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2023年12月26日
豊かな離島、壱岐島で食と温泉を堪能する|TRAVEL
TRAVEL|壱岐島
ミシュラン「5パビリオンの旅館」に加え、100軒ほどしかない飲食店で計5軒がミシュラン掲載!
漁業と農業とがともに豊かな島。それが壱岐島だ。海囲まれ、新鮮な魚介類はもちろん、農耕も盛んで、特にお米は離島としてはトップクラスの自給率と収穫量なのだそうだ。そんな壱岐島だからこそだろう、レベルの高い飲食店も多いのだ。バーやスナックなどの食事を提供しない飲食店は島内に100軒あるかないか、だとそうだが、そこに計6軒が「ミシュランガイド」と「ミシュランガイド福岡•長崎•佐賀2019」に掲載されているのだ。壱岐島のグルメと、番外編的に一風変わった壱岐島移住者を訪ねたのでご紹介したい!
Text by KITAHARA Toru
移住者も多く暮らしやすさを実感
壱岐島の概要として、コンパクトな島はいかに豊かであり、歴史があり、土壌も豊かな島であることはお伝えした。この島は当たり前のことながら、四方を海に囲まれている。それゆえに漁業は島の重要な産業であることは現在でも変わりない。かつては鯨漁が栄え、島そのものが繁栄したといわれ、玄界灘で採れる烏賊は勝本の港に水揚げされ、日本の烏賊の相場の基準にもなったといわれる。島だけでなく、日本に向けてその漁獲量は影響していたわけだ。現在でも新鮮な魚は島の各所で食べられる。後述するが、これもまた奇跡の島を生んだのだ。
余談だが、この島の川にでは手長海老、もずく蟹が獲れ、鰻も獲れると聞いた。それも驚きだった。
そして、島は農産物も豊富な収穫がある。これは離島としては特異なことである。多くの離島は島への食糧供給がなければ、1週間持つかどうかというところ。台風などで、多くの離島がスーパーマーケットやコンビニエンスストアから食料がなくなったというニュースは珍しくない。しかし、壱岐島は食糧供給がストップしても、島内の自給率が100%ともいわれるほどで(正確ではありませんが、かなり高い自給率であるとのこと)、その豊かさがわかるというものだ。
島には農業での害獣、鹿、猪がいない(周囲の小島にはいて時々海を渡ってくるといわれる)、もぐらも見たことがない、と未来派カゾク農園の松本和文さんから聞いた。離島がゆえに害虫も多くはなく、農業にとって、理想的な島なのである。
「未来派カゾク農園」の松本さんから農業に適した島の話を伺ったので、ここで「未来派カゾク農園」の松本和文さん、幸子さんご夫婦とその取り組みに関して少々。
おふたりは共に壱岐島生まれ。中学の同級生だった。そんなふたりが「自然」というかけがえのない財産であり、資源と取り組むことにしたわけだ。自分たちはもちろん、子どもたちに健康的なものを食べてもらいたいという想いから、和文さんは美容師をしながら、奥様とふたりで無農薬、無化学肥料、除草剤も使わないやり方で農業を始めた。「壱岐島をオーガニックの島に!」との思いは高齢化や農業離れから増える休耕地を活用。開墾から種まき、収穫までを「カゾク」と呼ぶ野菜づくりの喜びを共有できる人たちと行なっている。
「最初はにんにくから始めました。ただ、種を見に行くと中国産ばかりでした。そこで探して食べ比べて見つけたのが愛媛の在来種でした。島から出る生ごみ、アイランドブルワリーさんの麦の搾りかすや真珠貝の殻など、いままで捨てられていたものを島内で再利用する意味でも使っています。十分に寝かせて熟成させることで良い堆肥になります。」
今では少しずつ栽培の品種を増やしている。壱岐島のオーガニック計画は魅力的。コンパクトな島だから可能な新たな循環型社会が見えてくる。
お人柄もとても穏やかで、とても真面目な壱岐島らしいおふたりだった。これからの「食」を考える姿勢はとても真剣で、試行錯誤を繰り返している姿を見ているといつか壱岐島全体がオーガニックになる気さえしてくる。
食べるものを買わなくても生活できる島⁉︎
米に関しては自給率100%を超えて島外にも出しているといわれる壱岐島だが(正確な数字は確認できませんでした)、この島の豊かさはそれ以上なのだと感じられた。というのは島内では昔から物々交換が盛んであることだ。勝本町にはいまでも朝市があるのだが、その発祥は魚と農作物を島の人たちが交換していたことに由来するといわれている。そして、それはいまでも続いている。島の住人に話を伺っていると「食べるものを買ったことがない」という言葉を何度も耳にした。ある人は烏賊釣りが好きなのだそうだが、朝方烏賊を釣ってきて、自分で食べる分以上をご近所に配ると食べきれないほどの野菜やお米をいただいているという。その逆もあり、採れた野菜を魚釣りが好きな人のところに持っていくと魚をもらってくるともいわれた。
壱岐島では生活を営むための食糧はほぼほぼ島内で賄えるというわけだ。自給率も日本有数の地であり、地産地消の典型的な島と言っても過言ではない。そんな島だからこそなのだろうか、現状、島内にはわずか100軒とも70軒ともいわれるほどしか飲食店は残っておわず、(島民は2万5000人前後)そこに「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版」に5軒が紹介され、さらには「ミシュランガイド」で栄えある「5パビリオンの旅館」があるというのだ。
わずか100軒に満たないと言われる飲食店(スナック、カラオケバーなどを除く)の中で6軒がミシュランで紹介される島だけに、紹介されていないお店のレベルも全体に高い。ふらりと入った店が普通にコストパフォーマンスの良い店ということだ。
「壱岐リトリート 海里村上 by 温故知新」はすでに壱岐島レポートで書かせていただいたので、今回は島内に食事がメインのお店が約100軒あるかないかといわれる飲食店のうち、「ミシュランガイド福岡•長崎•佐賀2019」に掲載された飲食店はなんと5軒! これは単なる偶然ではなく、新鮮な魚と美味しい米と野菜、そして壱岐牛といった素材の良さがあり、島全体のレベルが高いからに他ならない。まずは選ばれし5軒を紹介しながら、壱岐島がハイレベルな“食”の宝庫だということを感じてほしい。
芦辺港の目の前にある、 牧場直結の壱岐牛のお店「うめしま」
朝10時20分の博多港発のジェットフォイルに乗ると11時35分に芦辺港に着く。ちょうどお昼どきということもあり、「うめしま」はおすすめだ。この店は精肉店も併設されていて、その肉のレベルの高さは想像がつく。しかし、驚いたのは梅嶋牧場をご兄弟が経営されていて、レベルの高い壱岐牛が届くこと。つまり産地直結なのだ。
お昼はかなりコストパフォーマンスの良いものが揃っていた。今回いただいたのは「うめしまランチ」。これは壱岐市との共同企画メニューで、壱岐牛のスライス肉(いわゆる切り落とし)を野菜と鉄板焼きにしたものにご飯とお味噌汁とサラダと香物がつくシンプルな構成。だが、肉の柔らかさと旨味に肉の鮮度と肉そのもののレベルがわかるのだ。とにかく美味い。「特選カルビ定食」はその場で網焼きのスタイルで定食がいただけるとリーズナブルで人気も高い。芦辺でまずは壱岐の味。壱岐牛を堪能する。
毎日予約でいっぱいで、 取材日程中は入れず、涙の「まる辰」
なんとも悔しい話なのだが、この「まる辰」に4泊中、3夜チャレンジしてみたのだが、すべて予約で満席という状況。悔しい限りだ。ということで、数人の声を聞くことで我慢してほしい。というより、普段の平日に毎日満席というだけでそのレベルの高さが窺えるというものだ。
「壱岐に来たら、烏賊は食べていただきたい。まる辰さんは烏賊が専門の店、それ以外のお魚も申し分ないけれど、まずは烏賊を食べてほしいなぁ」「天然鯛の鯛茶漬けもまる辰でしか食べられない味。お刺身でお酒を飲んで、好きな肴と好きな酒で楽しんだら、鯛茶漬けで締めるのが良いと思いますよ」と何を食べても美味しいという話。とにかく、味わえなかったことが残念でならない。
飲んで泊まれる居酒屋「ふうりん」。 店主の釣果がその日のメニューを決める⁉︎
今回のミシュランの5軒の中で、最も個性的だったのが、この「ふうりん」かもしれない。店主の山下輝昭さんの人柄も良く、なんとも和む。山下さんは子どものころから釣りが好きで、実は店の隣ではお父さんが壱岐牛の飲食店をされているのだが、「お前には継がせない」と言われ、好きな魚でお店を開業したというのだ。
まずは刺身の盛り合わせ。この日の釣果は鯵。歯応えがあり、旨味が噛むたびに口に広がる美味さ。ヨコワ(クロマグロの若いころ)や鯛なども味わい深い。そのままペンションで寝られるというのも、取材で車を運転する身にとってはかなりありがたい店だ。
「みうらや」オリジナルは 壱岐を感じる独創的な味
「みうらや」は壱岐で食べたいものが大体何でも揃っているお店といった印象だ。壱岐を味わうにはもってこいの店。その中でも「うに」は人気のメニュー。それゆえに「うにのシーズンは無休にて営業」と特筆するほど。何でもあるメニューを簡単に紹介すると「壱岐牛のサーロインステーキ」「あわびのステーキ」郷土料理の「ひきとおし鍋」などマルチにあるのだ。筆者が気になったメニューは「磯飯丼」だ。うにとサザエの炊き込みご飯。お昼にいただいたのだが、丼がテーブルに届き、蓋を開けると広がる磯の香り、それだけで満足だったが、食べても納得。うに飯の甘い食べ応えにコリコリとしたサザエがアクセントになって、あっという間に完食。
日本でもトップレベルのピザ、 壱岐の芦辺に佇む「Potto」
ミシュラン紹介店のトリを飾るのは「Pizzeria Potto」。夜に伺ったのだが、芦辺港の真っ暗な道にポツンと光る店があった。平山健人さんはお父さんの洋風居酒屋を継いで、ピザ屋へと転身させた。ご自身はどこかで修行したわけではなく、独学だとのこと。その独学ゆえか、唯一無二の味を展開している。まさにここでしか味わえないものだ。その味はただひたすらに美味い! としか言いようがない。
人気のマルゲリータを注文する。イタリア産の小麦粉でふわふわに丸めたピザ生地は手の下でみるみるうちに薄く丸くなっていく。そこに自家製のトマトソースにバジルとモッツァレラチーズをのせ、イタリア製のピザ窯で手早く火加減を見ながら、ピザを回して均等に火を当てる。このピザ生地は薄く、軽いのだけれど、きちんと味と歯応えがある。まるで飲んでいるかのように口にするする入る。また来たいお店だし、こんな店が家の近くにあったら、と思う店だ。
もう3店覗いてきたのでご紹介!
島の情報に詳しい店主と話せば、 壱岐島の旅がもっと楽しくなる
最初はカフェ。「Café&雑貨K‘s」は壱岐島推しの横山智郷さん姉妹が営むこじまんりとしたカフェ。雑貨屋さんも併設され、と思いきや、お母さまが雑貨屋をされていて、それを引き継ぎ、自分のやりたかったカフェを拡大したとのこと。夏は冷たい氷ものが充実。島推しの横山さんだけに、島に着いたらまずはK’sに寄って、島の案内をしていただくと充実した島ライフが送れること間違いなし!
もう一軒は「角丸」。しっとりとした店構えだが、中は明るくてひとりでも居心地良く飲める店。お魚を中心に、と思いきやお肉料理もあって、魚料理と肉料理が拮抗したメニュー構成。和食からイタリアンまで実にさまざまな料理を大将が創作する。メニューが豊富なので、ここ一軒で壱岐島の料理が堪能できる、という印象だ。大将と奥さまが気さくに話しかけてくれて、島の楽しみ方を教えてもらえた。世間話も好きなご様子で、充実した時間を美味しいものを食べながら過ごせる空間だ。
もう一軒は「かおる」。ここは島の人がなるべく教えたくないというディープ島ローカルな居酒屋。会う人ごとに「「かおる」に行きました」というと「これまたディープな」とか「島の人はみんな知っている店」という感じ。島の人に愛されている店と言って過言ではない。
ある人は教えたくない店ナンバーワンとも。この店、島外からの人が行けば誰でもきっとストレンジャーになれるし、何よりも美味しくて、島の人の言動を見ているだけでも島のまた別の面と日常が見えてくる、そんな店だ。
食べて良し、宿泊してもっと良し、 「島宿糸&Café いと」は壱岐島の新星だ
「島宿糸」という宿とカフェとレストラン。古民家をリノベーションしたなんとも贅沢な空間だ。経営しているのは増田宇(ひさし)さん、真澄さんご夫妻。宇さんはシェフ、真澄さんはパティシエール。料理からデザートまでのフルコースは堪能という言葉しか見つからない。島に上がった魚や採れた野菜、ジビエなど壱岐の食材を中心に素材の味と風味を活かしたものだ。宿は3部屋あり、中でも築60年の古民家の天井の太い梁がある2階の大部屋は贅沢な空間だ。
おふたりは壱岐島移住者。宇さんが壱岐島を訪れて、ここへの移住を決めたそうだ。その間には海外も視野に入れていたそうなので、壱岐島にいかに魅力があったか、と思う。おふたりのお人柄も優しく、柔らかな印象。料理をつくる宇さんとお皿の準備と盛り付けをフォローする真澄さんの見事なコンビネーションも絶品! この流れが美味しいお酒と食事をさらにおいしくさせる。いつしか時間も忘れ、ただただ穏やかな気分になれる。壱岐島取材最後の夜だったが、最高のディナーだった。これを食べるだけでも壱岐島に行く価値があるというものだ。
写真は筆者が訪れたときのコースメニュー。
最後に面白い方と出会ったので、紹介したい。その方は本田広昭さん。以前は東京で不動産関係の会社の役員などを歴任し、その後会社設立、代表取締役に。平成28年には「紺綬褒章」を授与された。そんな経歴の華々しさもさることながら、壱岐島での生活はなんとトレーラーハウス! それも特注でアメリカにオーダー、横浜からさらに船便で壱岐島へと辿り着いたという。
ご家族は東京に残し、単身移住されている。OPENERS読者としても、トレーラーハウスの生活、憧れのひとつではないだろうか。とはいえ、大変な作業もあったようで、壱岐島までの長い旅(トレーラーハウスのみ)に加え、浄化槽を埋めたり、電気水道を通したり、車体自体を固定させたり、と思っている以上に作業もお金もかかるというわけだ。
「Resort Officeのロゴ「粋」という文字を書いてくれた、女流書家で、北九州で100年続くお醤油屋さんの4代目の社長の宇佐美志都(うさみしづ)さんが『壱岐って綺麗ですごく良いところだから、一度遊びに来てください』といわれ、来てみたらすごく良いところで、ちょうど千葉や静岡への移住も考えていたので、迷いもなくここにしよう!とすぐに決めました」
とはいえ、トレーラーハウスである。移住のスタイルとしてはかなりご機嫌ではないだろうか? 2匹の愛猫と2匹の保護猫と暮らし、野菜も育てて、海を眺めて暮らす日々、まさに悠々自適。羨ましい限りだ。