リンボウ先生openersインタビュー(2)
リンボウ先生openersインタビュー
恋と歌を大いに語る 第2回
interview&text by TAKEDA Nanakophoto by IDEGUCHI Keiko
演劇的組歌曲『悲歌集』作詩の動機
──明治以来のこういった日本歌曲におけるあり方が、『悲歌集』をお作りになった動機というわけですね。
「いくつもアイデアがあったんです。万葉集の相聞歌をテーマとしようとか、日本文学の恋物語的なものにしようとか、いろいろ作っては捨て、作っては捨て。そうしているうちに、人の世界を借りてきたのでは切実なものはできないだろう、もっとエモーショナルなものを書こうと思いました。そうでないと詩にならないんです。きれいごとにするのはよそう、と。
野平一郎さんという希有な天才作曲家に本気を出させるにはどうしたらいいか。それには彼がみて、『え?これを私が作曲するのか』というものをぶつけないと、と思ったんです。野平さんにも一汗流してもらいたい。それまで彼の手中になかったものを与えられた時に、新しいものが生まれると思ったんです。
こういうものを出せば、私だってただじゃすまないぞということだからね。切れば血の出るようなものを人にみせてこそ、文学じゃないだろうかと思うんです。文学としてのテキストに音楽がつく、そうしてこそはじめて、新しい日本歌曲の世界が一歩進められるんじゃないかと思います。」
──今年の5月に、津田ホールと静岡音楽館AOIで再演されますね。
「この曲はものすごいヴィルトゥオージティーを要求するもので、現在日本では、初演時の音楽家たちにしか演奏できません。毎日新聞の梅津さんが、この歌曲を高く評価してくれて『久々に現れた日本歌曲の傑作だ』と昨年末に書いてくださいました。」
──野平さんの曲によって、林先生の思いはどこまで音楽に再現されたと思っていますか。
「僕の詩と野平さんの世界に多少のずれがあってもそれは当然のことです。つまり野平さんの恋愛観が曲に反映されるんですね。違う個性がぶつかりあうことで、あるテンションが生まれる。どんなことを書いても『世界の野平』がちゃんとボールを投げ返してくるだろうと思いました。そういう信頼がないと思い切ったことはできないよね。すごくよかったと思います、そういう意味では。」
──この中には女性側からの歌が曲あります。
「良く言われるんです、『どうして女の気持ちがわかるんですか』と。ある意味、僕自身、両性具有的なところがあるのかもしれませんね。なにしろ以前『私はおんなになりたい』という本を書いたくらいですから(笑)。」
──「悲歌集」をどのように人々に受容してほしいと思っていらっしゃいますか。
「多くの人たちにとって、オペラや歌曲は、上手な人が美しく演奏するのを聞いて感激して涙が出たり、カタルシスを味わったりするもの。僕は自分の歌を、そのように受容してほしいと思っているんです。」
──あるいは、これを聞くことによって人間が潜在的に持っている「性(さが)」のようなものに目覚めてほしいという思いはありますか。
「それはありますね。みなさん、社会常識などで、自分の正直な思いを押さえている。もっと人間って即物的、エロス的な衝動をもっているはずです。この歌集を聞いて『あ、これもありだな』と思ってもらえれば、私は嬉しい。」
(3)に続く
演劇的組歌曲『悲歌集』再演予定
2007年5月30日(火)津田ホール
2007年6月1日(金)静岡音楽館AOI