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2026年7月17日
【連載】柴内晶子の「記憶の色」|ニューヨークと東京
LOUNGE|【連載】柴内晶子の「記憶の色」
まだ伴侶動物という考え方が日本で一般的に使われるようになる以前より、人生を彩り豊かにしてくれる存在として動物たちと接してきた筆者。赤坂動物病院の院長として、1人の人間として、幼少から今に至る優しい色彩のエッセイです。
Text & Photograph by SHIBANAI AKiko
時間と国境を超えるおともだち
数十年間仕事を続けてくると様々な方とお知り合いになる。
20年も前にお仕事で依頼主だった方が静岡県函南(かんなみ)に引っ越しをされた。函南は風光明媚で暖かく、過ごし易い土地で、わりと裕福な方々が別荘などを持たれている場所という印象だ。その方はKeikoさんという。国際結婚をされていて、ご家族と可愛い2頭の猫と暮らしていた。
Keikoさんは私より年上のチャーミングなレディで、お話しするのが楽しかった。2頭の猫はポンポンちゃんとレミーちゃん。2頭とも洋猫で毛足が長く、ミルクティー色の被毛で顔と足先と耳と尾がダークチョコレート色だ。目はすがすがしい水色でとても愛くるしかった。それぞれ性格に個性があり、特にレミーちゃんはよく私に懐いてくれた。だから、亡くなったときには大泣きした。お花に埋もれたレミーちゃんを今も忘れない。
Keikoさんとは仕事を越えてランチしましょうなどとお話ししていた。あるときJRの駅上のショッピング施設のベーカリーカフェで偶然お会いしてシンプルなサラダとパンのランチをご一緒したことがあった。その時は私が先を急いでおり、話し足りない気持ちでお別れした。
そのうち、Keikoさんはニューヨークのお嬢さんたちのところにお引っ越しをされた。
2頭の猫を見送って、ご自身もお歳を重ねられた事もあると思う。それからは時折メールをいただくようになった。新年のご挨拶、日常の出来事、動物の話、など。私も年賀状を添付してお送りしたり、家族の事や日本の事など、年に数回だけのメールだが、そのようにして何年も交流は続いた。
昨年のある日の事、突如Keikoさんが職場においでになった。ご家族とご一緒ではなくお一人で。そのときすでに80歳台半ばでいらしたので私は少なからずビックリするとともに、心配したものだ。何もお約束していなかったので、ほんの数分お話しただけでお別れせざるを得なかった。その際、とても美味しい赤いジャムをいただいた。
さらに1年後。またもお土産を携えておいでになった。前回のジャムがなくてチョコレートでごめんなさいとおっしゃった。昨年に比べて明らかに力強くお元気そうで、心に張りのある御様子だった。それが心底嬉しくて、却って私が励まされたほどだ。海を越えてハンドキャリーでチョコレートをお持ちくださった事もとても嬉しかった。このニューヨークからのチョコレートは尖っていないミルキーなお味で、素直に美味しくいただいた。私は嬉しくなってインスタに挙げてみた。
今日もメールを頂いた。おうちで暮らす21歳の保護犬Bちゃんが亡くなったそうだ。21歳のバースデイまで元気にしていたとのこと。現代獣医学をもってしても21歳のワンちゃんの存在は希有だ。残されたもう一頭のワンちゃんのところにはすでに新たな保護犬ちゃんが仲間入りしているとのこと。日常の事として犬との暮らしを選べる幸せもお裾分けいただいた。
この親交がずっと続くと良いと思う。ニューヨークは新緑の美しい季節を迎えつつあるそうだ。映る青葉の鮮やかなうすグリーンと風の香りも届けて頂いたような気がした。そのような心の余暇をいただくのは楽しい。そして、東京は如何ですか?とお尋ねいただいたので、またお返事を書こうとしている。
柴内晶子(しばない・あきこ)
赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。
赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。