「エルメス H08」を腕に試載したOPENERS編集者による本音・独白|HERMÈS
WATCH & JEWELRY / FEATURES
2021年11月8日

「エルメス H08」を腕に試載したOPENERS編集者による本音・独白|HERMÈS

HERMÈS|エルメス

デジタル時代における腕時計の理想形。「エルメス H08」をHANDS ON(ハンズ・オン)

主要ブランドの多くが参加した「Watches & Wonders 2021」で、私が強く印象に残ったのがこのモデルでした。デザイン思想が圧倒的に新しく、これまでのどの文脈とも違っていると感じました。私は時計が好き。その意味では、機械式時計全盛時代のヘリテージなルックスが大好きです。でも時計の魅力は、きっとそれだけじゃない。エルメスの最新作「エルメス H08」には、“いま”という時代に徹底フォーカスした、スマートで軽やかなエッジを感じます。

Text & Edit by TSUCHIDA Takashi

何度も見返したくなるフェイスデザイン、軽快さにこだわり抜いた着け心地

たとえば身の周りにスマホがあり、机の上にはノートブックがあるように。「エルメス H08」のデザインコードには、リアルな“いま”があります。その証拠に、デジタルワードローブとの親和性は、Apple Watchにも匹敵するほど。それでいてスマートウオッチにはない“いいモノ感”が備わっています。
時計の実用という観点で、スマートウオッチに勝るものはありません(バッテリー持続の問題はともかく)。それでも私は腕にメカ時計をしたい。大切な場面では、機械式時計を身に着けていたいです。ファッションとして、自分を鼓舞するお守りとして、理由はその時々で変わりますが、まるで制服のように同じ形をしたスマートウオッチには生じにくい気持ちの高揚を、丁寧に作られたラグジュアリーウオッチには感じます。
※もちろんスマートウオッチも身につけます。機械式時計とスマートウオッチ、もともと比べるべくもないです。
20世紀の腕時計とは、常に機能を体現していました。すなわち、あらゆる形状には理由があり、それは機能実現に直結していたのです。たとえば1930年代にクッションケースが流行した背景には、耐久性・耐衝撃性を高める理由がありました。中身の機械を衝撃、塵、水滴の侵入から守るために、ケースを大型化する必要があったのです。時計がハレの日で一部の富裕層に使われるだけでなく、より多くの市民が日常で使えるようにするためです。
ところが現代の技術を持ってすれば、日常レベルの耐久性・耐衝撃性をクリアするのに特別な形状は要りません。機能は、もはやデザインを制約しない。では、「エルメス H08」の角型形状は何を意味するのでしょうか?
私はライフスタイルからデザインを逆算したのだと推察します。つまり、これまでの時計デザインとは逆方向からの発想です。
その視点から改めて新作を観察すると、まるでフランス料理のように幾重にもデザインの工夫を積み重ねた跡を読み解くことができます。単なる“角型と丸形の組みあわせ”ではなく、凹面凸面を多用した複雑さがあり、現代のデザイン技術を駆使した濃密さを感じるのです。だから見れば見るほど、ディテールに惹き込まれていきます。
ベゼルは角の取れた四角。ただし斜め45度ずつ傾斜が付いていて、ケース形状に躍動感をもたらしているのです。
その複雑さを敢えて強調せず、第一印象はシンプルでスポーティにまとめているナチュラルさが素晴らしいです。「角型がいい」「いやいや、丸型が正当だ」、そういう単純な論ではなく、一見、スポーティだが、デザイン要素が濃密で飽きさせない。そういうデザインクオリティを追求したら、この形になったのだろうと思います。
角を丸めた角型は、ソフトな印象を導きます。それは、ジェンダーの垣根を取り払った時代の空気感にも呼応します。事実、スマートウオッチに男性向け、女性向けはありませんが、そのコンセプトをラグジュアリーウオッチの世界にエルメスが導入したのだと思っています。このモデルによって。
ちなみに、ラグジュアリーメゾンのなかで、アップルウオッチにいち早く共鳴したのもエルメスです。エルメスには、かつて馬車社会からクルマ社会へと変貌を遂げた時代背景のなかで、馬具製造の技術力を生かしながら、時代のニーズ、すなわち女性用の旅バッグや装飾品を作り上げた先見性があります。その視点が「エルメス H08」のものづくりに発揮されているのだと思えば、合点がいきます。
視線を文字盤に移しましょう。目に飛び込んでくるのが、数字インデックスの特徴的なフォントです。角を取ったフォントデザインは、ジェンダーレスな印象であり、ケースフォルムとも呼応しています。エルメスでは新作を創るたびに、数字インデックスを新たにデザインしていますが、文字盤が時計の顔であるなら、数字インデックスは目鼻立ち。その個性極まるパーツを、新作ごとに新しく創り続けているとは、なんというクリエイティビティでしょうか。エルメスの代名詞「カレ」スカーフの新作をシーズンごとに創り続けてきたアティテュードとまったく同じです。この事実を、エルメスはもっと声高にアピールするべきだと私は思うのですが、そこはエルメスの奥ゆかしさと言うべきでしょう。
本来、長いものが短い。当たり前を疑ってかかる、そして既成概念を打ち壊す。守りに入ることのない、その挑戦的姿勢が美しいのだと、私は思います。皆さんはどう感じますか? © David Marchon
そして通常は最も長いはずの秒針が、最も短いという面白さ。ところがアワーインデックスの内側に秒インデックスを設けているため、秒針が指し示す時間経過も精確に読み取れます。まるで小さなエンジンでキビキビと走る欧州コンパクトカーのように、ゼンマイのトルクを無駄遣いしないスマートな設計です。秒針を回すのもパワーが必要。そのパワーを少しも無駄遣いせず、同時に計測機能も損なわせない。なるほど、考えられています。
チタニウム素材を何度も熱間鍛造して仕上げています。現代の工業製品らしい、エッジ極まる印象です。
ところで腕に載せて改めて思うのが、軽やかな装着感です。チタニウム(一部モデルではグラフェン複合素材)ケースは、SSやGOLDと比べて圧倒的に軽やかであり、手首の凝りを発生させません。朝から着けっぱなしの腕時計を一旦外して、手首をクリクリと回すようなワンシーンを生み出さないのです。このしぐさ、傍から見たらカッコ悪いですものね。
しなやかに腕にフィットするブレスレット。そのひとつひとつのコマは、“H”の形状になっています。
“ファッションは我慢”という言葉は、このアイテムとは無縁。チタニウムらしいグレイッシュなトーンは、身の周りのスマホやノートブックとも相性バツグンです。しかも、よく見るとブレスレットのコンポーネントひとつひとつの形状がエルメスの頭文字“H”にも見えてきます。チタニウムブレスレットは、加工難易度をごまかすためにも角張ったエッジに仕上げることが通常のなかで、まるで柔らかくて加工しやすいGOLDを扱うかのごとく、しなやかなラウンド面に仕上げているところに並々ならぬ誇りを感じます。
そのうえマニュファクチュールムーブメントを搭載していて、超一流メゾンとしては破格とも言えるプライスに収めているではありませんか! そのパッケージ力も含め、このアイテムの存在感は、2021年に誕生したあまたある新作のなかで、私には一番星のようにキラキラと輝いて見えています。
© Joël Von Allmen

エルメスH08

  • ムーブメント|エルメス・マニュファクチュール機械式自動巻きH1837
  • ケース、ブレスレット素材|チタン
  • ケースサイズ|39✕39mm
  • 防水|10気圧
  • 機能|4時半の位置に日付表示
  • 価格|76万8900円(税込)
ファッション編集者は、「エルメス H08」をどう捉えるか? につづく(近日公開予定)
問い合わせ先

エルメスジャポン
Tel.03-3569-3300
www.hermes.com