Isokenkäisten Klubiの湖畔の“ととのい”スペース。手前にはサウナ小屋がある。波紋一つ起こらない静寂さを心ゆくまで堪能できることが、この地を訪れる最大の理由。
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TRAVEL
2025年11月20日
すべての行為がマインドフルネス。“ととのい”の国、フィンランドへ
Isokenkäisten Klubi──“ビッグシューズクラブ”の物語
ヘルシンキからフライトで約1時間45分。ヨーロッパ最後の手つかずの大自然、ルカ-クーサモへ。フィンランド有数のスキーリゾートとして知られるこの地は、世界で最もきれいな空気を誇る。
そのクーサモの東端、自然に囲まれた場所にIsokenkäisten Klubi(イソケンカイステン・クルビ)はある。「ビッグシューズクラブ」という名称の由来を、姉妹で経営する2世代目のオーナーが教えてくれた。
「両親が1990年代初頭にここで事業を始めました。最初のお客様は、フィンランドの政治家や大臣、大企業の経営者など、とても重要な人々でした。フィンランドでは、そのような重要な人物を『大きな靴を履く人々』と呼びます。これが私たちの名前の由来です」
屋内施設「コタ」の薪キッチンを囲んで、地元の特産を使ったランチが始まる。コイワシ、野生キノコスープ、デザートのケユハット・リタリット(フレンチトースト)のローカルフードだ。「私たちは『ワイルドフード・クーサモ・ラップランド』というブランドを持っています。自然から多くの食材を得ることができます。きのこ、トナカイの肉、魚、多種類のベリー、ハーブです」
スモークサウナという“究極のととのい”
イソケンカイステン・クルビのスモークサウナは、フィンランドサウナ協会から「本格的フィンランドサウナ体験認定証」を取得した、フィンランドで最高のサウナの一つである。スモークサウナは最も古いタイプのサウナで、温めるのに6時間かかる。白樺の木を使用する薪で大量の石を加熱するからだ。
「一度火を起こすと、加熱している間は煙が立ち込めます。そして準備ができた時点で、すべての薪が燃え尽きています。そこでサウナ小屋の窓を開けて、煙を外に逃がします」
石の総量が1000キロ以上もあるため、長時間温かさを保つことができる。その圧倒的な火力は、体験するとよく分かる。ぐいぐいと蒸気の圧を高められるのだ。他のサウナでは、こうはいかない。
加えて、室内に充満する香りで陶酔しそうである。「薪で温める方が、空気が柔らかい」とフィンランド人はよく言うが、白樺の香りに満たされる体験は、もはや幸せに包まれる気持ちだ。そしてサウナストーブの上の熱くなった石にまた水をかける。すると「ジュワー」という音と共に激烈な熱さの蒸気がたち、部屋中が温まる。そこにヴィヒタの新鮮なアロマの香りが覆いかぶさる。
「ヴィヒタが新鮮な時にはせっけんのように使うこともできます。昔の人々はヴィヒタで体を洗っていました」。新鮮な葉から液体が出て、それがせっけんのような働きをするというのだ。
Isokenkäisten Klubi
■ 宿泊料金(2名1室)
サマーシーズン(夏)
2名1室ルーム:98~117€
湖畔オーロラハット:279€~
ウィンターシーズン(冬)
2名1室ルーム:130~144€
湖畔オーロラハット:313~364€
※いずれも朝食込み
※夕食追加:+69€/名
■ サウナ料金
スモークサウナ(事前予約日限定)
+74€/名
Isokenkaistenklubi(日本語サイト)
House of Northern Senses──地元暮らしを体験する
ヴィルックラ村。海抜330メートル、フィンランドで最も標高の高い村だ。1954年には100人が住んでいたが、現在は16人。湖畔に建つユニークなマナーハウス、House of Northern Sensesが、この村の物語を今に伝えている。
「もともとは学校として建てられたものです」と、スタッフ。学校が閉校してから、1974年にフィンランドの国営航空会社フィンエアーがこの建物を購入。約50年間、ゲストハウスとして使用されてきた。そして現オーナーが引き継ぎ、2022年5月にブティックホテルとして生まれ変わった。
館内はフィンエアー時代のデザインが残り、グラスや食器にはフィンエアーと書かれているものもある。ビジネスクラスで実際に使用されていた食器も現役だ。建物内には、フィンランドの著名なデザイナー、アルヴァ・アアルトの作品も配置されている。
このホテルには3つのサウナがある。湖のほとりに2つ、建物内の地下に1つ。
「湖は綺麗な砂底で、そこに立ってリラックスしながら美しい鳥たちを眺めることができます。水は飲料水レベルの清水です」
湖畔のひとつ目は伝統的な薪で温める木製サウナ。フィンランド人が湖畔に持っているサマーハウスのような、典型的なサウナだ。ふたつ目はスモークサウナ。伝統的なサウナだが、設えはスタイリッシュにアレンジしている。3つ目は建物内の地下にあるモダンなスパスタイルのサウナで、リラクゼーションルームと暖炉、スイミングプールがある。伝統とモダンが交差するスタイリッシュ空間。北欧のプレミアムな空間を楽しむなら、このブティックホテルが間違いない。
地元食材を使った手作りディナー
夕食は、地元食材を使ったハンドメイドディナーをダイニングホールで堪能する。この夜のサプライズは、夏の風物詩ザリガニだった。
「ザリガニのロールスロイスと言えるものです。残念ながらもうフィンランド南部には存在しません。昨日小さな川で釣られ、昨日調理されたものです。本当に地元の珍味なのです」
ザリガニを食べるには慣わしがある。トーストにバターとディルをのせ、ザリガニをのせる。そして、スナップス(蒸留酒)を飲んで、スウェーデン語の歌を歌う。「Helan går, sjung hopp faderallan lallan lej」—「全部行け、すべてが進む」という意味だ。
地元の人々と出会い、地元のストーリーを聞き、ヴィルックラ村を散策する。それは、地元暮らしを体験するということだ。高価なツアーに参加する必要はない。
House of Northern Senses
■ シーズン区分
クリスマス&ニューイヤーシーズン:12月17日~1月7日
ウィンターホリデーシーズン:1月8日~3月31日
サマーシーズン:4月1日~12月16日
■ 宿泊料金(2名1室利用・コージーダブルルームの場合)
朝食付き(1泊1名あたり)
クリスマス&ニューイヤー:5万2017円
ウィンターホリデー:4万8202円
サマーホリデー:3万2077円
朝食+3コースディナー付き(1泊1名あたり)
クリスマス&ニューイヤー:6万5714円
ウィンターホリデー:6万1033円
サマーホリデー:4万5775円
■ サウナ料金(通年同一料金)
・スパスタイルのモダンサウナ
リラクゼーションラウンジ、暖炉、屋内プールエリア付き
個人利用:5375円/名(2時間、アメニティ込)
貸切利用:5万3751円(3時間、最大10名)
・湖畔の伝統的薪サウナ
湖での通年水泳可能
個人利用:5375円/名(2時間、アメニティ込)
貸切利用:5万3751円(3時間、最大10名)
・湖畔の本格フィンランド式スモークサウナ
湖での通年水泳可能
貸切利用:14万4954円(3時間、アメニティ込)
グループ利用(8名以上):1万8119円/名(3時間、アメニティ込)
※上記料金は2026年3月31日まで有効
House of Northern Senses(日本語表示選択可能)
Wild Outのバードハウス作りワークショップ
「私たちは『再生可能観光』に取り組んでいます」と、テッサが教えてくれた。Wild Outは、北欧や地元の自然を大切にしながら体験できる、丁寧に設計されたアウトドアアドベンチャーだ。「私たちの目標は、ここを訪れるゲストが、来た時よりも良い状態でその場所を後にすることです」
テッサは、ルカに住んで7年。パートナーのトマスは15年の経験を持つプロのシェフだ。2人は4年前にこのビジネスを始めたという。最大8名までの少人数グループで、自然や地域社会にプラスの影響を与えつつ、忘れられない思い出を作る。
なぜフィンランドで鳥の巣箱が必要なのか
フィンランドのように森がいたるところにある国で、なぜ巣箱を作る必要があるのか。「問題は森が若すぎることです」とテッサ。「木が十分に古くないと、キツツキが営巣を行いません。キツツキの自然な習性として、メスを印象づけるために巣を作り、その後その巣を離れて他の鳥が使えるようにします。このキツツキの巣作りが欠けると、ヒメシジュウカラ、ヒタキ、コガラなど他の種に影響を与えます」
フィンランドの林業が盛んな結果、すべての木が同じ年齢になってしまう。通常、木が50〜60年になると、伐採されてしまうのだ。「周囲一体、森林の量は非常に大きいですが、古い森林が十分ではありません。強い自然、強い生態系を持つためには、多様性が必要です」
つまり巣箱作りは、これらの鳥を助ける応急処置のようなものだ。
リサイクル木材で作る巣箱
使用している板は地元の人々から提供されたリサイクル木材だ。「森を伐採し、鳥から木を奪ってこのようなものを作ることは意味がありません」。古い木、リサイクル木材を使う。地元の中古ショップで購入した手工具を使って小さな鳥のための巣箱を作る。
そして巣箱ができたら、森に掛けに行く。「入口の穴が東向きになるようにしてください。そうすることで、日中に巣箱の中が過度に暑くなることを避けられます」とテッサ。地面から約1.5メートルの高さ、開けた場所に設置した。
重要なのは、参加者を単に巣箱作りの労働力として使うのではないということだ。
「小さなタグを渡し、そこに名前を書いてもらい、番号も記入します。巣箱を掛けるとき、座標を取ってウェブサイトの地図に記録します。そうすることで、いつでも誰(鳥たち)がそこにいるのか、何が起こっているのかを確認できます」
取材チーム4名の共同作業で完成したバードハウス。入居者が入ったかどうかは、このサイトで報告される。
https://wildout.fi/birdhouse-map/?markerid=385
次の参加者と一緒に、巣箱をチェックし、清掃や保守を行う。一度だけでなく、設置した巣箱は何年にもわたって使用されるのだ。その様子が、自宅からネットで確認できるのがとても素敵である。今のところ、フィードバックは鳥が入居したかどうかの情報のみだが、テッサ曰く、将来的にはそれぞれの巣箱にカメラを取り付けて、その様子を中継したいと構想を話してくれた。
Wild Out
Pohjolan Pirtti──田舎の暮らしに触れる
Vuotunki(ヴオトゥンギ)村の牧場、pohjolanpirtti(ポホヨラン・ピルッティ)。「この家は家族が300年以上この場所で暮らしています。私たちは11代目です」とタニアが教えてくれた。プッラと呼ばれるフィンランドの甘いペストリー作りを体験する。シナモンと砂糖を生地に広げ、伸ばしてねじって、きれいな結び目にする。パンを焼いている間に、サウナの見学へ。
サウナストーンに宿る先祖の魂
タニアは伝統的なサウナヒーラーだ。「フィンランドサウナ文化は氷河期後から発達した約1万年の伝統を持ちます。2年前にユネスコ世界遺産に登録されました」とタニア。キリスト教がスウェーデンによってもたらされる前、12〜13世紀以前、フィンランド人は独自の宗教を持っていた。
「自然と先祖の霊を崇拝していました。森や木への敬意はそこから来ています」
そして、サウナストーンには特別な意味があった。
「昔、サウナを作るとき、実際に石のいくつかに先祖の名前をつけました。先祖の霊を崇拝していたからです」とタニア。サウナに行くとき、祖母や祖父を呼び、ロウリュによって彼らの記憶を称えることができた。「新しいサウナを作るとき、ストーブの石に亡くなった家族の名前をつけて、サウナにいる間に彼らを称え、尊敬し、つながることができました」。
ロウリュは、単なる蒸気ではない。「ロウリュは私たちの言語で最も古い言葉の一つで、語根は魂を意味し、ロウリュは生命の蒸気を意味します。生命の蒸気なしにサウナに入ることはできません。それほどロウリュは何百年、何千年もの間、私の先祖にとって重要でした」。
サウナストーブの上の熱くなった石に水をかけるとき、それは先祖と対話する行為だった。石に名前をつけられた祖母や祖父が、ロウリュとともに立ち上がる。
治癒の力を持つサウナ
もし誰かの具合が悪く、それを治すために非常に強力なロウリュが必要な場合の古いトリックがある。「川の急流、水が本当に速く流れているところに行き、その川から石を取ってきます。そうすると地球と水の力をロウリュに込めることができます」。
そして雷に打たれた木を見つける必要がある。「スカンジナビアには雷神トールがいて、雷が落ちるときトールが怒っていると考えられていました。トールに触れられた木でサウナを加熱すると、非常に強力なロウリュが得られます」。雷に打たれた木でサウナを加熱すれば、ほとんど何でも治すことができる。トールがサウナにいるからだ。
「フィンランドの国民叙事詩『カレワラ』には、サウナ関連の詩が多く含まれています。神々にサウナに来て健康と平安を与えてくれるよう祈る呪文もあります」。サウナは現代医学が利用できるようになる前の何世紀もの間、ヒーラーが病気を治療し予防する場所だった。
サウナは人生の節目の場所
「私の夫の先祖が300年前にここに来たとき、最初に建てたのはサウナでした」とタニア。フィンランド人には、新しい場所に移住するとき、まずサウナを建てるという伝統がある。
「手つかずの新しい場所に来ると、木々、すべてに魂があります。自然の精霊があなたの周りにいます。最初に建てた建物が、その地域の最も強力な精霊をその建物に引き寄せます。ヒーラーはサウナで人々を治療するとき、その力を必要としました」






