからのゲスト。彼らにとっては異国の地で戦った若き母国の兵士たちの、歴史をたどる旅でもあるのだ。

「D-デイ」上陸作戦のビーチをヒストリアンとともに歩く

クルーズ中、ずっと同行していたヒストリアン氏とともに、我々を乗せたバスは約2時間のドライブを楽しみながら、ノルマンディー海岸に面した街アロマンシュに向かった。ツアーはわたしを含めて、7、8人。わたし以外は全員、高齢の男性だ。女性たちやそれ以外のクルーズゲストは、もうひとつのエクスカーション、村巡りと世界遺産に登録されているタペストリーの見学に行ったようだ。「なぜ戦争ツアーのほうに行くの? タペストリーのほうがきれいなのに!」と顔なじみになったマダムに聞かれたが、やはりこの地に来たのだからじっくり歴史に向き合いたい。そう答えたのだが、果たして理解してくれただろうか。別のツアーとはランチで合流し、午後は一緒の行動になるとのことだ。

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ノルマンディー海岸に着き、作戦の舞台となった「ゴールド・ビーチ」「ジュノー・ビーチ」「ソード・ビーチ」を見渡す断崖にまず向かった。この一帯は世界15カ国に点在する24の墓地、25の記念碑や、歴史的戦争遺産を国の機関として管理するABMC(アメリカン・バトル・モニュメント・コミッション)が保全。学生たちも含め、数多くの観光客が見学に来ていた。

バスの中でのレクチャーでおおまかなことは理解したつもりだが、この史上最大の作戦は非常に複雑で、かつ難航し、予測できないことが多かったようだ。それにしても当たり前だがヒストリアン氏の博識には驚かされた。部隊の名前、日時などはもちろん、まるで自分がそこで見てきたかのように感情たっぷりに解説してくれる。それを実際に作戦が行われた場所で聞くのだからリアルだ。ただの観光ガイドの話とはまったく異なる。あわせてネイチャーガイドも同行しているので、ときおり誰かが「あの鳥は? 植物は?」と聞けば、即答してくれるから頼もしい。

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美しいシーサイドスポット、アロマンシュ

再びバスに乗って向かったのはアロマンシュの街。ここには上陸博物館がある。上陸作戦の全容を示す巨大な模型、当時のモノクロの写真、物資、銃器などが展示されている。博物館は海岸沿いに建ち、その先には今も20ほど残っている、「ケーソンフェニックス」と呼ばれる仮設港を作るための防波堤の遺構が点在。子供たちが遊び、犬が走り回る平和なビーチに横たわる存在はあまりに非現実的で、しかし、重い。

ランチまで少し時間があったので、気分転換に博物館を離れ、しばしビーチサイドを散策。アロマンシュは夏のバカンスタウンで、海沿いには愛らしいペンションやプチリゾートが並ぶ。その後、別のエクスカーションチームと合流して海辺のレストランで新鮮な魚のランチとワインを味わいながら、ゲスト同士で談笑。エクスペディション・チームも一緒にテーブルを囲むのがエクスプローラーの流儀。明日はそれぞれが別れていくこともあり、メールアドレスの交換をおこなう人たちも。今回は、とてもいいゲストに恵まれたことに感謝。

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9387の十字架が静かに並ぶ、アメリカ墓地

ランチ終了間際、エクスペディション・チームのスタッフがこう告げた。「みなさん、これから、今日最後の見学場所へ行きます。ここを訪れたいためにこのクルーズに参加された方もいるかと思いますが、アメリカ墓地です。ここには、作戦時に命を落としたアメリカ兵士たちが、数多く眠っています。ゆっくりと訪れることができるよう時間は十分に取ってあります。非常にセンシティブな場所ですので、ぜひ、静かに見学されるようお願いします」

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グーグルアースを立ち上げて、「Normandy American Cemetery and Memorial」と入れて検索してほしい。そこにはおびただしい数の墓が、整然と並んでいるのが見えるはずだ。ここには、9387のアメリカ兵士の墓があり、その大半は「D-デイ」で命を落としている。なかには身元不明のまま葬られた者もいる。入口で花輪を捧げて祈った我々は、その後1時間ほどの自由時間をもらい、園内を歩き回った。大勢の参拝者がいるため、物寂しい雰囲気ではない。ただ、あまりにも圧倒的な数の十字架を見ていると、悲しさよりも人間の愚かさを思い、若くして亡くなった兵士たちの謳歌したであろう彼らの人生のかけらはどこに行ったのかと、途方に暮れてしまうような感覚になってしまった。取材で撮影をする際も、十字架に手を合わせ、静かにシャッターを押した。

見学を終えて、ひとりバスに戻る途中、ノルマンディーの海岸線が遠くに見えた。引き潮の時刻だったのだろうか、砂浜と水面が作り上げる景色はまるで絵画のように平和で美しかった。クルーズの最後の記憶を心に刻みこみ、今回の旅も終わりを告げた。

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寺田直子|TERADA Naoko

トラベルジャーナリスト。年間150日は海外ホテル暮らし。オーストラリア、アジアリゾート、ヨーロッパなど訪れた国は60カ国ほど。主に雑誌、週刊誌、新聞などに寄稿している。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)、『ロンドン美食ガイド』(日経BP社 共著)、『イギリス庭園紀行』(日経BP企画社、共著)、プロデュースに『わがまま歩きバリ』(実業之日本社)などがある。

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