時を哲学するエルメスが今年、表現するのは「待ちどおしい時間」|HERMÈS
HERMÈS|エルメス
経年変化を経て、艶やかさを増すレザーのように、
時に対して真摯に向き合うエルメスの精神がここに
エルメスにとって、腕時計とは哲学を表現する場である。エルメスにかかると、時間もまたオブジェのひとつ。“時刻を正確に刻む”“時を計測する”こととは別の、もうひとつの“時間の表現”を求め、エルメスは数々のファンタジーを創造している。「アルソータンシュスポンデュ」は時刻表示を一時停止させ、楽しい時間を漫喫させるものだった。その系譜を継ぐのが、2017年のバーゼルワールドで披露された「スリム ドゥ エルメス ルゥール・アンパシアント」である。
Text by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)
待ちどおしい気持ち、はやる気持ちを
機械で、ウィットを効かせて表現
この時計の使い方はこうだ。これから12時間以内に訪れる大切な時間を時計にセット。4時位置と5時位置の間のスモールダイアルは、カウントダウン計となっている。そして、残り1時間となった時に、隣の扇形針が連携。針は細やかに動いていき、いよいよ約束の時間となった時に、小さなチャイムを1回だけ鳴らしてくれる。
そのチャイムはクリアでいかにも機械式時計らしい音色だが、決してこれみよがしなものではなく、ユーザーにだけそっと教えてくれるほどの音量に抑えられている。
「いまが、その時ですよ」
そう、時計はそっと教えてくれるのである。じつに奥ゆかしい。昨今ではミニットリピーターをいかに大きく聴かせるかに時計師たちが注力しているものの、この音色はあくまでも個人的なお知らせ。であるからして、大っぴらにする必要はないのである。エルメスらしいチャーミングさで、しびれそうだ。
それに、この文字盤の仕上げの美しさったらない。レコード溝のような同心円の仕上げ、ザラつきのある砂目仕上げ、マットな質感のサテン仕上げ。3つの技法を用いて、文字盤情報を上品に整理している。また今回、アラビア数字に用いられたフォントも特徴のあるものだ。線にスリットを設けて、おどけたニュアンスを醸しているところが印象深い。
エルメスらしさは、機械にも。レバーにはペガサスをかたどり、ブリッジ、ローターにはエルメスの“H”のモノグラムを施している。しかし驚くべきはほかにある。こんなにもポエティックな発想は、今から逆のぼること5年前、2012年のバーゼル会場において、エルメスの時計開発ディレクターと、アジェノー社の有名時計師ジャン・マルク・ヴィダレッシュ氏との何気ない会話から生まれたものなのだ。冒頭のデッサンは、その時、描かれたものである。
エルメスは時計業界に参入してすでに40年の月日が経過。そして、2006年より名門ムーブメントメーカー、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルーリエ社の25%の株式を取得し、エクスクルーシブムーブメントの開発を押し進めている。スイスのムーブメント製作技術と、フランスのエスプリとの邂逅。これが、エルメスらしさであり、唯一無二の存在感を示す根源である。
フランスの政治家、ジョルジュ・クレマンソーは言った。
「恋をしている時、一番楽しいのは恋人に会うために階段を登っているときだ」
階段をのぼるように、レトログラードでその瞬間に近づいていく。その“感情のクレッシェンド”を、エルメスの技術者たちは共有している。
さて、この時計を保有することは、単に高級時計ユーザーの一員になるのではない。エルメスのユーモアたっぷりのエスプリを、周囲に伝えるエヴァンジェリストとなる権利を掴んだということだ。
なんと幸せなことだろう。ユーザーが、自身の人生観にまで話しを広げて、饒舌に哲学を語る姿が目に浮かぶようである。
スリム ドゥ エルメス ルゥール・アンパシアント
ムーブメント|エルメス・マニュファクチュール機械式自動巻H1912ムーブメント
パワーリザーブ|約42時間
機能|時刻表示(時・分)、ルゥール・アンパシアント機能(待ちどおしい時間の演出)
ケース素材|18KPG
ケース径|40.5mm
防水|3気圧
ストラップ素材|アリゲーター
価格|407万円(税別)
エルメスジャポン
Tel.03-3569-3300
http://www.hermes.com