限定時計から読み解く「スウォッチ」のあり方
限定時計から読み解く「スウォッチ」のあり方
多くの人がこれまでに、「スウォッチ」という名を一度は耳にしたことがあるだろう。あるいはスウォッチの時計を1本はもっている、という人も多いのでは? そのスウォッチが昨年末、コンプリケーションウォッチ「ダイアフェーン・ワン」のダイヤモンドを配した限定モデルを発表した。これまでにも数かずの高額限定モデルを生み出してきたスウォッチだが、同社はなぜこのような試みをつづけるのだろう。このたび「スウォッチ」の本国PRの統括を務めるクラウス・ピーター・メイガー氏に話を聞いた。
文=野上亜紀
“スウォッチらしくない”限定品が秘める意味
「今回の『ダイアフェーン・ワン』のように、こうした限定モデルは定期的に出すように心がけています。それはあくまでも自分たちを挑発するため。私たちの時計は多様な人種、そしてスペインの女王様にいたるまで多様な社会的地位の方々をターゲットとしています。価格帯は低く、そしてファションを中心としたコンセプトで、誰でもが身に着けることができるものを提供したいと考えています。今回、限定、しかもスウォッチとしては高額な時計を発表したのは、定番モデルを出しながらも高価で希少な時計も出せる力がある――このように自分たちを挑発し、そして世間に話題を提供することが最大の目的です。なぜスウォッチがかような時計を出すのか? とね」
確かにこのダイアフェーン・ワンをはじめ、スウォッチの限定品は手に取りやすいという、従来のスウォッチのイメージを壊すものが多い。メイガー氏はその「ものすごくスウォッチらしくない」点こそが注目を集めるための最大の秘訣だと語る。
「スウォッチらしくない時計を出すことで、お客様は実際に店頭に足を運んでくださいます。でもあまりたくさんの高額な限定品は出すべきではありませんね。私達は決して高価格帯を提供するブランドではありませんから。そうしたイメージはつけてはなりません。スウォッチの時計は時間を読むためのものではなく、服を変えるたびにアクセサリーとして何本かそろえる、ファッションの一部のようなものなのですから」
姿勢差補正を目的とした「ダイアフェーン・ワン」。脱進機をふくめてムーブメントの上部が30分かけて一周する。昨年末の12月に新モデルを限定販売。ギリシャ語で「透明」を意味する「ダイヤフェーン」という名のごとく、スケルトン文字盤が美しいピース。ピンクゴールドベゼルに1.5カラットのダイヤモンドをあしらった「Turn 2 Her」(世界50本限定/日本入荷2本/147万円)、ホワイトゴールドをあしらった「Turn 2 Him」(世界130本限定/日本入荷5本/99万7500円)の2型がある。
ともに手巻き、PGまたはWG×プラスティック×アリゲーターストラップ。
数ばかりが勝負ではない、テーマにもとづいた訴求
気軽さ、そしてバラエティ豊かな商品を選ぶ楽しみ。これこそがスウォッチの醍醐味だ。しかそのバラエティにおいてもきちんとした精査は必要と、メイガー氏はつづける。
「バラエティ豊かであればこそ、デザインのよいものにフォーカスするべき。数にこだわるのではなく分かりやすい見せ方が必要です。これまでは数多くあるプロダクトラインを中心に商品構成を行っていましたが、じつは2004年からファッションテーマにもとづいた訴求へと変えているんです。テーマを絞ることは、結果的には強い訴求へとつながりますから。ミラノのデザイン室ではかなりたくさんのアイディアが出されますが、それもかなりの数を吟味しているんです。プロダクトの訴求力が強くあればこそ、成功へ導ける――実際の数字にもそれは顕著に現れています」
オリジナルへの回帰、プラスティックのテーマ
そして今年は、ブランドのルーツを築いたプラスティックのモデルを強化する予定だ。
「プラスティックモデルの新作はここ2年ほど控えていたのですが、昨年はブランド設立25周年だったということもあり、ルーツにもどった商品を出したいと思っています。私たちのあいだでもプラスティックの時計は“オリジナル”と呼ばれているほど大切な存在。ファッションブランドなど競合他社はたくさんありますが、私達は通り過ぎていく流行だけを追いかけようとは思っていません。最初の製作姿勢に立ちもどることで、スウォッチというブランドを改めて知っていただければと考えています」
スウォッチはスウォッチであるべき。メイガー氏は他社の製作姿勢とは、つねに明確な線引きを行う。
「はじめてスウォッチの時計が世に出たとき、それはとても衝撃的なことだったと思うんです。時計というものは一生身に着けるものを選ぶべきと考られていた時代に、時計は1年間単位で楽しむもの、そして何本も、という新しいコンセプトが生まれたのですから。
実際の展開商品数は精査したうえで100を減らしても、まだ300ほどの数があります。それに私たちのテーマはファッションはもちろんですが、アートやスポーツにいたるまでじつに幅広い。このブランドで働くにはいろいろなことにチャレンジする、ポップな考え方ももっていないといけないんですよ(笑)」。メイガー氏は最後にそう微笑んだ。
スウォッチ グループ ジャパン スウォッチ事業本部
スウォッチコール Tel. 0570-004007