十分過ぎるほど楽しいベーシックな走り

OPENERSの読者には、それなりにスポーツカー経験も豊富なひとが多いだろう。そのなかで、最近のスポーツカーというと、パワフルだが、昔のようにスイスイ走るかんじがなくなって、なにかがちがう……と思っている向きもあるのでは?　実際、大きな排気量のスポーツカーはパワーが上がり、トルクは増大と、馬力のインフレ状態だが、いっぽうボディが大型化し、「スポーツ」の概念が少し変わってきていると言わざるをえないような状況にある。

ポルシェ ケイマンは、そこそこの馬力があるエンジンを身軽なボディに乗せ、ハンドリングで楽しさをあたえるという、かつてのスポーツカーの定石にかぎりなく忠実なモデルだ。いまは「R」がクルマ好きのあいだで人気を呼んでいるが、なかなかどうして、「素」のケイマン（674万円）でも十分すぎるほど楽しい。価格差301万円を考えると、Rにいかずとも、ベーシックなケイマンでベーシックなスポーツカーの価値を味わうのもいいと思う。

トランスミッションとエンジンの抜群なコンビネーション

ケイマンのパワープラント（エンジン）は2.9リッターの6気筒。運転席のうしろに搭載され後輪を駆動する。今回運転したのは6段マニュアルトランスミッションが組みあわされたモデルで、プラス47万円で7段PDK（デュアルクラッチ）モデルも選ぶことができる。

最高出力は265psで最大トルクは300Nmと、現代にあっては控えめな数値だ。しかし、運転すると、すばらしいコンビネーションだ。気持ちよいゲート感をもつマニュアルのギアを操り、アクセルペダルを踏み込み、高回転を維持するように走ると全長4.3mとコンパクトなボディは、力強く放たれた矢のように疾走する。

剛性感の高いシャシーに、正確なステアリング、そして、追従性の高いサスペンションシステムによって、ドライバーとクルマとの一体感はすばらしい。かつ、適度な重さがあたえられたハンドルのフィールが絶妙。というのは、軽いのも悪くないが、多少の慣れが必要で、それより重めのほうが正確に操舵できるように思えるからだ。

かつ、ケイマンはタイヤの太さ、ハンドルのパワーアシストとが、絶妙なバランスで保たれている。決して重すぎることはない。自然で素直な、よくできたスポーツカーのステアリングだ。

過剰でなく、ナチュラルなクルマ

エンジンもよくできている。ひとつは軽量化のためにオールアルミウム製であること。そしてバリオカム・プラスによって可変バルブタイミングと、2ステージの可変バルブリフト機構を備える。それによって、低回転域でもトルクがあって扱いやすいいっぽう、アクセルペダルを踏みこむと一気呵成に高回転までまわる。5,000rpmあたりでもりもりと力が出てくる感覚は、マニュアルシフトと組み合わされると、まことに得難い気持ちのよさだ。

短いストロークをもつシフトレバーを握り、2速、3速……と引っ張っていくと、あっというまに法定速度に達してしまうので、そこは慎重に。ただ高回転までまわさなくてはならないということはない。中回転域での中間加速のフィールもかなりよい。軽いから瞬発力もあり、エンジンに物足りなさをおぼえることもない。フットワークのよさが、コンパクトな2シータ－、ケイマンがもっている輝くばかりの魅力だ。

過剰でなく、ナチュラル。ケイマンの特徴をごくシンプルに書くとこうなる。スポーツカーとは本来、身体感覚の延長線上で、より気持ちよく走ることができるクルマをカテゴライズした言葉だった。スーパーがつくと、それは人間の感覚を超えたものになってしまう。スーパーカーが増えているなかで、700万円弱で、質の高い、本来の意味に忠実なスポーツカーの傑作が手に入るのだから、ケイマンはありがたい存在だ。

ただ……2シータ－で車内にはブリーフケースを置く場所もない、というのはやはり不便。スポーツウェアにポケットはないが、それでも日常的につかえる1台だけに、ちょっとした買い物を納められる「ポケット」がついたスポーツカーとしてケイマンに乗りたい。それがずっともちつづけている夢でもある。

PORSCHE Cayman｜ポルシェ ケイマン
ボディ｜全長4,345×全幅1,800×全高1,305mm
エンジン｜2.9リッター 水平対向6気筒
最高出力｜195kW（265ps）/7,200rpm
最大トルク｜300Nm/4,400-6,000rpm
駆動方式｜RWD
トランスミッション｜6段MT
燃費｜9.5ℓ/100km
CO2排出量｜223g/km
※燃費、CO2排出量は欧州データに基づく。
価格｜674万円