シトロエン DS5 シックに試乗|Citroen
Citroen DS5 Chic|シトロエン DS5 シック
デザインだけとは言わせない
シトロエン DS5 シックに試乗
「従来にはないあたらしい領域のプレミアムカー」として、21世紀に蘇ったシトロエンのDSライン。2009年に登場した小型ハッチバック「DS3」、2011年に登場したコンパクトクロスオーバー「DS4」につづいて登場した「DS5」は、スポーツカーのような運動性に、快適性と機能性を組み合わせたDSシリーズ最上位のモデルだ。カテゴリーの枠を超え開発されたDS5を、小川フミオが日本の公道でテスト。
Text by OGAWA Fumio
Photographs by ABE Masaya
他のメーカーの真似はしない
ロングルーフのハッチバックというユニークなコンセプトのシトロエンDS5に試乗。内外装ともに凝りまくり、なによりデザイン好きに勧められるモデルだ。
「デザインで他のメーカーの真似はしない」とメーカーが公言するだけあって、DS5はひと目みてそれとわかる個性的なスタイリングを特徴とする。全長1,855mmという長いルーフがリヤに向かって、すぼまるようにスラントするシルエット、複雑な曲面を採り入れたボディ外皮、そして各所に配されたガーニッシュと、すべてにわたって、際立つデザインが採用されている。
DS5のターゲットユーザーを簡単に定義するのはむずかしい、と日本の現地法人であるプジョー シトロエン ジャポンは言う。たとえば、アウディA4アバントやボルボV60といった、個性を強く持ったステーションワゴンもライバルと目されるようだ。
乗った印象をひとことでいうと、DS5はたんにデザインに凝ったクルマではない。
意外なほど軽快。最高出力156psの1.6リッターターボエンジンは、従来からおなじみのパワープラントのはずだが、6段ATを介して、力強く前輪で大地を蹴る。トルクの出方やエンジンの回転フィールなど、従来との変更点はとりたててないはずだが、これまで乗ったどんなモデルより、今回のDS5で強い感銘を受けた。
Citroen DS5 Chic|シトロエン DS5 シック
デザインだけとは言わせない
シトロエン DS5 シックに試乗(2)
専用設計開発モデル
DS5は、2010年日本導入の「DS3」、2011年の「DS4」に次ぐ、「従来にはない新しい領域のプレミアムカー」とシトロエンが定義するDSラインに連なる3台め。DS3は「C3」、DS4には「C4」と、それぞれベースモデルを持っていたが、唯一専用設計開発されたモデルがDS5となる。
2,725mmの長いホイールベースを持ったDS5のプラットフォームは、「C5」のストレッチ版。ただし「専用設計」と言うとおり、C5のような油圧と窒素ガスを使ったハイドラクティブでなく、金属バネとダンパーによる通常のサスペンションシステムが採用されている。
パワープラントは、プジョーとシトロエン各車に広く使われているPSAとBMWグループが共同開発した1.6リッター4気筒ターボ。156psの最高出力を発生する。これにプジョー508でも採用されたアイシン製6段オートマチック変速機が組みあわされる。今回導入されるのは、このドライブトレイン搭載の「Chic(シック)」のみだ。
これだけなら、目新しさはとりたててないのだが、乗ると、ドライブトレインのフィールのよさに驚いた。これまで体験したおなじエンジン搭載のどのクルマより、フィールがよく、トルクはすべての回転域でまんべくなくという感じでわき出る。低回転域から高回転域まで、力強い加速が味わえるのだ。
このエンジンについて、「とりたてて変更の報告はない」とプジョー シトロエン ジャポンは話す。ようするに、これが洗練ということなのだろう。吸気や排気のパーツにごくわずか手をくわえただけで、エンジンのキャラクターは驚くほど変わる。そのよさがDS5にはしっかりある。
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シトロエン DS5 シックに試乗(3)
箱根の山岳路を試す
DS5の乗り心地はやや硬めだ。乗り出したときは、低速でも高速でも、路面の凹凸をていねいに拾いすぎるのが気になった。ミシュランタイヤのキャラクターのせいなのか。同時にハンドルを切ったときの反応はやや過敏で、すこしスポーティすぎる味付けかもしれない。
そのぶん、コーナリングは楽しくて、試乗コースだった箱根の山岳路を軽快に走ることができた。箱根はご存知のとおり、複雑なカーブの組合せと、ところによってはカーブとカーブのあいだに比較的長い直線路がある。なので、さまざまなパターンでドライブができる。
ATゲートに設けられた、マニュアルでシフトアップおよびダウンができる機能を積極的に使って走ると、コーナリングから立ち上がり、次のコーナーへと入っていく際は、ハンドリングにくわえ、ブレーキも加速も、ともに感心するレベルの高さだ。
ただし、DS5はそもそもスポーティカーではないので、せっかくマニュアルシフト機能をもつギヤボックスを備えているが、2速と3速は欧州車の常でやや開きすぎており、2速で加速のよさを味わったあと、シフトアップするとギヤが高すぎて、パワフル感が殺がれてしまうことがある。これはふだんの生活で体験することはあまりないだろうから、まあ、こういうこともある、という話しとして聞いておいてもらえばいいかもしれない。
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シトロエン DS5 シックに試乗(4)
航空機をイメージ
DS5の真骨頂はデザインだろうか。「アイディアは豊富にあった。むずかしいのは選択だった」と本社のデザイナーが語るように、内外装ともにかなり凝っている。
ボディパネルは複雑に線と面が組みあわされていて、車体色によっては、その造型美をじっくり味わうことができる。くわえてサーベルとシトロエンが呼ぶ、ボンネットからウィンドシールドにかけて装着されたクロムのガーニッシュが目を惹く。
クロムのパーツは品質管理が難しく、かつ「量産車のなかでもっとも長いパーツ」(シトロエン)というだけあって、これだけの長さのものを曇りもなくキズもなく生産管理する技術もさることながら、そもそもこれをあえて採用しようという大胆な判断が評価に値する。機能というクルマの本質論からするとサーベルの存在には疑問なしとはしないが、冒険があるからクルマはおもしろいといえる。
インテリアに目を移しても、ダッシュボードの造型をはじめ、天井には「航空機をイメージした」と内装担当デザイナーが話す、トグルスイッチがならび、各種機能の操作がおこなえる。分割式のスライディングルーフも、どことなくヘリコプターのコクピットを連想させる。
ステアリングホイールはヘッドコンソールと同様、航空機のイメージでデザインされている。たしかに、9時15分の位置だと、操縦桿をおもわせる。ただし実際は、小さなコーナーを回るときなど、直線部分が長すぎて、円のようにスムーズに回転させるのがややつらい。これはアイディア倒れかもしれない。
あえてウィンドシールドの傾斜角を強くすることでグラスハウスの高さを抑制し、そのため乗員は狭いところから外界をのぞくような、デザイン用語でいう「洞窟効果」が個人的には気に入っている。
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デザインだけとは言わせない
シトロエン DS5 シックに試乗(5)
マーケットでの評価
「速くて歴史に残るクルマはないが、デザインで歴史に残るクルマはたくさんある。」と言った有名な自動車ジャーナリストの大先輩がいるが、デザインでもって拡販戦略をとるシトロエンの方針はたいへん興味ぶかい。
「スタイルと(燃費によい)空力特性の両立はむずかしい。それでも、サルーンでもなければステーションワゴンでもクーペでもない、独自のデザインを確立できた。」DS5の開発担当者の言葉だ。
C5より全長で260mm短いボディは、先述したサーベルによる視覚的効果で、ボンネットを長く、キャビンをコンパクトに見せる効果があるそうだが、室内は空間的に余裕があるわけではない。とくに、リヤシートのレッグルームは175cmの人間にはぎりぎりのスペースだ。「家族のためのクルマ」と謳われるが、空間効率を重視したSUVではなく、デザインを重視する自動車ファンを楽しませてくれるクロスオーバービークルだ。
DS5は中国にも多く輸出。そのうち現地生産に切り替える予定だそう。それを聞いてややうがった見方をすれば、この独特のデザインが採用された背景には、どのデザインがマーケットで評価されるか事前評価の結果、中国のユーザーの支持率が高かったのだろうか。
実際、中国での評価は高いらしい。かといって、文化がちがえば、テイストがことなり、それを調整して、インターナショナルな市場で成功する製品に仕立て上げなくてはならない。そのため「ほかとちがうものを目指す」といった「物語」が必要になったりする。シトロエンの手法は、真っ向からでなく、変化球勝負なのだが、これもひとつの現代的なマーケティングとして興味ぶかい。
Citroen DS5 Chic|シトロエン DS5 シック
ボディサイズ|全長4,535×全幅1,870×全高1,510mm
ホイールベース|2,725mm
トレッド 前/後|1,580 / 1,605mm
車両重量|1,550kg
乗車定員|5名
エンジン|直列4気筒DOHC+ターボ
総排気量|1,598cc
ボア×ストローク|77.0 × 85.8mm
圧縮比|11.3:1
最高出力|115kw(156ps)/6,000rpm
最大トルク|240Nm(24.5kgm)/1,400-3,500rpm
トランスミッション|6段オートマチック
駆動方式|前輪駆動
サスペンション 前/後|マクファーソンストラット式 / トーションビーム式
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ディスク
タイヤ|225/50 R17(16、18、19インチをオプション設定)
ホイール|7.5J x 17
価格|400万円