プロフェッショナルと巡る森~岐阜・飛騨地方の自然とアクティビティ~Chapter 1
LOUNGE / TRAVEL
2015年4月23日

プロフェッショナルと巡る森~岐阜・飛騨地方の自然とアクティビティ~Chapter 1

特集|プロフェッショナルと巡る森~岐阜・飛騨地方~

Chapter 1:白川郷と飛騨高山

森を知る意味(1)

岐阜県を大きく二分すれば、南部の美濃、北部の飛騨となる。その飛騨エリアは北アルプス、中央アルプス、そして西は白山連峰に抱かれ、広大な森林を擁する自然に囲まれている。そんな自然に触れるはじめの一歩としてうってつけなのが、白川郷でのリゾート・アクティビティを楽しめる「トヨタ白川郷自然學校」と、高山市で1974年より自然との共生をテーマに活動を続けている「オークヴィレッジ」である。

Photographs by JAMANDFIXText by KASE Tomoshige(OPENERS)

森への一歩を踏み出す

1995年にユネスコの世界遺産に登録された「白川郷」は、数百年の時を刻む合掌造りの家屋を中心に、村の暮らしを育む大自然と、現代の生活が見事に調和している“生きた文化財”といえるだろう。白川郷は岐阜県北西部の最奥、富山県及び石川県と境を接し、2012年の現在でも、首都圏からは決してアクセスしやすい地域ではない。その不便さが、「いつか行ってみたい」という憧憬と表裏一体となっている。

名古屋から2時間余り、JR高山駅から車で40分の行程で白川郷に到着する。つまるところ白川郷とは、歩いて回っても決して無理があるわけではない広さのひとつの村であり、そこは観光地としての役割を果たす土産物屋、民宿の連なりのほかには、人々の日々の暮らしがそのまま流れている。観光客然とした顔つきで歩いているうちに、いつしかこの村の風景に溶け込んでしまうという、他の観光地が備えていない独特の空気がある。しかしながら、白川郷の「村」としての魅力に言及するのは、また別の機会に譲ろうと思う。

岐阜県白川村・馬狩地区。岐阜のなかでも有数の豪雪地帯で、その生活の厳しさから住民たちが集団離村した歴史がある。1973年、トヨタ自動車によって購入されたこの土地に、2005年にオープンしたのが「トヨタ白川郷自然學校」だ。学校と名はつくが基本的には宿泊施設である。木材を贅沢に使用した部屋、天然温泉、自然の恵みを生かしたフレンチなど、いわゆるリゾート施設に引けをとらない設備とサービスを備えている。

それでいて学校という名称には実を伴う意味がある。インタープリーターと呼ばれる案内人、森のプロフェッショナルによるエコツアーこそ、この「トヨタ白川郷自然學校」の最大の魅力であり、われわれ都市に暮らす人々が受ける“授業”と言えるのではないだろうか。

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1階のロビーの裏口から外に出ると、もうそこからネイチャーツアーは始まる。森のプロ、インタープリーターの黒坂久実さんによるガイドである。施設に隣接する、1周約500メートルの通称「森の小径」を案内してくれるという。

遊歩道は木道になっており、非常に歩きやすい。ゆっくりと歩きながら、周囲の植物を紹介してくれる。足元のツリフネソウから見上げた先のサワグルミまで。さまざまな動物たちのぬいぐるみなどを用いて、木の実類が森の動物たちの食料としてどのように利用されているのかを説明してくれる。

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また途中の広場ではペレット(木屑を固めた小指の先ほどの固形物)が手渡され、“土の中に隠すゲーム”がはじまる。タネを明かせば、リスと木の実、森との関係を説明するためのものである。こうして森の中を散策し、約1時間のガイドが終了する。足元は歩きやすく、行程は短いので、子ども連れにもお薦めのプランである。

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もちろんもっと自然に深くかかわりたい向きには、2時間のコースやナイトハイク(夜の森歩き)など、さまざまなプログラムが用意されている。そして宿に帰れば、清潔でモダンなベッドルームがあり、天然の温泉があり、洗練された食事が待っている。都会人が自然に対する最初の一歩を踏み出すには、うってつけの施設といえよう。

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「トヨタ白川郷自然學校」の運営は、白川村、環境関連NGO、トヨタ自動車の三者からなるNPO法人、「白川郷自然共生フォーラム」が担っている。自然と人間。この二者をつなぎ、共生を考えること──自然を楽しむためのアクティビティの先にあるものが、少し見えてきたような気がした。

特集|プロフェッショナルと巡る森~岐阜・飛騨地方~

Chapter 1:白川郷と飛騨高山

森を知る意味(2)

「少し」でちょうどいい

高山市内から国道158号線を西へ向かうと、約20分で清見町に到着する。エコロジーという言葉が一般的になるはるか以前の1974年から、「『木』という再生可能資源で、持続可能な循環型社会を実現する」という提案をつづけている会社組織がある。それが「オークヴィレッジ」だ。

この組織をひとことで説明するのは難しいが、前述した「木」がキーワードであることは間違いない。椅子、テーブルといった木製家具及び木製漆器の製造・販売、木造建築の施工から、カフェ運営、植林・育林活動の支援まで。およそ木にまつわるすべてのものを扱っている会社、といっても過言ではないだろう。

そんなオークヴィレッジの一部門、森の樹木から抽出したアロマに関する製品を製造・販売している「正プラス株式会社」へ話をききに行った。オークヴィレッジが所有する敷地内にある、コテージ風の建物に向かう。

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「では、裏の森に行きましょうか」。そういって案内してくれたのは、同社の北川賢次さんである。コテージの裏手から、すぐに山に入っていく。さっそく、黒い枝を持つクスノキ科の低木、クロモジに手を添えて説明してくれる。「これには殺菌作用がありましてね、古くは爪楊枝としても使われていたそうです。大きくなっても高さは3メートルくらい」と北川さん。同社のアロマブランド「yuica(ゆいか)」の製品のひとつになっている木である。

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手入れの行き届いた、実に明るい森である。広葉樹、照葉樹が多いが、ヒノキやモミ、ヒメコマツなどの針葉樹も混生している。健全な森とはまさにこういうことを言うのだろう。「このニオイコブシ(タムシバ)について、ある調香師の方は『この状態で完璧なブレンド』だと言っていました。柑橘系の香りでね。山でこの木を切ると、ふもとまで匂いが漂うんですよ」。森を歩くあいだ、北川さんの説明は続いた。

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コテージに戻って、さらに話をきく。「アロマを商品化して4年がたちましたね。まあいろんな苦労はあるんですが、うちの製品の特徴をひとつ挙げれば、周辺の山の木を使っているということです。地元産なんですね」。原材料は飛騨高山の森から集めている。製品用の樹種をとにかく集めればいい、ということなら、日本全国から、ひいては外国産までふくめれば生産量も伸ばしていけるはずである。しかし、そうしないところがこだわりであり、この組織の意義なのであろう。

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「40年前の家具作りからスタートして、『お椀から建物まで』をモットーに、小さいものから大きいものまで作ってきました。森の恵みを無駄なく活用する、ということが基本理念なんです」というのは、取締役の岩松英樹さんだ。40年間の継続──その言葉には大きな説得力があった。

「オイルを抽出するところを見に行きましょう」という北川さん。あとに続いて坂道を登っていく。丁寧に選別された樹種ごとに、最適な大きさに粉砕された木が容器に収まっていた。森の匂いがむっと立ち込めている。「水蒸気で加熱してオイルを抽出します。この蒸留器もオーダーして作ったものなんですよ」

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抽出された精油は黄金色に輝いていた。5キロの原材料から取れるオイルは、多くの場合わずか5ミリリットル程度だという。水や不純物を取り除き、丁寧に濾過して精製、遮光ビンに詰められて製品となる。「ほんの少しなんですよね。でもすべてが手仕事なもんで、このくらいでちょうどいいんじゃないですか(笑)」と北川さんが言った。何気ないが少々胸の熱くなるひと言であった。

オークヴィレッジ創設者の稲本 正氏は、「約6万坪の敷地の半分は、かつては別荘分譲に失敗した荒地でした。そこに工房や家を建て、木を植えて、私たちは人と自然が共生する一つのモデル、すなわち『緑の国』を試み、未だにそれは続いています」としている。この現代社会においては、森と人間の共生を考えることが、森を知る意味のひとつではあろう。そしてやはり自然に触れることなくして、自然への考えは及ばないのかもしれない──そんな思いとともに、初日の取材を終えた。

トヨタ白川郷自然學校
岐阜県大野郡白川村馬狩223
Tel. 05769-6-1187
Fax. 05769-6-1287
料金|1万600円~
(1泊2食付1名分)
IN/OUT|15:00/10:00
http://www.toyota.eco-inst.jp/

オークヴィレッジ高山(ショールーム)
岐阜県高山市清見町牧ヶ洞846
Tel. 0577-68-2220
営業時間|9:30~16:30
無休(年末年始除く)
※カフェは4月~11月の土・日・祝日とフェア期間中のみ営業
http://www.oakv.co.jp/index.html

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岐阜県観光課
Tel. 058-272-8393
http://www.kankou-gifu.jp/(岐阜県観光連盟公式サイト)

           
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