INTERVIEW|協和発酵キリン『10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE』特別対談 川上シュン × Open Reel Ensemble
研究開発型ライフサイエンス企業「協和発酵キリン」によるプロジェクト
音楽家たちが10のテーマを聴覚化する『10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE』
特別対談 川上シュン × Open Real Ensemble
現在、ライフサイエンス企業「協和発酵キリン」は、自社の取組みを音楽家たちとのコラボレーションを通して伝えるウェブコンテンツ『10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE』を展開中。今回はこの企画を立ち上げた川上シュンさんと、「拠点」をテーマに楽曲を制作した「Open Reel Ensemble(オープンリールアンサンブル)」の対談をお届けする。今回はあらためて、プロジェクトの出発点から話をうかがった。
Photographs by SAITO RyosukeText by TOMIYAMA Eizaburo
研究者と音楽家の作業プロセスは似ている
――「協和発酵キリン」の取り組みを10の音楽で表現したきっかけを教えてください。
川上シュン(以下、川上) 最初は映像とかグラフィックとか、視覚的な表現も考えていたんです。でも、協和発酵キリンさんのお話をうかがううちに、研究者と音楽家は似ている側面があるなと思って。
研究者の方がたは、治したい病気は明確にありつつも、そのためのプロセスやゴールへの方法は明確に見えていないんです。音楽家もおなじで、作りたい音楽はあるけれど、実際にどの音を拾えばいいのかは見えていない。目的に向かって一滴ずつ試していく感じと、一音ずつ試すようすが似ているなと思ったんです。実際、研究所を見学した音楽家は「僕らといっしょだ!」と興奮していましたし、音楽と絡めた企画は想像以上にフィットした感じがしますね。
――“10”という数字や、音楽家の方がたはどのように選ばれたのですか。
川上 毎月1曲ずつの計12曲でもよかったんですけど、「テンサウンズ」のほうが響きがいいかなって(笑)。「トゥエルブサウンズ」だと言いにくいので、そこはコピーワークですね、オンラインでも検索しやすいですし。そこから、協和発酵キリンさんに10個の企業コンセプトやフィロソフィー、企業活動を選んでいただいて。音楽家にかんしては、昔から僕の周りには多いので、そのアーカイブから選びました。だれにどのコンセプトでお願いするかは独断でした。「Place(拠点)」にかんしていえば、もうオープンリールアンサンブルしかいなかった。彼らは制作のなかで「集音」に重きを置いているチームなので、協和発酵キリンさんのある大手町や東京駅周辺をどう表現するか、すごく楽しみだったんですよ。
――オープンリールアンサンブルの皆さんは、これまでに企業PRのための音楽作りをされたことはありましたか。
難波卓己(以下、難波) すでにある曲がCMに使われたことはありますけど、ゼロからっていうのははじめてでしたね。
Google Mapを開きながら聴く『Otemachi Recording Ensemble』
吉田匡 最初の打ち合わせから、街の音を録ることは決まっていたんですけど、アウトプットをどうするかはいろいろ話し合いました。最終的には、あまり音楽的に改変することなく、僕たちが使っているオープンリールの特性がもっとも効果的に表現できるものを作りました。
難波 大手町っていう場所は、ほとんど誰も住んでいないところに毎日10万人くらいの人が集まるわけで。その流れを再現すれば、「拠点」というお題にアプローチできるんじゃないかと考えたんです。そこで、メンバー5人がそれぞれ違う場所からスタートして、おなじゴール(協和発酵キリン本社)を目指すことにしたんです。
吉田悠 オープンリールって、一度録音してしまえばそこに閉じ込められた時間の流れを自分たちで操れる感覚があるんです。スタートポイントがそれぞれちがったので、ゴールの時間はみんなバラバラ。でも、それをまとめるときにオープンリールという手段を使えば、ゴールを自由に合わせることができる。それをわかりやすく表現するためにも、あえて音楽的なアプローチではなく、テープをぐいっと動かしているようすがわかるように作ったんです。
川上 ああくるとは思わなかった。できあがったサウンドをこの会議室(協和発酵キリン本社)で、Google Mapを開きながら聴いたんだけどすごくおもしろくて。そんな風に音楽を聴いたことがなかったからね。表現方法がアーティストだなって思った。
吉田悠 マップを開きながら聴くっていうのは、すごくいい楽しみ方だなって。僕らも最初に地図を見ながら計画を立てて、そのあとに大手町の街の流れを歩きながら体感して作ったので。
川上 余談だけど、この企画で一本できるなって思った。これをインタラクティブにマップへ落としていって、音を聞きながら歩くとか。遠隔でいろいろ動いてたらいいなとか。しかも、それが世界規模だったらおもしろいなって。そういえば、録音中に道を聞かれてたよね?
佐藤公俊 あの出来事はおいしかったですね。時間の記録においては、日常でも起こるような事件性が生まれるとおもしろいなと思っていたんです。なにが起こるかわからないっていう点も、オープンリールと似ているし。ただのレコーダーなんですけど、僕らが介入することでいろんな不確定要素が増えて音が変化していくものだから。
川上 そういう意味では、このプロジェクトも事件性を取り入れているというか。コマーシャルな音楽を集めたようなものにはしたくなかったんですよね。それよりも作品になっていてほしかった。
吉田悠 サイエンティスト=ミュージシャンというお題をもらったときから、僕らは会社をCMするというよりも研究者の代表という感じで、音楽側からどうリンクできるかを探す感覚がありました。
川上 音楽家を選ぶときにも、メロディーメーカーというよりサウンドメーカー的な人にお願いしたんだよね。サイエンティストのように音楽を研究しているイメージがある人。
その親和性みたいなものを感じながら聴いてもらうと、またあたらしい楽しみ方が生まれるのかなと思います。
<About 10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE>
『10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE』は、生命をみつめ、生命に向き合いつづける研究開発型ライフサイエンス企業「協和発酵キリン」が、10の視点から10のアーティストとともに10の音楽に紡ぐプロジェクト。その有機的な営みを、美しい音にのせてお届けする。「世界一、いのちにやさしい会社になる」という情熱と志を胸に、抗体技術を核にした最先端のバイオテクノロジー技術を駆使して画期的な新薬を創出、グローバルな展開を通して世界の人びとの健康と豊かさに貢献している。本企画は、アートディレクター/アーティストの川上シュンが代表を務める「artless Inc.」によるプロデュースのもと、展開される。
10 SOUNDS OF LIFE SCIENCE
http://www.kyowa-kirin.co.jp/10_sounds/
Open Reel Ensemble|オープンリールアンサンブル
2009年より、和田永を中心に佐藤公俊、難波卓己、吉田悠、吉田匡が集まり活動開始。旧式のオープンリール式磁気録音機を現代のコンピューターとドッキングさせ、「楽器」として演奏するプロジェクト。リールの回転や動作を手やコンピューターで操作し、その場でテープに録音した音を用いながらアンサンブルで音楽を奏でる。ライブパフォーマンスへの評価も高く、Sonar TOKYO、Sense of Wonder、KAIKOO、BOYCOTT RHYTHM MACHINEなどに出演。海外ではSONAR 2011 Barcelona、ARS ELECTRONICA(in Linz of Austria)に出演している。
http://www.steamblue.net/index.html
https://www.facebook.com/OpenReelEnsembleBraunTubeJazzBand
川上シュン|KAWAKAMI Shun
artless Inc. 代表。1977年生まれ、東京都江東区深川出身。アートとデザインを基軸に、ブランディング、デザインコンサルティング、企業やブランドロゴ、映像、建築まで、ジャンルやカテゴリーに縛られない活動をつづけている。ポンピドゥー・センター(パリ)、ルーブル宮内フランス国立装飾美術館、ミラノサローネ、TENT LONDON、BODW(香港)など、国内外でのフェスティバルやエキシビション、カンファレンスにも多数参加するなど、グローバルな活躍が目覚ましい。
http://www.shunkawakami.jp
http://www.artless.co.jp