祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.38 中村獅童さん
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今回の編集大魔王対談には、2019年5月11日(土)から、東京・天王洲の寺田倉庫、歌舞伎町の新宿FACEで開催される「オフシアター歌舞伎」に出演する歌舞伎俳優の中村獅童さんが登場。演目に近松門左衛門の「女殺油地獄」を取り上げ、これまで歌舞伎が上演されることのなかった空間での公演に向けて意気込みを語っていただきました。
Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by MAEDA AkiraText by ANDO Sara (OPENERS)
倉庫とライブハウスという新しい劇空間での歌舞伎公演
祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真)今回、脚本と演出を手掛けられた赤堀雅秋さんとの共作となる、近松門左衛門原作「女殺油地獄」ですが、一番の見どころはなんですか?
中村獅童さん(以下、獅童)2006年に河内屋与兵衛の初役を演じた時、三越劇場という小さめの空間で上演したのですが、いつかまたこの演目を違った形でやりたいなと思ったんです。20代でニューヨークに行った時、オフ・ブロードウェイをはじめ、倉庫での上演など様々なスタイルの演劇があることを知り、その頃から、いつか倉庫で歌舞伎をやってみたいとも思っていて。倉庫で開催されるファッションショーがあるなら、歌舞伎とか演劇があっても面白いなと感じていました。倉庫でやるなら、蝋燭の火の中で昔ながらにやれたらいいなとも思いましたが、実際、一般的な倉庫にはトイレがなかったり、演劇をやるにあたってなかなか難しいものがありました。特に、僕らは白塗りをするので、水がないと困りますし。そこで、寺田倉庫が候補にあがったんです。ファッションショーもやっているし、ここでやれたら最高だな、と決めました。
祐真 なるほど。
獅童 それから、いろんな人種や性別、世代の人たちがいる新宿・歌舞伎町という混沌とした街でダークな歌舞伎をやるのも面白いと思いました。「女殺油地獄」は歌舞伎座で上演することもありますが、これは300年前に実際にあった事件をそのまま芝居にしているんです。借金まみれになった放蕩息子が金のために油問屋の奥さんを殺しちゃうという残忍な、わがまま放題の少年犯罪のストーリーです。
祐真 今でもありそうですね。
獅童 そうですね。現代にも通じるテーマ性に惹かれてこの演目にしました。
祐真 舞台はどのようなつくりになるんですか?
獅童 まず、現代の生活から一歩足を踏み入れた瞬間、300年前の近松のこの時代にタイムスプリップして、その事件やその情景をどこかから盗み見しているような気持ちになっていただけるようなつくりにしたいと思いました。
祐真 客席との距離も近そうですね。
獅童 はい。劇を見ているというよりも、目の前で起きている事件を目撃してしまった、というような気持ちになっていただけるかなと。そして今回は、360度どの位置からでも舞台が見られるようになっているんです。大掛かりな道具を飾るわけでもなく、シンプルにしました。だからこそ、そこで問われるのが演技力。誰が主役とか脇役とか関係なしに、一瞬たりとも休むことなんてできないし、気を抜くことなんて当然できません。360度、常に見られている状態なので。
祐真 客席はあるんですよね?
獅童 わかりやすくいうと、格闘技みたいにリング=舞台があって、そのまわりを椅子が囲うという形です。
祐真 なるほど、ライブ感がさらに増しますね。盛り上がりそうだし、新しい歌舞伎像を垣間見れそう。
獅童 何かをプラスしていくというより、どんどん削ぎ落としてシンプルにしたいと思っています。奇をてらって何かド派手なことをやるよりも、人間模様だとか、一人ひとりの人間像をくっきり浮き彫りにさせるようなものを目指したいですね。現代の世界から近松の時代にタイムスリップする瞬間を表現するためにプロジェクションマッピングを使う予定です。会場に入ると、場内には映像が流れていて、ある瞬間からパッと歌舞伎の世界に入るような演出を考えています。
祐真 最初に誘導するのは世界観に入り込みやすいし面白いですね。
獅童 劇中の殺しのシーンでも使う予定です。デジタルとアナログの融合というよりも、あくまで歌舞伎を表現する手段としてですけどね。初音ミクさんとの「超歌舞伎」がデジタルと歌舞伎の融合だとしたら、今回は歌舞伎の古典にこだわったモノづくりになっています。
祐真 楽しみです。見せ方としてはテント芝居と通じるものがありますね。
獅童 そうですね。僕は80年代のアングラ演劇から影響を受けていますし、それに対する憧れはずっとあります。この演目はダークでアングラ的ですしね。そもそも歌舞伎もアングラというか、ストリートから発生した芸能なので。当時はファッション誌なんてなかったから、歌舞伎を見て着こなしを真似したんだと思います。当然パンクやロックミュージックもないので、そういう精神の人は歌舞伎役者だったのかなと。時代を切り拓いていく歌舞伎者といわれるような精神は、やはり歌舞伎の中に存在すると思います。現代を生きる僕としては、ロックもパンクもファッションも好きだけど、それらの要素はすべて歌舞伎にあるんだということをアピールしていきたいです。特に、ファッションは好きだけど歌舞伎には興味がないという若い世代の方に是非とも見ていただきたいという思いで、今回この企画を立ち上げました。
Page02. 歌舞伎は大衆向けの娯楽だから、気軽に楽しんでほしい
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歌舞伎は大衆向けの娯楽だから、気軽に楽しんでほしい
祐真 今の若者たちに、歌舞伎からファッションやアナーキーな精神なんかを感じ取ってもらえればいいですよね。
獅童 そうですね。歌舞伎というと“伝統”とか“堅苦しいもの”というイメージを持っている人が多いと思うんです。でも、それだけじゃなくて、“歌舞伎者の精神”というものが伝わればいいなと思います。だからこそ、現代に起きてもおかしくない事件を芝居にしました。時代の最先端をいくのが歌舞伎ですから。歌舞伎のストリート感を表現する意味でも、今回、ストリートブランドの「ネイバーフッド」の滝沢(伸介・デザイナー)さんにお願いして、公演の限定Tシャツを枚数限定で作ってもらいました。今までの歌舞伎公演ではなかった試みです。若者やファッション好きな方たちに、歌舞伎にも共感していただきたいという思いですね。
祐真 面白いですね。どんなTシャツに仕上がったんですか?
獅童 浮世絵モチーフでリクエストしました。外国の方が捉える日本というと、浮世絵だったりしますよね。80年代のヘビメタバンドのツアーTシャツにありそうな、浮世絵をモチーフにしたようなロックTのイメージです。
祐真 80年代にカンサイヤマモトの浮世絵スウェットを着ていたことを思い出しました。高校の卒業アルバムでもそれを着て。
獅童 (山本)寛斎さん、ずいぶん歌舞伎をモチーフにしていましたもんね。
祐真 勢いがあっていいですよね。エネルギーを感じます。
獅童 今回は、現代の劇作家・映画監督である赤堀さんに、現代の視点からちょっと味付けしていただいています。基本的にストーリーは、近松門左衛門さんの原作のままですが、新たに加わる場面があったり、少しだけ台詞をわかりやすくしたり。歌舞伎は難しいと思って敬遠されている方でもイヤホンガイドなしで楽しんでいただけるのではないかと思います。とにかく距離が近いので、前の席の方は汗もかかるだろうし、息もかかるでしょうけど(笑)。
祐真 荒川良々さんも出演されるそうですね。
獅童 はい。彼とは2002年に公開された映画『ピンポン』で出会い、仲良くなりました。いつか一緒に歌舞伎に出られたらいいねって話していたんですよ。17年越しの念願が叶って、歌舞伎出演となりました。
祐真 こういうケースってめずらしいんですか?
獅童 そうですね。でも(十八代目 中村)勘三郎兄さんが立ち上げたコクーン歌舞伎や平成中村座には笹野高史さんがレギュラーで出ていましたし。それに、三谷(幸喜)さんが作・演出を務める新作歌舞伎が6月に歌舞伎座で上演されるのですが、八嶋智人さんが出演されるんですよ。最近は新作ラッシュで、いろいろなタイプの新作歌舞伎があります。僕自身も「あらしのよるに」や「超歌舞伎」、それから今は「オフシアター歌舞伎」をつくっていますが、伝統と革新ですね。伝統を守りつつ革新を追求するという生き方がやはり、僕らしいんじゃないかなと思います。
祐真 今回の「オフシアター歌舞伎」に関しても、また何かすごく新しいものが見られるだろうなという期待が膨らみますね。
獅童 空間が狭いので、歌舞伎の中にあるリアリズムをより追求することができると思います。歌舞伎座は2000人規模の大劇場ですが、寺田倉庫も新宿FACEもせいぜい500人ぐらいのキャパシティなので、そんなに声を張り上げなくても聞こえる距離。より一層、一人ひとりの演技がリアルに間近になっていくのではと思います。
祐真 先ほど獅童さんもおっしゃっていましたが、狭い箱でのファッションショーなんかも、事件を見に行くという感覚があるんですよね。
獅童 こちらは演劇ですが、何かイベントに出掛けるような気持ちで事件を目撃しに来ていただきたいです。分不相応のものを見に行くっていうよりも、同じ日本人ですし、歌舞伎というのはもともと大衆のものですから。伝統と歴史があるおかげでハードルが高いというイメージがついてしまっているのかもしれないけど、そもそも大衆の娯楽なので、あんまり気構えることなく気軽に来ていただけたら嬉しいです。
祐真 アドリブで何か起こりそうですね。
獅童 毎日違うと思いますよ。天王洲の寺田倉庫っていうオシャレなところと、歌舞伎町の新宿FACEっていう泥臭い場所でやるのでは、演じる側もテンションが違いますし。
祐真 歌舞伎町で歌舞伎ってのもいいですね。ダジャレみたいだけど。
獅童 歌舞伎町で歌舞伎、未だかつてやったことないんですよ。しかも事件ものですから。
Page03. 伝統を守りつつ、中村獅童ならではのスタイルを追求する
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伝統を守りつつ、中村獅童ならではのスタイルを追求する
祐真 ところで、与兵衛役はやっていてどうですか?
獅童 不思議なのは歌舞伎の公演で人を殺した後に拍手がくるんです(笑)。残忍な少年犯罪で、人殺しなのに拍手が鳴るという。
祐真 見せ場だからということなんでしょうけど、確かに不思議ですね(笑)。
獅童 決まる瞬間なんかは拍手がわーっと湧く、不思議な演目です。いつも思うのは、どの時代も変わらずこういう事件は起きているっていうことですね。
祐真 与兵衛のような人、いますよね(笑)。
獅童 なぜそうなってしまうのかと思いつつ、いますね(笑)。
祐真 僕の兄は与兵衛でしたね。
獅童 本当ですか?
祐真 親父としょっちゅう揉めていました(笑)。
獅童 与兵衛のお父さんは実のお父さんじゃなくて、継父なんですよ。
祐真 だから本気で怒れないんですね。
獅童 あまりにも与兵衛がひどいから怒りはするんですけど、どこか本気になれないっていうところに、多少なりとも与兵衛の中にもジレンマがあると思うんです。家庭コンプレックスというか。
祐真 そこにひとつ、ドラマがありますね。
獅童 甘やかされて育って、自分にも甘ったれているし。常にまわりに翻弄されて、流されて。借金を返さないと男が立たない、とカッコつけつつ、恥を忍んでお金を借りようと頼むも断られて殺してしまうっていう。そしてまたお金を盗んで、また遊ぶ。
祐真 どうしようもないですね(笑)。
獅童 どうしようもない人の話です(笑)。
祐真 面白そうですね。獅童さんはまた前進しているような気がします。素晴らしいです。この先どうなっていくんでしょうね。
獅童 これからも中村獅童ならではの歌舞伎を追求していきたいです。自分が経験してきたこと、今までやってきたこと、感じてきたこと、それらを歌舞伎と結びつけたい。それが僕なりの生き方だし、僕にしかできないことなのかなとも思うので。自分らしい歌舞伎をこれからも追求していきたいと思います。
祐真 寺田倉庫と新宿FACEどちらも一回ずつ見たいぐらいです。楽しみにしています。今日はありがとうございました。
獅童 こちらこそありがとうございました。是非宜しくお願いします。