坂本龍一 第9回 「禁煙」について言いきる
第9回 「禁煙」について言いきる
スモーカーの居場所が日に日になくなっている昨今、
肩身の狭い思いをしながらもタバコをやめられないひとも多いはず。
禁煙に成功した教授は、どうやって煙とおさらばしたのか?
文=坂本龍一Photo by Jamandfix
小学5、6年生の時に好きになって以来、
私の価値観に大きな影響を与えている坂本さんに質問です。
2005年の福岡でのコンサートで、タバコをやめたと聞きました。
自慢の肌にいままでなかった悩みが出てきた30代後半……
本気でタバコをやめたいのですが、やめられません。
ヨガや呼吸法を学び、少しは生活を改善したつもりなのに、タバコはやめられません。
たしか坂本さんは、お友達に紹介された東洋的施術がキッカケでしたよね?
実際にやめられたのは、その効果だと思いますか?
それとも意志の強さだと思いますか?
そもそも、坂本さんにとってタバコはやめたかった代物ですか?
木の葉の意志
はっきり言って、ぼくの意志は非常に軽いので、昔から「木の葉の意志」と言われてきました。
しかし、長年タバコを吸ってきて、胸が苦しいことが多くなり、自分でも「やばい」と思い始めましたが、前述のように意志が弱いので、自らの意志でやめるのは無理だろうと諦めていました。
ある日、ヘビースモーカーで有名な友人のローリー・アンダーソンに会ったら、なんとタバコを吸っていないのです。ぼくは驚いて「何があったんだ、ローリー?」と叫びました。するとローリーは「世界で一番まずいお茶でやめたのよ」と言うではありませんか。
ぼくはすぐにその世界で一番まずいお茶をくれるという、ニューヨークの中国人女医さんのところへ飛んでいきました。そして「ぼくにも、その世界で一番まずいお茶をください!」と懇願しました。
するとその漢方医は「お茶じゃないのよ。ローリーがタバコをやめられたのは、針なのよ。煎じたお茶は補助的なものよ」と言うので、ぼくは痛いのは嫌だなと思いながらも、すぐに針治療をお願いしました。
身体が抵抗して吸えない
2日に1回のペースで通っていたのですが、なかなかやめられません。約1時間の針治療を受けても、治療院のドアを閉めたとたんにタバコを口にしていました。
9回通ってもやめられないので、「あと1回通ってもだめだったら、諦めよう」と決めて10回目の治療に行きました。終わっていつものようにドアを閉め、すぐにタバコを吸おうと口にもっていくのですが、なんと身体が嫌がって吸いたがらない。
「な、なんだ、これは?」
気持ちは吸いたいのに、身体が抵抗して吸えないのです。それ以来、ぼくはタバコを吸ってません。
ここからぼくが学んだのは、マインド(心)とはいかに保守的なものかということです。
それに対し、身体は常に変化する。環境が変わればそれにつれて変化する。
針はぼくの身体の内的環境を変えたのです。
スタイリング|櫻井賢之
グルーミング|ふじた まゆみ(ビタミンズ)
衣装協力|ランバン ジャパン(Tel.03-3289-2782) ニットジャケット21万5250円、ポロシャツ12万8100円、ネクタイ4万5150円、トラウザーズ21万7350円
撮影協力|TIME & STYLE EXISTENCE(Tel.03-5464-3205) VALLEハイチェア3万9000円