特集「医療をひらく!」 プロローグ|ナビゲーター 斎藤糧三先生
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2015年5月12日

特集「医療をひらく!」 プロローグ|ナビゲーター 斎藤糧三先生

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特集「医療をひらく!」では、ナビゲーターとして、私たちをこれからの医療の世界へといざなってくれる、斎藤糧三(さいとう・りょうぞう)先生。機能性医学は、誕生してまだ20年あまりの新しい医学。斎藤先生は6年前にアメリカでこの医学に出合い、自らの身体の不調も治したことで感銘を受け、日本でも普及させようと日々奮闘している。

Text & Photograph by TANAKA Junko (OPENERS)

慢性疾病を“根こそぎ”解決!?

―医療のなかでも、次世代の医療に興味をもたれたのはなぜですか?

父親が産婦人科医で、ホルモン療法をやっていたんです。いま日本に普及している医学のなかで、唯一、保険適用のあるアンチエイジング治療がホルモン療法だと思いますが、それを約50年前からやっていたのが父親でした。その考え方をもっと追及したい、海外の考え方も勉強したいという思いで、アンチエイジングの分野に入っていきました。

私がアメリカに行きだしたころ、ちょうど世界的にもホルモン補充を中心にしたアンチエイジング治療が真っ盛りのときで。それを習得しながら、同時に日本ならではのいい部分も取り入れながら、治療を確立していったんです。

そのうちに、病気にはなってないけど健康じゃないっていう状態の人がじつは大勢いて、そういう病気の前の「代謝」のところをちゃんと整えないと、アンチエイジングも砂上の楼閣(ろうかく)になるし、もっといろいろやらなきゃいけないってことが、勉強しているうちにわかってきたんです。最近はホルモン療法に加えて、そういう栄養とか生活環境とか、生活習慣とか整えるためにどうするかということを中心に治療にあたっています。

―そこから「機能性医学」を学ばれることに。なにかきっかけがあったのでしょうか?

個人的な体験がきっかけでした。数年前、カビた薫製を食べたことが原因で、腸を悪くしてしまった時期に、足裏とか手にジュクジュクができて、最後には膝まで痛めてしまったことがありました。それは、当時日本で主流といわれている医学では、治療どころか病態として取り扱うことすらできない分野だったんです。対症療法には、全身の病気を治すのにお腹の調子を整えるっていうアプローチはないんですね。

ちょうどそのころ、アメリカで受けたアンチエイジングのセミナーで「機能性医学」との出合いがありました。そこではまさに、腸内環境ないし腸が乱れると、全身が疾患状態になってしまうという話が展開されていて。そこを整えれば慢性疾病の根本的な解決につながるということを教えてもらって、なるほどと。日本には当時、そういった治療をしてくれる施設がほとんどなかったので、自分の手で普及させようと決意しました。2006年のことです。

―具体的にはどういった学問なんでしょうか?

機能性医学とは1990年、ジェフリー・ブランド博士が「基礎医学と臨床医学を融合し、拡大する慢性疾患の治療モデルを構築しよう」と提唱してはじまった、まだ誕生して20年ぐらいの学問なんです。

IT革命以前は研究者がみんなバラバラで、情報を仕入れる方法といったら、紙になっている専門誌しかないわけですよね。それがIT革命以降は、キーワード入れて検索かけたら、研究者の論文がズラズラッて出てくるわけです。そこで、科学の研究のスピードと情報の効率が一気に上がりました。いろんなことわかってきたし、だったらそれを統合して新しい医療を構築しようじゃないか、っていうことになったんです。

慢性疾患というのは、薬で抑えつけるだけで根本的に治療ができていないから慢性化してしまうんですよね。それに医療費の80%ぐらいが使われています。やはり、その発症原因に着目して、それを根本的に治療していくのが、コスト的にエフェクティブだし、結果的に患者さんの満足度も高い、というのが機能性医学の基本的な考え方です。

いま主流の、古典的な医療というのは診断学なんです。病名がつけばそれに応じた治療が出てくるっていう。その人の身体のなかがどうなっているか、どう導くべきか、というのは実はあまり考えられていません。それに対して、機能性医学は病態学なんです。身体のなかでどういうメカニズムの問題があって病気がつくられてきたかっていう、そこのプロセスを取りあげます。根本の根っこのところを治療しようとする対処療法なんですね。

健康を左右する血糖値とインスリン

―そこで生活習慣が重要になってくるわけですね。

そうです。産業任せで食文化も変わってきているわけです。「日本人の心はお米だ」といっても、農耕がはじまったのはまだ1万年ぐらいの話で。人類の歴史をひもとくと、250万年前ぐらいから、人類の祖先は肉食になったといわれています。肉を食べることによって脳がすごく大きくなったと。なかには、肉を食べなかった人たちもいたらしいんですけど、その人たちは絶滅してしまっているんです。250万年の歴史から考えると、生産性の高い嗜好性の高い炭水化物を人類が食べはじめたのはごく最近。いまの食生活は、そういった人類の歴史に即したものかどうか、それをいま一度考えてみることが重要なんです。

ご飯のあと眠くなる人というのは、食べ物を口にしたときに血糖値がどかんと上がって、そのあとドーンと下がっているんですよ。どういうことかというと、そんなに血糖値が上がるものを食べてもらっても対処できませんよ、ということなんです。大急ぎでそれを下げなきゃいけないってインスリンが過剰に分泌されて、今度は下がりすぎるっていう、完全に血糖値がコントロールを失っている状態なんですね。それを日々眠くなる人はやっていて、まさにそれは(人類の歴史に)即していないということなんですよね。

インスリンを出しつづけると、だんだん出なくなってくるので、糖尿病になりやすくなります。さらに、インスリンが分泌されると肥満の原因になります。インスリンが分泌されて血糖値が下がるときにお腹がすくんです。つまり、食欲が増してしまうんですね。いわゆるメタボリックシンドロームなどの肥満の問題は、すべて現代人の代謝に食生活がフィットしてないことからくる病気なんです。

―血糖値とインスリンが私たちの健康を左右していると。

冷えの原因はいろいろあるんですが、そのひとつにインスリンの分泌が関与しています。血糖値が上がったときに下げなきゃいけないってインスリンが分泌されると、自律神経が興奮するんです。自律神経というのは、本来、戦闘のときに働くべきもので。戦闘のときにどうなるかっていうと、切られるかも知れないという防衛本能が働くので、身体が末梢の血管を締めるんです。それが食事のときに血糖値が上がって、自律神経が興奮した状態になると、末梢血管の通っている足とか手の先が冷えるんです。

飢餓を乗り越えるための遺伝子回路で、通称“長寿のスイッチ”というものがあります。脂肪が燃えている状態のときっていうのは、そのスイッチがオンになっているんです。身体が錆びるといろんなところで老化が進行しますが、長生きのスイッチがオンになっていると、身体が錆びにくくなるんですね。そういった身体のメカニズムをよく考えながら、食生活や食べる栄養素を調整していくと、疾病の予防になるし、身体をいい状態に保つことができるんです。

―眠っていた機能を呼び起こすような感じですね。

まさにそうです。身体のなかの遺伝子発現を、食生活と運動などの生活習慣である程度コントロールすることができる、ということです。そうすれば、錆びにくい老けにくい身体になっていくわけです。

身体の機能を高めるビタミンD

―近年、斎藤先生はビタミンDの研究に熱心でいらっしゃいますね。ビタミンDってそんなに万能なんでしょうか?

ビタミンDというのは、もともとカルシウムの吸収に必要なビタミンという風に考えられていたんです。それがここ20年ぐらいで学問が急激に進化して、ビタミンDというのは免疫の発現をコントロールするのにすごく重要な役割をはたすということがわかってきたんです。

産業革命がはじまって、ヨーロッパやアメリカで大気汚染が大問題になったころ、地表に紫外線が届かなくなってしまいました。それまでは、太陽にビタミンDを生成してもらっていたんですが、いよいよ大気汚染で紫外線が届かなくなってしまったとき、ビタミンDが作られなくなってしまったんですね。

―ビタミンDが欠乏するとどうなるんでしょうか?

乳がんになりやすくなったり、インフルエンザにかかりやすくなったり……。つまり、ビタミンDは免疫を調整する役割をもっているんですね。身体のなかに入ってくる病原菌だったり、身体のなかにできるがんだったりは、すべて免疫がやっつけています。そういった身体の正常な機能に、ビタミンDが必要だということがわかってきたんです。

ビタミンD欠乏を解決する一番の方法は、日光浴をして自分でビタミンDを合成することです。しかし、紫外線に当たるとシミやシワができる、皮膚がんになるというリスクはゼロではありません。そんな場合は、サプリメントで補給するのが一番手軽で効率的でしょう。いろいろな意見がありますが、私は日光浴の習慣がない人が摂取する場合、1日に2000IUを目安に摂取するよう推奨しています。

いま機能性医学の学会のなかでも、ビタミンDはすごく重要視されています。身体のなかには、身体に入ってくるがんやウィルスや花粉などの抗原、いわゆる悪者の信号を受けとる細胞があって、その性質にあった反応を導きます。それががんやアレルギー反応を引き起こすわけですが、本来、一度入ってきた抗原に対しては免疫ができて、次におなじ抗原がやってきたときにはブロックする機能を私たちの身体は備えています。その免疫が暴走してしまうときがあるんですね。ビタミンDは、そういった本来ちゃんと働くべき機能がちゃんと維持できないという状態を正常に戻す、そういう役割をもっています。

―これから、ナビゲーターとして私たちを次世代医療の世界へいざなっていただきます。特集にたいする意気込みを聞かせてください。

いまは次世代のヘルスケアが求められていると思います。誤りを正したり、新しく必要な考え方を取り入れたり、そういった分野の最先端でがんばってらっしゃる研究者や臨床家をご紹介していきます。ぜひご期待ください。

saito_under

株式会社 日本機能性医学研究所
東京都港区南青山6-6-21 9F
Tel. 03-6427-7654
所属学会
 日本点滴療法研究会評議委員
 日本臨床抗老化医学会認定医
 日本産婦人科学会認定医(〜2008年)
 日本オーソモレキュラー医学会理事
 日本抗加齢学会会員
 日本水素研究会会員
 The Institute for Functional Medicine会員
 http://www.ifmj.jp/aboutus.html

           
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