対談インビュー:ジョアン・ジルベルト 生粋のサンビスタが生んだ軌跡
LOUNGE / MUSIC
2019年11月28日

対談インビュー:ジョアン・ジルベルト 生粋のサンビスタが生んだ軌跡

対談で紐解く、ジョアン・ジルベルト

2019年7月6日にジョアン・ジルベルトさんが逝去された。その功績を偲ぶトリュビュートコンサートが開催される。そのコンサートの前にジョアン・ジルベルトという偉大なミュージシャンが残した功績を振り返る機会を設けさせて頂いた。今回対談にご参加頂いたのは、国内のジョアン・ジルベルトのコンサートなどでプロデューサーをされた宮田茂樹さん。もうお一方は、今回のコンサートにご出演されるミュージシャンの宮沢和史さんだ。

Interview by Nagasaki yoshitsugu|Photography & Text by Morooka yusuke

ジョアン・ジルベルトとの出会い

宮田さんとジョアンのお付き合いはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
宮田:
長いといっても18年のお付き合いです。97年にユニバーサルからライセンスを受けて、彼にリマスターの音を承認してもらうためにやりとりをしたのが初めてだけど、本格的な交流を始めたのは2001年から。プロマックスの遠山くんと日本に呼ぼうよというので、来日のための交渉をしたのがきっかけだったと思います。

2006年の国際フォーラム公演ではギターと声だけで、あの長い時間もたせるのは、心底すごいと思いました。
宮田:
そうですよね。僕だと文化村くらいでいいのかなという感じだった。そこを東京国際フォーラムで5000人を前に1人でやらせるというのはプロマックスさんの英断だったと思う。
宮沢さんはご覧になりましたか?

宮沢:
はい。大事件でしたよね。僕は直接お会いしたことはないので、一生にあるかないかの機会だと思って
行きました。

そもそも僕がブラジル音楽を聴くようになったきっかけが、NHK FM放送の『クロスオーバーイレブン』というAOR寄りの音楽を流している番組です。学生時代は番組から流れてくる音楽を聞きながら寝るというのが習慣だったのですが、その時にブラジル音楽やフュージョン系の音楽を聴くようになったと思います。自分でやる音楽ではないけれど、かっこいいなと思いながら聞いていましたね。
プロになってからジョビンの音楽はよく聴くようになりました。理由はいくつかあって、ゲッツ/ジルベルトというアルバムに感動したのと、先輩の矢野顕子さんから「ブラジル音楽を勉強しなさい」という助言を頂いたりしたのが理由です。そこらへんからジョアン・ジルベルトを意識してから、さらに掘り下げるようになりました。

ジョアン・ジルベルトの音楽

ジョアンが生む音楽の魅力はどこにあったのでしょうか?

宮沢:
僕は人間の交差点みたいなところから生まれた音楽が好きです。人々が前向きとは言えない理不尽な理由で行き交って、ミックスされた必然の音楽。嘆きや郷愁、希望が渦巻く地点から生まれる音楽は、ハッピーエンドで集まっているわけではなくて、どうしても、そうなってしまっている。そこから生まれる人間の性や業、お金や歴史のいたずらなどが生み出した必然の音楽というものは、それだけ根が深いし、逆にいうとエネルギッシュで輝いている。僕はジョアン・ジルベルトの音楽もそうだと思っています。
宮田:
宮沢さんがおっしゃる通り、色々なものがぶつかる場所に面白い音楽が生まれると思います。ジャズ、サンバ、タンゴなどがそうですよね。いずれにせよ南米には、西アフリカを主とした人々が労働力として連れてこられてしまった。彼らにしてみると大西洋の祖国は思いつつ、リズムは忘れられない。そこにアラブやポルトガルの移民がもってきた音楽と合わさることでサンバが生まれた。大袈裟かもしれないけれど、それをジョアンは、彼なりの特別な解釈で再構築したのではないかな?それを再構築するときのマナーというかやり方がジョアンは素敵だったのだと思います。
ジョアンがボサノバのある種の原点を作ったといえるのでしょうか?
宮沢:
ボサノバはムーブメントの名前だと思っています。彼がやっているのはサンバです。1人でサンバをやるとこうなるぞという回答だと思う。その音楽をリオのロベルト・ミネスカルやナラ・レオンのような人たちが受け入れてやり始めた。それまではサンバ・カンサゥン(ブラジルの伝統的な大衆音楽)の時代です。当時の若者がこれは新しい、自分たちにもできるのではないかとやり始めた音楽の原種をボサノバというふうにとらえたほうがわかりやすいと思います。

ジョアン・ジルベルトのステージ

宮沢:
僕は、ジョアンの日本公演の前にサンパウロで公演をみた経験があります。その時はライブの公演のためにブラジルに入っていたのですが、数日前に同じ場所でジョアンがライブを行うという情報を聞いて出かけました。その時のコンサートは本当に素晴らしかった。そこでは盛り上がってくると彼の声が聞こえないほど周りが歌い始める。観客みんなで大合唱です。

でも日本公演の時は、水を打ったように会場が静まりかえっていた。ここからは僕の持論だけど、ジョアン・ジルベルトの生涯で一番良いコンサートは2006年の国際フォーラムだったのではないか?と思う。マイクもいいのものが用意されて、ケアも最高。そんな気持ちよく歌える環境の中で、誰もが静かに耳を傾けて自分のギターと歌を聴いてくれる。その環境はジョアンにとって生涯で一番気持ちがいいコンサートになったと僕は思いますね。

沈黙の何十分という事件がありましたけど、それは感慨深い気持ちを噛み締めていたからだと思いますよ。人生において最高のステージにたどり着けたと心境があったのではないでしょうか。
宮田:
僕もそうだと思います。東京の初日が終わって、ジョアンが「こういう観客を求めていた」と言っていました。今、考えるとコンサート中に観客とは交流があるわけでないから、本当に言いたかったのは『静寂』にあったのではないか。5000人が作る静寂というのは、独特な重みがあると思います。それを彼が受け取って、彼の中で燃えていったというのが、あのステージだったと思う。そう考えると彼にとって本当に良いコンサートだったと言えますよね。

ジョアンを振り返るトリビュートコンサート

宮沢さんは今度のコンサートで、どのようなスタイルでライブするのか決めていらっしゃいますか?
宮沢:
決めていますよ。共演される方々が弾き語りをやられる方が多いので、僕はバンドを入れてやりたいと思います。ジョアンの魅力は弾き語りだけではないので、そっちを再現してみようかなと思います。
そう言われてみれば、弾き語りのイメージが定着していますよね。
宮田:
最近のコンサートでは弾き語りしかしてきませんでしたからね。僕は、トリュビュートコンサートをやるというのを聞いた時にどんな内容になるのだろうと思いました。彼は代表曲があまりない。作曲も4〜5曲ほどです。トム・ジョビンのトリュビュートコンサートを観たことありますが、その時は彼自身が作曲家だから色々な人が出てきて、彼の曲を披露して盛り上げていた。ジョアン・ジルベルトのトリュビュートコンサートはどうやって組むのかなと思いました。ちなみに宮沢さんはどの曲をやられる予定ですか?
宮沢:
まだ、やる曲は決定していませんが、ジョアンスタイルを意識した音楽になります。出演者を含めて、ジョアンの音楽を好きな人たちがこれだけ一堂に会する機会はジョアンの日本公演以来なかったでしょうから、ある意味で同窓会だと思っています。 これを機会にしてジョアン・ジルベルトの残したものを、お客さんと一緒に振り返る機会になったらいいなと僕らは考えています。そして、ジョアン好きの人たちだけではなく、 初めて聴く人でもジョアンやブラジル音楽が好きになってもらえるようなコンサートにしたいですね。
宮沢 和史(みやざわ かずふみ)
1966年山梨県甲府市生まれ。THE BOOMのボーカリストとして1989年にデビュー。これまでにTHE BOOMとしてアルバムを14枚、ソロでは4枚、GANGA ZUMBAとしては2枚リリースしている。作家としても、石川さゆり、喜納昌吉、矢野顕子、夏川りみ、MISIA、中島美嘉、岡田准一、島袋寛子、平原綾香、Kinki Kids、大城クラウディアなど、多くのミュージシャンに楽曲を提供。代表曲のひとつ「島唄」はアルゼンチンでの大ヒット(2001年)を記録し、国境を越えて今なお世界に広がり続けている。デビュー25年を迎えた2014年、日本武道館でのライブを最後に、THE BOOMの歴史に幕を閉じ、しばらくの充電期間を経て、2018年11月より本格的な歌手活動を再開。現在沖縄芸術大学で非常勤講師も務める。

宮沢和史オフィシャル・サイト  http://www.miyazawa-kazufumi.jp/
Twitter                         https://twitter.com/miyazawa_info
宮田 茂樹(みやた しげき)
1949年東京生まれ。RCA(RVC株式会社)に就職しハウス・プロデューサーとして大貫妙子、竹内まりや、EPO、ムーンライダースの制作にたずさわる。1984年坂本龍一と共にインディペンデント・レコード会社MIDIを設立。1991年小野リサの成功を機に同社の株を売却し、以降はブラジル音楽のリリースを中心とした、ミニ・レーベルで気楽な生活を送る。2003年ジョアン・ジルベルトの初来日にたずさわり、CD『ジョアン・ジルベルト・イン・トウキョウ』をプロデュース。

コンサート情報

Chega de Saudade
ジョアン・ジルベルト トリビュートコンサート
Um Abraço no João


追悼:THE BOSSA NOVA  João Gilberto Prado Pereira de Oliveira
ジョアン・ジルベルトさんが2019年7月6日 (現地時間) に逝去されました 。(享年88歳)
彼が創ったボサ・ノヴァという音楽は世界中で広く愛され、日本でも多くのアーティスト達に影響を与えてきました。
ジョアンの音楽を愛するアーティスト達が集い、その功績を偲ぶ追悼コンサートを開催いたします。

出演|宮沢和史/南佳孝/小野リサ/中村善郎/坂本美雨/Saigenji
ミュージシャン|Gt. 笹子重治/Pf. フェビアン・レザ・パネ/Drums&Perc. 服部正美/Bass 久保田真弘/Sax, Flute 倉富義隆/Perc. 今福健司/Sax 田中邦和
日程|2019年12月4日(水)
時間|18:00開場/18:30開演
会場|めぐろパーシモンホール
東京都目黒区八雲1-1-1
料金|全席指定:7800円※3歳以上のお子様はチケットが必要です。
URL|http://promax.co.jp/joao-tribute/
主催|JOÃO GILBERTO『LIVE IN TOKYO』製作委員会/朝日新聞社
後援|ブラジル大使館/J-WAVE/月刊ラティーナ  協力:イープラス
問合わせ|サンライズプロモーション東京 0570-00-3337

リリース情報

2006年に東京で開催された伝説のライブ、 世界初、唯一の公式ライブ映像。
これまで世に出る事の無かった、2006年11月に東京国際フォーラムAで開催された伝説のライブの模様を、
13年の時を経て、選りすぐりの約90分の映像に凝縮。JOÃO GILBERTOの長いキャリアの中でも世界初、唯一の公式ライブ映像であり、ジョアン自身が信頼を置いていた日本人スタッフたちによるこの緻密な作品は、まさに真の永久保存盤である。

JOÃO GILBERTO『LIVE IN TOKYO』Blu-ray Disc
価格|5000円(税別)
                                  
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