AUDEMARS PIGUET|オーデマ ピゲのいまと未来
AUDEMARS PIGUET|オーデマ ピゲ
ブランド戦略のキーマン、ティム・セイラー氏に訊く
オーデマ ピゲのいまと未来
1875年の創業以来、スイス時計界のトップに君臨しつづける名門時計ブランド「オーデマ ピゲ」。世界規模で拡大する高級時計人気のなかで、彼らが考える次のヴィジョンとは何か。そして今後、どのような魅力あるアイテムを私たちに届けてくれるのか。東京・銀座にあたらしく誕生したブティックのオープンに合わせ来日した、同社のチーフ・マーケティング・オフィサーのティム・セイラー氏に新ブティックのコンセプト、さらに「オーデマ ピゲ」のいまと未来を聞いた。
Text by SHIBUYA YasuhitoPhotographs by ABE Masaya
スポーツモデルからクラシックモデルまで
去る5月16日、まったく新しいコンセプトで、銀座の直営ブティックを移転リニューアルオープンした「オーデマ ピゲ」。複雑時計でスイス時計界のトップに君臨し、2012年に誕生40周年を迎えたラグジュアリースポーツウォッチの元祖にして傑作『ロイヤル オーク』は、時計に魅せられた多くの人々を、いまなお虜にする。1875年創業のこの名門への注目はここ数年、男女を問わずさらに高まるばかりだ。
全世界でさらに拡大する高級時計人気の中、「オーデマ ピゲ」はいま、何を考えているのか。これからどんな魅力的な製品を私たちに届けてくれるのか。この機会に来日した、製品開発からマーケティング戦略、さらにミュージアムの収蔵品管理までを担当するチーフ・マーケティング・オフィサーのティム・セイラー氏に、新ブティックのコンセプト、さらに「オーデマ ピゲ」のいまと未来を聞いた。
ル・ブラッシュの空気を銀座でも
「この銀座ブティックは世界で展開する、新コンセプトを採り入れた5番目の直営ブティックです。そのコンセプトとは、1875年の創業以来ずっと時計作りを続けてきたジュウ渓谷のル・ブラッシュ。時計作りを育んだその静謐な空間、マニュファクチュールの雰囲気を感じて頂くことにあります。
そのためにフロアにスイスから運んだ石材を床に、エントランスのハンドルにオーク材を使うなど、内装の素材にもこだわっています。このブティックに足を踏み入れたお客様がたとえ一瞬でもル・ブラッシュの空気を感じて頂けたらうれしい限りです」
その言葉通り、ナチュラルカラーを基調にした156平米のブティックの中は、ここが銀座であることを忘れてしまう、静かでゆっくりした時間が流れている。直営ブティックだけに、商品の品揃えが充実している上に、過去の歴史的な製品も鑑賞することができる。
「オーデマ ピゲは歴史のあるオート・オルロジュリーのメゾンですが、良き伝統を守る一方で、常に時代の先を行く挑戦的なブランドでもあります。そんな、モダンとクラシックの緊張関係も、オーデマ ピゲというブランドの本質であり原動力です。このブティックのデザインも、クラシックな要素とコンテンポラリーな要素から構成されています」
AUDEMARS PIGUET|オーデマ ピゲ
ブランド戦略のキーマン、ティム・セイラー氏に訊く
オーデマ ピゲのいまと未来(2)
今後はクラシックにもフォーカス
時計愛好家にとっては、いつの時代も絶対に目が話せない「オーデマ ピゲ」。だが2012年の『ロイヤル オーク』40周年記念モデル以降は、どちらかといえばスポーツモデルのコレクションが充実し、その一方で伝統的なクラシックウォッチ、コンプリケーションウォッチの新作が少なかった印象がある。
クラシックなモデルが時計界のメインストリームになっている状況の中で、『エドワールピゲ』や『ジュールオーデマ』など、クラシックなニューモデルへの期待も高まっているが、今後期待してもいいのだろうか。
「確かにここ数年は『ロイヤル オーク』のアニバーサリーイヤーでもあり、スポーツモデルにフォーカスがあたっていたことは事実です。しかし『ロイヤル オーク』もすでにクラシカルなアイコンですし、クラシックなモデルやコンプリケーションモデルを望む声を、私たちはもちろんしっかりと理解しています。
今後は丸型の『ジュールオーデマ』や楕円形の『ミレネリー』で、クラシックなテイストのコレクションにも力を入れるつもりです」
数は少なくても、良さが理解される新作を
ところで、例年S.I.H.H.で発表される「オーデマ ピゲ」の新作の数は、名門時計メゾンの中では決して多い方ではない。これまで高級時計市場が拡大を続けてきたこともあり、時計メゾンの間で新作の数を競う状況が続いてきた。だが「オーデマ ピゲ」は、この状況を変えていきたいとティム・セイラー氏は語る。
「実は私たちは2013年から、新作の開発ペースを意図的にダウンさせています。なぜならこれまではお客様に新作の情報がしっかりお届けしたり、お客様にその魅力をご理解して頂く前に、次の新作が出てしまう。そんな状況が生まれていたからです。今後は、完全な新作は年に1~2作程度に留め、お客様にその魅力をきちんとご説明してご理解頂ける、そんな体制を作りたいと考えています。
とはいえ、香港でこの秋に開催される「ウォッチーズ&ワンダーズ」では画期的なハイコンプリケーションをお披露目する予定ですし、来年のS.I.H.H.でも注目をあびる新作をご覧に入れます。日本の皆様には、これからの「オーデマ ピゲ」に、より一層の関心とご期待を持って頂けたら幸いです」
Tim Sayler|ティム・セイラー
1972年1月3日ドイツ・ミュンヘン生まれ。1998年にジュネーブのプロクター&ギャンブルでキャリアをスタート。2004年には、プロクター&ギャンブル プレステージ部門でマーケティング責任者となりヒューゴ・ボスやダンヒルの香水を担当する。そして2011年6月、オーデマ ピゲのチーフ・マーケティング・オフィサーに就任。50人ものスタッフを抱え、商品開発、マーケティング戦略、コミュニケーション、ミュージアムの収蔵品管理に関わる。