Secrets behind the Success|連載第11回「ヴァシュロン・コンスタンタン」CEO ホアン-カルロス・トレスさん
ビジネスパーソンの舞台裏
第11回|ホアン-カルロス・トレスさん(「ヴァシュロン・コンスタンタン」CEO)
創業260年の老舗ブランドを継承する心得(1)
ビジネスで成功を収めた成功者たちは、どう暮らし、どんな考えで日々の生活を送っているのだろう。連載「Secrets behind the Success」では、インタビューをとおして、普段なかなか表に出ることのない、成功者たちの素顔の生活に迫ります。
高級腕時計ブランド「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、1755年創業。世界最古の腕時計ブランドとして、来年の2015年には、260周年を迎える。そのブランドのトップを務めるCEO、ホアン-カルロス・トレスさんが、銀座ブティックのオープンのために来日を果たした。老舗高級時計ブランド、ヴァシュロン・コンスタンタンを成功に導く指導者の哲学に迫ります。
Photographs by NAKAMURA Toshikazu (BOIL)Text by KAKIHARA Takayoshi(OPENERS)
腕時計好きが出会った老舗ブランド
――どれくらいの頻度で来日されるのですか?
日本へはもう15回以上、来ていますね。今回は、銀座ブティックオープンと視察を兼ねて来日しました。1年に1度は、日本に来ている計算になります。日本ほどブランドを深く理解してくださる国はありません。
私は、ヴァシュロン・コンスタンタンの代表として1年のうち、200日以上をスイス国外で過ごすことが多いですね。世界の多くの人と対話を持つ時間はとても貴重ですし、新商品のアイディアなど役立つことさえあります。
――日本に来てどんなことを感じますか?
ヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計はブランドのコンセプトに基づいて、ディテールやフォルムに至るまで緻密に作り上げていきます。ほかの国と比べて、日本はそうした微妙なモデルの哲学やコンセプトを楽しむかたが多い国です。きっと、心に秘めた情熱をお持ちの方が多いからなのでしょう。日本は、そうした私たちのモノ作りのよき理解者といえると思います。
――ふだん愛用している腕時計はなんですか?
もちろん、ヴァシュロン・コンスタンタンを愛用しています(笑)。実はこの時計は世界に1本しかないんです。私がヴァシュロン・コンスタンタンに入社したのは、1981年でした。当時、私は経理担当者として働いていました。時計が大好きだったので、仕事帰りに時計師たちとスイスのおいしいワインとチーズとともに時計談義に花をさかせたものでした。
やがて30年の時が立ち、多くの時計技術者たちが定年退職したり、ヴァシュロン・コンスタンタンを退社していきました。そんなある日、本社の3階に呼び出されると、多くの人が、部屋に集まっていました。そのなかには、入社当時にワインをくみ交わした、懐かしい面々も揃っていました。そこで「社長就任おめでとう」という言葉とともにこの時計が手渡されたのです。
裏側のローターには、スイス・ジュネーブの旗と私の祖国であるスペイン・バルセロナの旗が刻まれていました。後から聞いた話ですが、労働時間外にもう既に退社した職人たちも混ざって、この腕時計をコツコツと作り上げてくれていたそうです。
ビジネスパーソンの舞台裏
第11回|ホアン-カルロス・トレスさん(「ヴァシュロン・コンスタンタン」CEO)
創業260年の老舗ブランドを継承する心得(2)
いちばん大切なのは、「謙虚さ」
――ビジネスで成功する秘訣はどんなことだとお考えですか?
私は、成功者ではありません。ただ時計師と時計が大好きな方たちへの使者として存在をしているだけなのです。しかし、ひとつだけ心がけているのが、「謙虚さ」と「自分が任された責任を理解すること」です。
現在、確かにヴァシュロン・コンスタンタンの最高責任者(CEO)ではあります。しかし、私はヴァシュロン・コンスタンタンの260年の歴史と比べれば、本当に小さな存在です。私たちの腕時計は、100年後もアンティークとして、生き残っていることでしょう。しかし、100年後に私の存在は、忘れ去られているでしょう。だからこそ、「謙虚」であり続けて、お客さまとブランドのために献身しなければならないと考えています。
フランスのことわざに「頭でっかちであるよりも足長でないといけない」という言葉があります。いろいろな考えを巡らすことよりも地に足をつけて、客観的に「自分が任された責任を理解すること」がとても大切だと思っています。
――具体的には、何をすればいいのでしょうか。
常に聞く耳を持っていることが重要ですね。世界のメディアのみなさんからこうしたインタビューを持つことが多いのですが、予期しない質問をされることもあります。拒絶するのは簡単ですが、新しい意見を聞く機会ととらえ、そうした声をひとつひとつ大切にしながら、最終的には自分の決断を下していくことが、最善の方法と思っています。
私がビジネスで参考にしているのは、流行のマーケティング会社から寄せられるリサーチデータだけではありません。常に時計を作る職人たちにも意見を聞いてみます。もちろん、新製品の技術的なことに関しても意見を尋ねるのですが、新しい広告戦略などに至るまで時計師たちに意見を聞いてみます。小さな意見かもしれませんが、技術者とお客さまという立場の違いはありますが、時計が大好きな人たちの貴重な意見だと感じているのです。
――いちばん癒される瞬間はどんなときですか?
南フランスに別荘があるのですが、そこでひとりで過ごすときは、まさに至福の時ですね。自然に囲まれた庭でまず、本をゆっくりと読みながらワインと葉巻を楽しみます。それが、前半の休日の過ごし方です。後半は、村のマーケットで食材を仕入れてきます。そして友人を呼んで、私が作った食事をみんなで楽しむのです。
ビジネスで国外で過ごすことが多いので、プライバシーを家族や友人とゆっくり過ごすことは、このうえない贅沢な時間だと思っています。
――今後の抱負をお聞かせください。
2015年は、これまで以上に忙しい年になりそうです。260周年を迎えるにあたって、数多くのイベントと新製品リリースが控えています。まずは、2015年に開催されるSIHHでの新作発表でしょうね。創業日の9月17日には、盛大なパーティを予定しています。残念ながら、社員だけを集めたパーティなので、一般の方は入場できません。これまで働いてくれた仲間たちと、現在、過去、未来を語らいたいと思っています。
Juan-Carlos Torres|ホアン-カルロス・トレス
956年7月3日、スペイン・バルセロナ生まれ。1981年に世界最古の高級時計ブランド、ヴァシュロン・コンスタンタンに入社。以来、同社の伝統の技術や哲学を学ぶ。2005年10月には、ヴァシュロン・コンスタンタンのCEOに就任。ヴァシュロン・コンスタンタンのトップクラスのサービスとモノ作りに貢献。また現場を知るCEOとして時計師からも慕われている。現在では、世界約80カ国、315の正規取扱店で販売されている。
ヴァシュロン・コンスタンタン 銀座 ブティック
ヴァシュロン・コンスタンタンの日本初の直営ブティックが、銀座にオープン。140平方m以上の店舗には、レギュラーモデルはもちろん、日本限定モデルやハイコンプリケーションモデルに至るまで全ラインナップを取り揃える。フルビスポークと呼ばれるオーダー可能な「アトリエ・キャビノティエ」を利用して、世界にひとつのオリジナルピースを製作することも可能。
営業時間|12:00~20:00(月~金)、11:00~20:00(土)、11:00~19:00(日・祝)
定休日:なし(年始除く/12月31日:12:00-18:00、1月1日・2日:休業、1月3日:通常営業)
東京都中央区銀座7-8-8
Tel. 03-3569-1755