BOOK|「スマート日本」宣言
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2015年5月27日

BOOK|「スマート日本」宣言

BOOK|「スマート日本」宣言

電力とのあたらしいつきあい方を提示

3.11後、次世代エネルギー関連の書物は玉石混交、数多く出版されている。8月に出たばかりのこの『「スマート日本」宣言』の特異な点は、3.11後の状況を踏まえながらも理想論を徹底的に排し、あくまで客観的事実に基づいた今後のエネルギー情勢を提示しているところだ。

Text by OPENERSPhoto by JAMANDFIX

「ピークシフト」と「ネガワット」

著者のひとり、村上憲郎氏は前グーグル日本法人名誉会長で、ウェブメディアを中心にスマートグリッド推進を早くから提唱してきた人物。ITというスマートグリッドには欠かせない要素を知り尽くした立場から、次世代エネルギーの分野で影響力を強めている。もう一人の福井エドワード氏は、環境技術ビジネスへの投資業務をおこない、『スマートグリッド入門』という著書もある人物だ。

ここで主に語られるのは、ピークシフトの問題である。ピークシフトとは、夏の日中の1時間ていど来る電力使用のピーク時を避けて電力を使えば、3.11後叫ばれている電力危機は解決できるというもの。いま電力不足といわれているのは、あくまでピーク時の電力量のことで、昼のある時間に、電力会社が発電できる供給量を、われわれが使用する需要量が上まわってしまうことで停電が起きる。言い換えれば、ピーク時の危機さえ避ければ、電力は十分に足りているということだ。たとえば、2008年の国内全体での消費電力量は平均で約110ギガワットだったのに対し、日本の最大発電容量は約220ギガワットで、倍もある。原子力発電ぶんを除いても175ギガワットだから、それでも65ギガワットも余裕がある。

そしてネガワットという考え方が、自由経済のなかでそのピークシフトを活発にするのに有効だという。これまでは、夏の電力消費が増加するある一時期に余裕をもって電力を供給するために発電所を作ってきた。ピークシフトを促すためには、あらたな発電所建設を止め、その資金をピークシフトをおこなうユーザーに還元する。それがネガワットだ。ピーク時のわずかな時間の節電でうく電気代はわずかなので、それ以上のうまみとして、電力会社はこれまで発電所建設に投資していた資金を、節電したユーザーにまわすというわけだ。

そのような経済合理性に基づく仕組みのなかで、どのようなエネルギーが今後生き残っていくのか。電力を自由化すればいずれ明らかになる、というのが本書の態度だ。脱原発、反原発と切り離して冷静に語られる本書は、説得力に満ちている。

「スマート日本」宣言 経済復興のためのエネルギー政策
著者|村上憲郎 福井エドワード
発行|アスキー・メディアワークス
価格|780円

           
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