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2026年6月26日
【連載】柴内晶子の「記憶の色」|ピンク水晶とオレンジ色の猫のこと
LOUNGE|【連載】柴内晶子の「記憶の色」
まだ伴侶動物という考え方が日本で一般的に使われるようになる以前より、人生を彩り豊かにしてくれる存在として動物たちと接してきた筆者。赤坂動物病院の院長として、1人の人間として、幼少から今に至る優しい色彩のエッセイです。
Text & Photograph by SHIBANAI Akiko
水晶に猫が映る
いつの頃か、はっきりしない。少女時代だったろうか。母か祖母からピンク水晶の首飾りを譲り受けた。どこから産じて、誰が作ったものなのか何の記録も残っていない。ノーブルで静かな印象の楕円の石に繊細な金色の留め金と細かい鎖がついている。留め金の部分はすごく小さくてとてもとめにくい。首の後ろで止めるのに5回も失敗する。そんな首飾りだが、長らく気にすることもなかった。
最近になってふと、「このピンク水晶が大好きだ」と思うようになり、しばしば身につけている。作られたのは数十年も前だろうが、丁寧な風情を感じ、眺めるたびに嬉しくなる。身につけていると、何か特別な力があるような、応援して支えてくれるような、そんな気さえしてくる。無条件で支えてくれる家族のようにも感じる。私の名前の由来が水晶の一文字であり、受け継いだものであることもそのように思う一因かもしれない。
ピンク水晶は滑らかに周囲を映し、透明なまま濁っている。光をあてるとスターが現れることもあると聞いてライトを当ててみたが、スターは現れなかった。しかし、そんなことに関係なく、この石への愛情は深まる一方だ。
私がデスクで作業をしながら、水晶を眺めてくつろいでいると、オレンジ色の猫が手許に乗ってくる。猫の顔もピンク水晶は滑らかに映す。黄色い大きな宝石のような目も細い瞳孔も余さず映し出す。猫はそのままでは不満で、色々としゃべりながら作業する私の手に顔をゴンゴンぶつけてきたり、甘噛みしたりする。
「自分の相手をするように!」、あわよくば「エキストラのおやつを出すように」と要求してくる。撫でていても急に強い甘噛みをし始める。オレンジ色の猫は保護猫で12年前に千代田区の丸の内の地下駐車場をたった1匹で走っていたところを保護された。保護をしてくださった方々のお話では、全く汚れていなくて、外に暮らしていたような姿ではなかったそうだ。もしかしたら誰かが車で来て捨てて行ったのではないかとの事だった。
不思議な事にどこで生まれてどうして丸の内皇居前の地下駐車場を走っていたのかわからない子猫が今は私の宝物になっている。オレンジ色の猫はうちのリビングの主となって家族に愛されている。
柴内晶子(しばない・あきこ)
赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。