ART|エスパス ルイ・ヴィトン東京 『Madness is part of Life』
LOUNGE / ART
2015年5月27日

ART|エスパス ルイ・ヴィトン東京 『Madness is part of Life』

ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO|エスパス ルイ・ヴィトン東京

Madness is part of Life

ルイ・ヴィトン表参道ビル7階のアートスペース、「ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO」では、9月29日(土)から1月6日(日)まで、『Madness is part of Life』展が開催されている。今回は、リオ・デ・ジャネイロを拠点とする、ブラジルの代表的現代芸術家、エルネスト・ネトの作品を展示。ところが、今回は美術の展覧会というよりも、どこかアトラクションのような様相を呈している。

Text by SUZUKI Fumihiko(OPENERS)

東京に浮遊する

漁師の使う網のようなもののなかに、ゴムのボールのようなものがぎっしりとつまり、ソーセージのような形になって、それが、エスパス ルイ・ヴィトン東京のひろいスペースで、ハンモックのように天井からぶらさがったり、床のうえに置かれていたりする。

天井からぶらさがっているほうは巨大で、空中にできた通路のようになっているのだけれど、実際に乗って、その通路をすすんでいくことができる。

ずんずんと、その、いささか不安定な、ソーセージ状の上をすすんでいくと、高さはだんだん増してゆき、円形の、ちょっとした居間みたいなところに到達して終着点となる。天井と床のちょうど真ん中、あるいはそれよりちょっと天井にちかいくらいの高さだ。

かくして、ちゅうぶらりんになって、むこうの3辺をガラス窓に囲まれた、周囲を見渡す。これはもう、表参道の空中で、雲にでも乗ってしまったかのようで、どうにもならない。なにせ、いま乗っているこのソーセージ状のものが、彫刻であり、今回の作品だというのだ。しかし、それに乗っかってしまっている以上、それを外側から見る、という視点は、もはや持ち得ない。エスパス ルイ・ヴィトン東京の今回の展示は、そういうものだ。我々が慣らされている西洋的な、彫刻という物質を、外側から眺める、という作品との関係は、ほとんど成立しない。そもそも見られる、ということを、この作品が意識しているかどうかもあやしい。

もはや手も足もでない、不安定な足場の上で、あたかも垣網にとらわれたサカナのような状態になって気づくのは、逆説的なようだけれど我々は自由だ、ということだ。我々次第で、この作品との付き合いはどうとでもなる。作品にのっかって、なにをしていても、なにを感じていてもいい。

後に、この作品の作者が語ったところによると、こんなふうに東京の上空に浮遊し、自分という生き物や、周囲の環境と対面する、そんな感覚こそが、作者の意図したところだったようだ。

ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO|エスパス ルイ・ヴィトン東京 Madness is part of Life

A vida é um corpo do qual fazemos parte, 2012 TorusMacroCopula, 2012 By Ernesto Neto
©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

人間は自然なものだ

日本人がいうのもいささか奇妙な話ではあるが、このまったく異文化的な彫刻を生み出し、今回、表参道の空間に設置した芸術家の名前は、エルネスト・ネト。世界的に高い評価をうけている、ブラジルを代表する現代芸術家だ。現在はリオ・デ・ジャネイロを拠点に活動している。日本でもその作品はこれまで何度も紹介されているので、ご存知のかたも多いだろう。

若かりし頃は、宇宙飛行士になりたかったというネトは、人間が動物とおなじようにもつ肉体、身体性、そして、肉体が必然的にもつ重力をテーマにした作品で知られ、多くの作品が柔らかい素材によってつくられる。また、今回の展覧会もその一例だが、作品の作成だけでなく、キュレーション、作品を空間のなかにどう置くか、についても自らがおこない、空間そのもの、場の空気を主題とすると本人は語る。

ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO|エスパス ルイ・ヴィトン東京 Madness is part of Life

Ernesto NETO|エルネスト・ネト
©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO|エスパス ルイ・ヴィトン東京 Madness is part of Life

A vida é um corpo do qual fazemos parte, 2012 TorusMacroCopula, 2012 By Ernesto Neto
©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

柔らかい素材の使用も、作品の内部にはいれることも、空間との調和、空間を訪れた者に身体を自覚させる手法から必然的に導かれているのだろう。

ところで、今回の展覧会は『Madness is part of Life(狂気は生の一部)』というタイトルが与えられている。この「狂気」は、作者の説明によれば、異常な現象ではない。ネトの語るところによると、自らをコントロールし、合目的に行動するという、安定した状態は、人間の本質的な状態ではない。人間は、社会的な生き物としての埒からあふれでるもの、もっと非合理的で不安定な「狂気」を本質的に持つ存在だ。そして、「狂気」は万人が持つものだから、「狂気」を持つという状態においては、誰彼の区別が生まれない。人間を人間たらしめ、人間という枠組みのなかに万人をおさめるもの、それがネトの言うところの「狂気」だ。

この作品にふれて「ああ、生きるんだ」と感じて欲しいとネトは語る。それは、「ああ、自分もまた、ただの人間という生き物にすぎないんだ」という感覚かもしれない。

会期は9月29日から来年の1月6日までと長い。日にちや時間をかえて、東京の上空に浮遊し、さまざまな東京の表情と、自由な自分自身を感じることができる、贅沢な機会だ。

Madness is part of Life
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル 7F
日程|2012年9月29日(土)~1月6日(日)
時間|12:00~20:00
電話|03-5766-1094
Web|www.espacelouisvuittontokyo.com

エルネスト・ネト

©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat

Ernesto NETO|エルネスト・ネト
1964年生まれ。故郷、リオ・デ・ジャネイロに在住し活動中。パルケ・ラージ視覚芸術学校、リオ・デ・ジャネイロ近代美術館で学業を修める。1988年以降、毎年、個展を開催し、1996年、シカゴのZolla-Lieberman Galleryでの個展をきっかけに、世界的な名声を獲得した。2001年、ヴェネツィア・ビエンナーレではブラジルを代表。この10年弱のあいだに、50あまりの展示会に参加し、注目を集めつづけている。作品は、金沢21世紀美術館、原美術館、東京都現代美術館といった日本の美術館を含む、世界中の美術館でコレクションにくわわっている。

           
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