田中凜太郎|Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(前編)
Fashion
2015年3月13日

田中凜太郎|Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(前編)

連載|田中凜太郎

Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(前編)

2010年からはじまった田中凛太郎氏主宰のヴィンテージ・イベント「Inspiration」。そのプロローグ的存在として刊行された『King of Vintage』は、Vol.1、Vol.2(Vol.2は『Queen of Vintage』)ともに好評を博し、Vol.1にかんしてはすでにソールドアウトという人気ぶり。
そして今月、『King of Vintage Vol.3』が日本先行で発売された。反響の大きかったVol.1の続編的存在として、ふたたびラリー・マックコイン氏の登場となった今回のVol.3。OPENERSでは、ラリー氏再登場の経緯もふくめ、その見どころについて田中氏に聞いた。

写真=田中凛太郎インタビュー=竹内虎之介(シティライツ)

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いま一番ノッてる人のオイシイ部分を凝縮した本

──『King of Vintage』のVol.1、Vol.2(『Queen of Vintage 』)については、いずれもイベント直前の発売でしたが、今回は9月。これもイベントに向けてのプロローグと考えていいのでしょうか?

そのとおりです。第3回目のインスピレーションが来年2月10日、11日に、今年とおなじ会場「クィーンメリー号」で開催することが決定し、それに先駆けての発行です。前回、前々回も、本当はこのタイミングで出したかったのですが『My Freedamn!』と発売時期が重なるということもあって年末に発売したんです。

──なるほど、そういう事情もあったんですね。人選についてはラリー・マックコイン氏の再登場となりましたが、なぜ、もう一度彼に?

今回は3回目ということで、じつはほかのひとも考えたのですが、このレベルになるとなかなかいない、というのも正直なところで。それにある意味、いまのラリーはノリにノッている頂点のひと。ですから、“キング”として素直に出すのがいいんじゃないかと、そう思ったわけです。この勢いは当分、誰にも止められないのではないでしょうか。

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,

──彼のコレクションの一番の魅力は?

やっぱり古着の王道であるデニムの強さが際立っていますね。古着のなかでもっとも強いのは、なんだかんだいってもデニム。そんなデニムに強いラリーのコレクションというのは、革ジャンからこの世界に入って、これまでデニムにあまり触れてこなかった僕にとっては、とくに新鮮で楽しいものでした。ただ彼のすごいところは、デニムやワーク系だけでなく、ほかのジャンルも総合的に強いというか、ハイエンドだという点。そのコレクションは、セレクト、クォリティともに本当にすばらしいですよ。

──制作する上でVol.1とのちがいは意識しましたか?

もちろん出てくるアイテムは全部ちがうのですが、それだけではなく、今回は彼のコレクションの持ち味をより強烈に出したいと考えました。ラリーはいま、ギャンブルでいうともっともビットの高い“ハイローラー”のポジションにいるひと。そういう一番ノッてるひとのオイシイ部分を凝縮した本にしたいと思いましたね。

──具体的にはどういう内容なんでしょう?

アイテム的には1910年代前後から40年代前半ぐらいまでのものが中心。この辺はいま一番ホットであると同時に、古着も来るところまで来たな、という印象を与えられる、いわば最後の切り札みたいなアイテムが出てきます。もうこれ以上遡るとテーラードの世界、というギリギリのラインです。

連載|田中凜太郎

Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(前編)

ラリーの世界はフィフティーズ以前のアメリカ

──たしかに、もっともホットなところですね。ハイファッションの世界にも、アーリーセンチュリー的な印象を多分に感じますから。

そうなんですよ。東京の街を歩いていても、古着の世界とストリートやモードの世界がリンクしているのを感じます。最新のファッションなのに、古着で見たことがあるようなデザインのものを若いひとが着てるんですよね。でもいまの若いひとたちが古着にすごく興味があるかというと、そうでもない。そういう、接点があるようなないようなリンクの仕方って、なぜなんでしょうね。

──着ているひとに意識はなくても、デザイナーをはじめ服を作っている側のひとたちが時代を意識しているということなのでは。

きっとそうでしょうね。たとえば1910年代のアメリカの服自体、ヨーロッパの文化とあたらしいアメリカの文化がリンクしてできたものだと思うのですが、それが日本を基軸に、世代とジャンルを超えてまたリンクしてきている。それは非常におもしろい現象だと思います。

──逆に言うとラリーさんは、そうした時代の気分の元ネタになるようなモノをたくさん持っているということなんでしょうね。

まさにそういうことです。アメリカのおもしろいものって結局、景気のいいときに出てきたもの。第一次大戦が終わった1910年代後半、大恐慌を乗り越えた1930年代後半、第二次大戦が終わった1940年代半ばから後半。ラリーはいま、この1910年~1940年代のモノを完全に掌握している。だから強いんです。しかも、ラリーはおなじ景気のいい時期のものでも、フィフティーズにはこれまでもほとんど触れていないんですよ。90年代の古着ブームのときって、イコール50年代だったじゃないですか。でもいまはフィフティーズが一番難しい時代になってしまいましたからね。

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,

──そんなプラスの要素をたくさん持っていて、マイナスの要素を抱えていないラリーさんは、だからこそいま一番ホットなんでしょうね。

そうです。不思議なもので、古着に本来トレンドなんてなくていいはずなのに、僕らもやっぱりトレンドのなかに生きている。さらにそれが、さっきも言ったように、なぜかストリートやモードともクロスしている。考えれば考えるほどおもしろい話です。

──ところで、フィフティーズがいま不人気なのはどうしてでしょう?

いまのアメリカって、50年代を出発点に、そこからつづいているアメリカの延長線だと思うんです。フィフティーズがウケないのは、まさにいまのアメリカを見たくないという心理のあらわれなのではないでしょうか。

──なるほど。それは興味深いですね。

だからといって、いままでアメカジを好んでいたひとがヨーロッパにはいきにくい。だからその前の時代のアメリカ、ということになっているのかなと思います。たとえばイギリスにもカジュアルはありますし、歴史的に見ても、いくつかのムーブメントはありました。でも、パンクにしてもテッズにしても、アメリカの真似をしていたわけですよ。そういう意味では、カジュアルってやっぱりアメリカで生まれたもの。その最初のカルチャーが、ラリーが所有しているような古着に見られる世界なんです。

──古着のトレンドとしてはどんどん時代が古くなっているにせよ、カジュアルの世界をリードしているのはやっぱりアメリカ。幻想を抱かせてくれるというか、どこか夢を見させてくれるようなところがありますね。

さっきフィフティーズは現在のアメリカのはじまりだったと言いましたが、そのフィフティーズもふくめ、僕たちの好きなアメリカのカルチャーって、いまや現実のアメリカにはないんです。だから僕はいま、なんだか幽霊と付き合っている気分なんですよ(笑)。

後編につづく

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,

King of Vintage No.3:『Heller’s Cafe:Part2』
価格|5250円
サイズ|H307×W232 mm
重さ|約1kg


           
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