始めてます、新しいチャレンジいろいろ+α(2) 戸田恵子
始めてます、新しいチャレンジいろいろ+α(2)
進化しつづける戸田恵子ワールドについてお話を聞く第2回目は、日ごろから戸田さんが高い関心を寄せる、子どもたちのための仕事について。
新しい仕事と長くつづけたい宝物のような仕事、その両方についてアツく語ってくださいました。
まとめ=尾上そら
大人にこそ観てほしい子ども映画の祭典「キンダー・フィルム・フェスティバル」
もうひとつ、この夏から「キンダー・フィルム・フェスティバル」という映画祭の実行委員に任命していただきました。この映画祭は、世界三大映画祭のひとつであるベルリン国際映画祭の児童映画部門「キンダー・フィルム・フェスト・ベルリン」ディレクターのレナーテ・ツィラさんをディレクターとし、ベルリンに出品されたなかから、さらに日本で紹介するべきと思われる作品を厳選し、毎夏上演しているもの。今年で16回目の開催でした。会場は40社以上の映画関連会社がある、映画の街・調布市の「調布市文化会館たづくり」と「グリーンホール相模大野」、そして「青山円形劇場・こどもの城」の3ヵ所です。
私は、お仕事をいただいて初めて映画祭の存在を知ったのですが、本当に素晴らしい作品が世界中から集められていて感激しましたし、活弁士のように、声優が外国作品をその場で吹き替えて字幕の読めない子どもたちにも楽しめるような企画や、声優体験ワークショップまであるんです。
私も初めての体験だったのですが、手探りしながら『わすれられないおくりもの』と『マレーネとフロリアン』という、短編アニメ2作品をその場で吹き替えさせていただきました。
とにかく素晴らしいのは、出品映画がバラエティ豊かなこととクオリティの高さ。拝見して思ったのは、もちろんどれも子どもたちにわかるような言葉や演出が選ばれていましたが、大人にも、いえ大人にこそ観てほしいと思える映画ばかりだったのです。
新しい友達との出会い、大切な人を亡くしたときの気持ち、戦争で引き裂かれてしまう人と人との絆、芸術の喜び、想像力の素晴らしさ……。長編・短編・実写・アニメーションに関わらず、どの作品にもそんな大切なメッセージが一杯込められていて、心の底から揺さぶられる作品ばかり。ウケなんかに関係なく、本当に大人から子どもに伝えたいことがそこには焼き付けられている。そんな風に感じられました。
この映画祭なら、親子一緒に楽しめるはず。以前からチャリティやボランティアには関心があり、自分にできる小さなことからやろうと心がけていましたが、お仕事を通してまた素敵な世界に出会うことができました。16回もやっているのに、私から見るとまだまだ認知されていない印象。運営委員会にしても、心ある有志の方が支えている状況で、まだまだ多くの人に知ってもらわなければと初めての映画祭を終えて思いました。
来年からは、いろんな場所に出かけて宣伝のお手伝いをしたい。また、長くつづけたいと思えるお仕事に巡り会えました。
「宝物」との出会いから20年が経ちました
新しい仕事ではありませんが、この夏は私にとって大切な作品のメモリアル・イベントもありました。
『それいけ!アンパンマン』がテレビアニメ化20周年を迎えたのです! 放送開始時に産まれたお子さんが成人してしまう時間……、すごいことですよね、始まった当初には誰も想像していなかったのではないでしょうか。20年前の私は、『機動戦士ガンダム』のマチルダの声などを担当していて、お話をいただいたときは正直いいますと「なぜ、この丸いキャラクターを私に?」ととても不思議に思ったのです(笑)。
20年前のことなので、もはや人づてに聞いた伝説のようなお話ですが、アンパンマン役はなかなか決まらず、シリーズが始まって最初の監督の方が「心当たりがある」と、私の声の仕事を引き合いに出してくださり、原作者のやなせたかし先生も気に入ってくださったのだとか。
このときの録音監督には本当にお世話になり、番組が5年10年とつづくなかで、声優たちとは家族のようにお付き合いさせていただきました。残念ながらお亡くなりになったのですが、今は同じ仕事をしていらした息子さんが跡を継いで『それいけ!アンパンマン』を監督してくださっています。それに初代監督のお名前は、今も作品にクレジットされているんですよ。
やなせ先生はアンパンマンについて最初に、「カッコ悪いヒーローなんです」とおっしゃいました。たしかにアンパンマンは、顔がちぎれると弱くなってしまうし、すぐヘロヘロになってダメなところも一杯ある。でも、そういうアンパンマンの姿を通して先生は、「人を助けるのは簡単ではないし、ただカッコイイだけのことでもないんだよ」という、とても大切なことをおっしゃっている気がするんです。
私自身に置き換えて考えても、誰かに真剣に気持ちを寄せたり、受け止めたりするだけで、疲れたりボロボロになることは普通にある。自分にマイナスだとわかったうえで、それでも他人に何かしたいと思うことがどれだけ難しく、その分大切なことなのかを『それいけ!アンパンマン』という作品は、さりげなく暖かい雰囲気のなかで伝えられる作品なのではないでしょうか。
私、第一回放送の台本のなかにある台詞を読んで、泣いてしまったことがあるんです。ジャムおじさんがアンパンマンに助けてもらい「お前には力がある。勇気も優しい心もある。ありがとう、アンパンマン」というと、アンパンマンが「ボク、胸のなかがとってもほかほかしてるよ。人を助けるって、こんなに胸があったかくなるものなの?」とジャムおじさんに言うんです。ジャムおじさんも「そうさ! 大きくなったらきっとみんなの役に立つことができるぞ」と答える。もう、たまらなくなってしまって。
この作品のなかには、計算や打算というものがないんです。たとえば、パンを焼くのは誰かに美味しく食べてもらうため。困った人がいれば助ける。ちょっと悪いことをするキャラクターもいるけれど、最後は皆で共存していく。
シンプルだけれど、人が生きていくために必要な根本が描かれている作品。『それいけ!アンパンマン』は、私にとっての「宝物」です。20年経った今、改めて思います、「よくぞ、私のところへ来てくれた!」と。そして、これからも、ずっとずっとよろしくお願いします。
New Single
10月15日発売
『泣き唄』(作詞:秋元 康/作曲:杉山勝彦)
『Again~and Again~』(作詞:K-co/作曲:植木 豪)
ビクターエンタテインメント
1200円