連載|体感する読書~THE READING EXPERIENCE~|第7回「はじめの第一歩」
LOUNGE / BOOK
2015年4月17日

連載|体感する読書~THE READING EXPERIENCE~|第7回「はじめの第一歩」

連載|THE READING EXPERIENCE

今月の3冊|Nov. 2013

第7回「Baby Step~はじめの第一歩~」

人生を左右する本との出合い。それは一瞬の出来事かも知れません。そんな特別な1冊を求めて世界を駆け巡るブックハンター、twelvebooksの濱中敦史さんがセレクトした写真集・作品集を3冊ご紹介します。見てよし、触ってよし、飾ってよし。ようこそ、体感する本の世界へ。

最近“ファースト・ブック”に注目が集まっている。つまりアーティストにとってはじめての本、処女作が売れているというのだ。この場合、自費出版したものというよりも、出版社からはじめて出す作品を指すことが多いそうだが、出版社や写真財団が主催する賞にノミネートされるなど、箔(はく)がついた本に関しては、発売と同時に完売することもあるという。処女作のクオリティが上がってきているのか、はたまた明日のスター探しが熾烈になっているのか……。なかでも今回紹介する3人は、今後の活躍が大いに期待される若手アーティストばかり。この機会に“青田買い”してみては?

Selected by HAMANAKA Atsushi (twelvebooks)Photographs by JAMANDFIXText by TANAKA Junko (OPENERS)

01

 今年のパリフォトの覇者

twelvebooks_05

毎年11月にパリで開かれる、世界最大の写真市「パリフォト」では、昨年から「ファースト・フォトブック・アワード」なる公募制の賞が設けられている。ニューヨークを拠点とする写真財団「アパチャー」と、パリフォトが共同で主催するこの賞。今年の最終審査に残った20作品は、すでに品薄状態がつづいているという。写真界が熱い視線を注ぐ同賞を今年受賞したのは、スペイン生まれの写真家、オスカー・モンソンの『KARMA』だ。

フラッシュでギラギラと光り輝く写真の数々。写り込んだ人の表情に笑顔はない。なかにはカメラを睨みつけ、手を大きく振りかざして、写真に撮られるのを全身で拒否している人もいる。立派なパパラッチである。だがモンソンの目的はスクープではない。公共空間にプライベートな空間を作り出すクルマ。周りの景色が次々変わろうとも、クルマのなかだけは、そんなことなど意に介さない平穏な空気が流れている。モンソンはその“神聖”な場所に土足で踏み込むことで、ドライバーとクルマの関係性を浮き彫りにしようと試みた。そこには平穏さとはほど遠い危険な香りが漂う。

『KARMA』
作者|オスカー・モンソン(Óscar Monzón)
出版社|RVB Books / Dalpine(www.rvb-books.com)
サイズ|210 × 300 mm / ソフトカバー
ページ数|128ページ
価格|95ユーロ
2013年刊
※2014年入荷予定。問い合わせはtwelvebooksまで。

02

 気鋭の出版社が目をつけたのは“宇宙人”!?

twelvebooks|Nov. 2013 20

ディレクター独自の審美眼で見出す若手アーティストや写真集、そのどれもが世界中で話題となり、目が離せない存在として注目を集める「MACK」。彼らが今年の「ファースト・ブック・アワード」に選んだのは、アメリカ生まれの写真家、ポール・サルベソンの『Between the Shell』である。

日用品をパズルのように組み立てていくサルベソン。見慣れたカーペットやハンガー、モップが、カラフルでキャッチ―な作品の一部となって、私たちの目を楽しませてくれる。しかもその発表場所は、日用品の“住み処”である家のなかだ。サルベソンはその制作過程について、こんな風に述べている。「家にだれもいないとき、みんなが寝静まったあとに、こっそりパフォーマンスを披露しているような感じ。日用品には用途や役割があるけど、あえてそういった縛りを取り払うように、作品を組み立てていくんだ。いつも突拍子もないことを思いつく、宇宙人のような視点を持っていたいね」

『Between the Shell』
作者|ポール・サルベソン(Paul Salveson)
出版社|MACK(www.mackbooks.co.uk)
サイズ|190 × 260 mm/ボードブック
ページ数|76ページ
価格|47.5ユーロ
2013年刊
※2014年入荷予定。問い合わせはtwelvebooksまで。

03

 ロンドンで見つけたアフリカ

twelvebooks|Nov. 2013 27

先述の「ファースト・フォトブック・アワード」で最終審査に残った20作品のひとつが、イタリア生まれの写真家、ロレンツォ・ビットゥーリの『Dalston Anatomy』だ。

立体と平面のあいだを自由に行き来するビットゥーリ。今回の制作現場は、ロンドンにある「リドリー・ロード・マーケット」である。アフリカ系移民の憩い場として有名なこの市場で、目を引いた人やオブジェを次々と写真に収めては、今度はそこからインスピレーションを得た立体作品を制作。レイヤーのように重なり合ったビビッドな写真と立体、そしてサム・バークソンの詩が、リドリー・ロード・マーケットが放つ空気感を、さまざまな角度から伝えてくれる。

『Dalston Anatomy』
作者|ロレンツォ・ビットゥーリ(Lorenzo Vitturi)
出版社|Jibijana Books / SPBH(www.selfpublishbehappy.com)
サイズ|190 × 260 mm / ビスコテックスカバー付きハードカバー
ページ数|168ページ
価格|40ポンド
2013年刊
※2014年入荷予定。問い合わせはtwelvebooksまで。


濱中敦史|HAMANAKA Atsushi
twelvebooks代表。2010年3月、現代写真を中心に、独自のスタイルをもつ出版社やアーティストの活動をプロモーションするプラットフォームとして、「twelvebooks」を設立。洋書や洋雑誌の国内流通を手がけるほか、写真展の企画や選書、ディレクションまで、書籍やイメージに関わる活動を展開する。www.twelve-books.com

濱中敦史|HAMANAKA  Atsushi

Photo by Daisuke Hamada

           
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