涙と疲労と感動と……超ハードな舞台『嵐が丘』奮闘記|戸田恵子
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2015年8月17日

涙と疲労と感動と……超ハードな舞台『嵐が丘』奮闘記|戸田恵子

戸田恵子|涙と疲労と感動と……

超ハードな舞台『嵐が丘』奮闘記(1)

大作アレルギーの私が、2015年はチャレンジの年と決めて『嵐が丘』に挑んできました。しかも舞台は“あの”日生劇場。ここはかつて、あこがれの越路吹雪さんのコンサートを観た劇場です。そんな思い出深い場所で、脇目も振らず駆け抜けた約2カ月間。涙と疲労と感動の奮闘記をここに記したいとおもいます。

Text by TODA Keiko

稽古中も本番中も、ひたすら“静かタイム”の日々

舞台『嵐が丘』は久々にハードな芝居でした。もともと文学作品が苦手な私は、いや、苦手というより自分には向いてないというおもいが強くあり、これまで避けてきました。

しかし、なにを血迷ったか(笑)一度はトライしてみようとお受けしました。ドラマでレギュラーをご一緒した経験のある、キャサリン役の堀北真希さんの芯の強さは知っていましたし、ヒースクリフ役の山本耕史くんは昔からの仲良しで、彼の芝居は大好き。演出のG2さんの『嵐が丘』に掛ける熱意。そしてあこがれの日生劇場。長年の“文学苦手意識”はこれらのことで払拭されました。

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私がいただいたネリーという役は、語りも兼ねた使用人でして、出番も多ければ台詞も多い。稽古場にいる時間もどのキャストよりも長くいるわけで、体力が本当に必要でした。そうです、台詞を覚える記憶力も集中力も、すべて体力のなかに含まれているからです。

だれよりも早く稽古場に行き、ウォーミングアップをし、毎日最後まで稽古場に。そして直帰です。飲みに誘われても一度も出かけませんでした。こんなこと生まれてはじめてかもですね(笑)。本当に体力が必要でしたし、とにかくケガのないよう、倒れぬよう、迷惑かけぬよう、毎日“静かタイム”を過ごしました。それほど必死だったようにおもいます。

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本読みは2日程度ですぐに立ち稽古。難解な台詞に慣れるまでにはものすごく時間がかかりました。正直、初日が開いても、なんだかよくわかっていないこともあったような……。難しいし厄介だ(笑)。

ミュージカルではないけれど、劇音楽がかなり厚くついていました。語りが多い私は、音楽を聴きながら喋ることも多く、タイミングも計りながらのアクション。ミュージカル並みです。劇場では何台ものセリ(※)を使用するので、それも大変なことでした。稽古場では当然セリはなく、想像の世界です。実際劇場に入ってからのセリ体験は大変でした。危険ですし、タイミングを完璧に把握するまでに時間がかかりました。

約1カ月ハードな稽古を積んで、5月6日の初日を迎えたわけですが、難しい台詞、重い衣装、危険な舞台機構、公演回数の多さ。結局本番中も“静かタイム”。ただ黙々と挑みました。まあこれが当たり前の姿かもしれませんが、まったく余裕なかったです。自分で言うのもなんですが、がんばりました(笑)。

予想を遥かに超え、知人、友人、お客様が大変喜んでくれたことに驚きでした。この『嵐が丘』という劇画的な別世界、みなさんお嫌いではなかったようです。「面白い!」と言ってくださいました。うれしい限りです。私は語りというポジションでとにかくお客様が「あ、また語りだ」と言って引かないよう、眠くならないよう、神経を使いました。語りにも躍動感をもちたい。そしてグズグズしないで、ネリーという役と語りがスムーズに行き来できるようにと。

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いつもの倍、神経を使う舞台、疲れましたね(笑)。でも毎日感動がありました。キャサリンとヒースクリフの初々しい出会いから、ねじれた関係、悲恋、憎しみ、憐れみ、ずーっと側で見てきたネリーは、みなの友であり、姉であり、母であり、そんなつもりで演じました。厳しく、優しく。キャストにおもいいれ満点です。

※セリ=舞台機構のひとつ。舞台の一部を切り抜き、そこから俳優または大道具を奈落(ならく)からせりだし、また床下へせり下げるもの。

冷や汗ものの“ヘアトン首とれ事件”

戸田恵子|涙と疲労と感動と……

超ハードな舞台『嵐が丘』奮闘記(2)

冷や汗ものの“ヘアトン首とれ事件”

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おもい入れといえば、赤ちゃんヘアトン。この人形がもうかわくて、かわくて。抱いていると魂をもっていかれるんです。

そのかわいいヘアトンがある日、2階から落とされてヒースクリフがキャッチする場面で、受けた山本耕史の腕のなかで首がとれた事件がありました。おくるみを着ていたからポトリと外に落ちることはありませんでしたが、確実に首が……。

もちろんお客様にはわからないのですが、耕史と私はアイコンタクト。受け取り、抱きながら子守唄を歌うシーンになるのです。さあ、どーする?

私はもう必死。なんとか首をはめ込もうと、後ろ向きで二度ほどトライしましたがはまりません(汗)。あきらめて、絶対ポロリしないよう左腕で懸命に支えて、そのシーンはがんばりました。舞台上はいろいろなアクシデントはつきものですが、人形=人間の首が取れるのはさすがにね。いけませんよね。

なんかよくわからないけど、休憩中に私はお塩を振ってあげたのでした。「ゴメンね」って。翌日からはかわいそうに首のところ手術。縫われていました。私、泣けちゃって。より一層、愛しくなったのでした。ヘアトンもがんばりました。

しかし、たくさんの人が亡くなる芝居でしたね。アーンショウ、ヒンドリーの妻、ヒンドリー、キャサリン、エドガー、リントン、ヒースクリフ……。そのすべてを見届けるネリー。舞台大詰め、ヒースクリフが果てる前夜に言い放つ長台詞を、ネリーはじーっと聞くのですが、最後はいつも涙しておりました。

「狂おしいまでに会いたい。一目でいいから姿を見せてほしいというおもいで、血の汗が噴き出してもおかしくないほどだった。だが見えなかった。それからずっと、俺はあの耐え難い責め苦に苛まれつづけてきた。地獄だ! 奇妙な殺し方だよ。役立たずの希望に騙されて、少しずつじりじりと18年かけて死んでいくのだから!」

哀しいのにいい台詞だなぁと、いつも私の胸に突き刺さっておりました。聞いていて涙のでない日は、1日たりともありませんでした。

5月26日、無事千秋楽。ハードな舞台、ハードな公演日数、2ステのオンパレード。終わったらおもいきりだらけたーい! そうおもったのでした。

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※「おもいきりだらけたーい」と言った戸田恵子さんが、その後訪れた南国とは? オフの様子を綴ったコラムはこちらから!

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