第7回 京都の豆腐はうまい(1)「いわゆる豆腐料理の店ではなくて」
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2015年3月4日

第7回 京都の豆腐はうまい(1)「いわゆる豆腐料理の店ではなくて」

第7回 京都の豆腐はうまい(1)
「いわゆる豆腐料理の店ではなくて」

京都で豆腐といえば……南禅寺?
いやいや、もっとおいしい豆腐が食べられるんです。
どこで?
ほら、そこの豆腐屋の……。

文=矢貫 隆写真=有本真紀

毎日のように豆腐を食べてます

「京都ってどうなんですか?」
京都に移り住んだと聞くや、多くの知人は僕にこう訊ねたものです。
どういうわけか、まるで具体性のない漠然とした質問のしかたをしてくるんですね。

聞かれた僕は、決まっていつもおなじ答えを返します。
「豆腐がうまい。毎日のように豆腐を食べてます」
本当です。京都の豆腐は、とにかくうまい。東京で暮らしていたころはほとんど食べなかった僕が、いつもいつも豆腐を食べるようになりました。

京都の豆腐はうまい。
それは間違いありません。ですが、僕が言うところの「京都のうまい豆腐」とは、南禅寺や清水寺や嵯峨野あたりの、いわゆる豆腐料理の店のそれではありません。商店街の豆腐屋さんの豆腐のことです。

東京から5人の古い友人が京都観光にやってきました。
「きれいな庭を見ながら、おいしい豆腐料理が食べたい」
いかにも観光客らしいリクエストでした。
3000円くらいの豆腐懐石コースを注文すれば希望通りになる。彼らはそう目論んで、僕に有名な豆腐料理店へ案内しろと言うのでした。

第7回 京都の豆腐はうまい(1)<br>「いわゆる豆腐料理の店ではなくて」

なに、これッ!?

よっしゃ、わかった。
僕は安請け合いし、彼らがチェックインしたばかりの駅前のホテルからはそう遠くない「東福寺」で待ち合わせをしました。僕は映画を見ていませんが『愛の流刑地』で豊川悦司と寺島しのぶが初めて出会う場所です。

豆腐とは関係ありませんが、40年ぶりに会う友人(女性)は、哀しいくらい変わり果てていました。
「うわ-ッ、矢貫君、見るかげもないね」
彼女もおなじように思ったようでした。

僕は、家の近所の豆腐屋さんで買った「湯葉かけ豆腐」を持参しました。豆腐を生湯葉で包んだ湯葉かけ豆腐。専用のタレをかけて食べます。箸も用意してきました。

「東福寺の庭を見ながら、湯葉かけ豆腐を食べて」
予想もしていなかった展開に5人の友人たちは少し面食らったようでしたが、ベンチに腰かけ、すぐに食べ始めました。

ひとくち食べて、
「なに、これッ!? すごくおいしい」
そやろ。
京都の豆腐屋さんの豆腐は、本当においしいのです。

(つづく)

           
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