和醸和楽|第8回 気持ちのいい、幸せな酒を提供する「たけくま酒店」
川崎大師河原にて三日三晩の壮烈な酒呑み合戦 「水鳥記」
気持ちのいい、幸せな酒を──「たけくま酒店」
わが川崎市は東西に細長く、東に重工業地帯、西には丘陵や田園風景も残るベッドタウンが広がります。全国の政令指定都市のなかでもっとも面積が小さくとも、現在人口の増加率は全国屈指というバラエティにも富み活気のある街で、幸区紺屋町に「たけくま酒店」があります。
写真・文=和醸和楽
人の集まる場には必ず酒があります
古きは町工場に囲まれ集団就職などによっても人が増え、新しくは新築マンションの林立によりお引っ越しで人が増え……。めまぐるしく住人が入れ替わる立地のなかで、ただお酒を美味しく飲んでもらうだけでなく、お酒に愛着をもってもらいたい。そんな思いで当店は商いをつづけています。
ここ川崎にはお酒にまつわる素晴らしい史実が残っています。
今から約360年前の、慶安2年(1648年)5月。現在では「川崎大師」で有名な大師河原の開拓に成功しその名主となった池上太郎右衛門幸広(大蛇丸底深)とその一族15名、そして江戸の医者で儒学者の茨木春朔(地黄坊樽次)とその仲間17名、この江戸の酒豪たちが攻め入ってきて、川崎大師河原にて三日三晩の壮烈な酒呑み合戦を繰り広げた、「水鳥記」という物語です。
一見すると、酒量や特異な飲みっぷりなど豪快なストーリーに目がいきますが、実際には当時の酒は貴重品でもあり、その酒を目当てに人が集まって土地の開拓に手を貸したり、大きなネットワークをつくったというような社会性も垣間見えます。
冠婚葬祭問わず、現代でも人の集まる場には必ず酒があります。その酒によって人と人との距離が短くもなり、またその酒がとても旨かったら、もっと距離が縮まりいい人間関係が生まれるはずです。そんなお手伝いのできるのが酒屋という仕事です。
さて、「水鳥記」は現代に「水鳥の祭」として甦り、先の10月18日(日)には節目の第15回を終えました。
当時の扮装をまとい、化粧して街を練り歩き、大盃にて大酒を飲み干す。そこに集う人は笑顔、笑顔。こうして飲む酒がまた、気持ちのいい、幸せな酒なんです。
地酒や たけくま酒店
神奈川県川崎市幸区紺屋町92
Tel. 044-522-0022
Fax. 044-522-1551
http://www.takekuma.co.jp/